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奥田亜希子の本棚

  1. 青春のジョーカー
  2. 白野真澄はしょうがない

青春のジョーカー  集英社 
 島田基哉はいわゆるスクールカーストの底辺にいる少年。密かに同級生の咲に恋しており、彼女の一挙手一投足が気になって仕方がない。家では彼女のことを思って自慰をし、その後ろめたさを解消するために、ネットゲームで獲得したモンスターを逃がしている。そんなある日、兄に連れられて出かけたバーベキューで大学生の吉沢二葉と知り合ったことにより、彼の生活が変わり始める・・・。
 男なら誰にも心当たりはあるだろうと思いますが、中学生の頃なんて常に性のことが頭の中に渦巻いていました。好きな女の子のことを考えると勉強などまったく手につきません。この作品の主人公の基哉も普通の少年とまったく変わらないどこにでもいる少年です。修学旅行での大浴場でのことが描かれますが、これも今も昔も変わりません。僕らの頃も、友人たちの成長の様子をお互いに横目で窺いながら、おとなしい友人には「お前、すごいなあ」とはやし立て、大騒ぎしながら風呂に入っていた気がします。
 題名の「青春のジョーカー」の“ジョーカー”とは、作者がいうのは“セックス”のこと。セックスを経験することが、同世代から一目置かれる切り札となるということのようです。まあ、確かにセックスを経験するということは周囲とはちょっと異なる、大人だという感じにはなりますが、だから何なんだと言いたくはなります。
 ちょっとしたことで友人になったり仲違いをしたりと、青春時代はいろいろありますが、ラスト近くである人物が言う「自分の友だちは、自分で決める」は、かっこいいですよね。 
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白野真澄はしょうがない  東京創元社 
  “白野真澄”という名前の5人の男女を描く短編集です。5人は名前が同じだけで、年齢も性別もまったく異なります。5編は、同じ名前の主人公のほか、「なまえじてん~子どもの幸せな未来のために~」という名前の付け方の本が登場するところが同じだけでストーリーの繋がりはありません。それぞれに悩む5人の白野真澄が語られます。
 冒頭の「名前をつけてやる」の主人公・白野真澄は31歳の助産師。仕事柄妊婦から性生活の相談を受けるが、自身は経験がないという女性。そんな真澄がオンラインゲーム上で知り合った男性と恋に陥るが、家にやってきた妹にはある秘密を話すことができない・・・。
 「両性花の咲くところ」の主人公・白野真澄は書店でアルバイトをしながらイラストレーターをしている25歳の男性。翻訳家の父、雑誌編集者の母、服飾の専門学校に通う妹や友人のイラストレーターと比べて自分は中途半端という気持ちを持っている。ある日、書店の店主から正社員にならないかと言われるが・・・。
 「ラストシューズ」の主人公・白野真澄は友人の婦人服店で働く56歳の女性。結婚後夫に請われて仕事を辞め、勤めていた婦人服店も店が畳むことになって辞める中、夫の言いなりに生きていた今までを振り返り、ある決心をする・・・。
 「砂に、足跡」の主人公・白野真澄は20歳の大学生の女性。中学校から交際している恋人はいるが、真面目な彼に物足りなさを感じ、アルバイト先の居酒屋に来たセレブな御曹司とも付き合っている・・・。
 表題作である「白野真澄はしょうがない」の主人公・白野真澄は大の人見知りで、大きな音も、先行きの見えない展開も、突発的な出来事も苦手で、なるべく静かに過ごしたいと思っている小学4年生の男子。ある日、真澄のクラスに転校生がやってきたことから、彼に関わって真澄は次第に変わっていく・・・。
 個人的に一番面白かったのは「ラストシューズ」です。自分がどれほど窮屈な思いを味わってきたか思い知らせたいと思った真澄が夫に取った行動が愉快です。自分も振り返れば真澄の夫と同じところもあるのではと、反省です。もう一つは表題作。表題作はまず題名が面白いです。“しょうがない”という字面だけでは後ろ向きに感じますが、逆にこれが真澄の心を軽くする言葉になります。やがて、自ら進んで行動を起こすようになった真澄に拍手喝采です。そしてそんな真澄の背中を押した翔くんにも。
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