第11回日本ミステリー大賞新人賞受賞作です。
テロリストの仕掛けた時限爆弾が、飛行機の出発の遅れのため日本へ向かう太平洋上で爆発。機長は危害へ投げ出され、大穴の開いた飛行機の操縦は副操縦士の女性パイロット高城玲子の手に委ねられる。傷ついた機体の上に私的な悩みを抱えた機関士の単純なミスが重なり、さらにはアメリカ軍による妨害による通信機器の使用不能など、これでもかというほど、新米パイロットの玲子に対し危難が降りかかります。読んでいるこちらもドキドキさせられます。
とにかく、作者の緒川さんのジャンボジェットや軍用機の知識の豊富さには驚かされます。共同通信社の記者のようですが、その資料収集能力のすごさはやはり記者という職業に依るところが大きいのでしょうか(ただ、あまりに専門的すぎてちょっと読み辛いなという点もありましたが)。
玲子が不幸な事故で亡くなった父親の跡を継いでパイロットになった才色兼備の女性で、性格的にも強い(女優でいえばジョディ・フォスターの若い頃がピッタリです)という、あまりにできすぎの設定ですが、だからこそおもしろいとも言えます。彼女のようなきりっとした女性には惹かれます。
この作品のような航空パニックものというのは、アメリカの映画でいえば大空港シリーズがありましたが、日本の小説としては珍しいのではないでしょうか。事件の背景にソ連邦の崩壊や北朝鮮問題、中南米諸国の問題など新聞記者としての豊富な知識に裏打ちされたこの作品は、日本の小説としては珍しく絵空事とは思わせない緊迫感溢れた作品となっています。 |