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荻堂顕の本棚

  1. 擬傷の鳥はつかまらない

擬傷の鳥はつかまらない  新潮社 
 第7回新潮ミステリー大賞受賞作です。
 沢渡幸(サチ)は表向きはネイルサロンの看板を上げていたが、裏では風俗嬢たちに偽の身元を提供する仕事をしていた。しかし、彼女には更に隠された仕事があった。それは追われている者をこの世から痕跡を残さずに“別世界”に送ること。そんなサチの前にメイとアンナと名乗るデリヘルに勤める二人の女の子が現れ、逃がしてほしいと言う。サチは「報酬は一人500万円、それとふたりはできない。全額揃ったらまた来なさい」と言うと、二人は憤然と部屋から出ていく。その後サチの事務所にやってきた刑事によって、メイがビルの屋上から転落死したことを知る。サチはアンナを探して助けようとするが、メイとアンナが逃げている理由には1年前に名古屋で起きた事件が関係していることを知り、真相を明らかにするために名古屋に向かう・・・。
 冒頭から描かれるように、サチはこの世界から逃げ出したい者を“別の世界”へ連れて行く特殊能力を持っています。この辺り、今村昌弘さんの「屍人荘の殺人」に代表される超現実的な特殊設定の元でのミステリーと同じといえるのですが、それ以上にこの作品は過去の出来事からある特殊な能力を有することになった女性・沢渡幸の生き様を描く作品といった方がいいです。あの若さでヤクザにも気後れしないし、脅しにうろたえることもないキャラは強烈な印象を残します。ハードボイルドな女探偵といった趣です。少女の頃あれほどの経験をしたのだから、そんなキャラになるのも当然だったかもしれませんが。
 個人的には、サチの見張り役として彼女の名古屋行きにも同行する久保寺にも惹かれます。壮絶な過去を持っているのに、過去に向き合って、今から逃げずに生きていこうとする久保寺の生き様はカッコよすぎです。
 題名にある「擬傷」とは、鳥などが我が子を守るために傷ついたふりをして捕食者の注意を自分に引き付けることを言うそうです。 
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