君のクイズ ☆ | 朝日新聞出版 |
生放送のクイズ番組「Q-1グランプリ」の賞金1000万円がかかる決勝戦で、三島玲央はクイズタレントの本庄絆と対戦していた。あとどちらかが1問取れば優勝が決まるという問題で、本庄は問題文が1文字も読まれないうちに解答のボタンを押す。誰もが早押ししようとして誤って押してしまったなと思ったが、本庄の口から思わぬ回答が発せられる。もう一度本庄が同じ言葉を口にすると、正解を示すピンポンという音が鳴る。本庄はどうやって問題文が1文字も読まれないうちに正解を言うことができたのか。やらせ疑惑の中、本庄は姿を消し、賞金1000万円も返上する。三島は、なぜ本庄が解答できたのか、自ら調べ始める・・・。 伊坂幸太郎さんがこの作品を絶賛しているということを聞いて、さっそく読んでみました。昨今、テレビでクイズ番組は大流行。この作品中にも名前が出てくる伊集院光さんや、ロザン宇治原さん、カズレーザーさんなどの芸能人は本業よりはクイズ番組の回答者としてよく顔を見るという感じです。 また、今ではクイズに関わる会社を設立した伊沢拓司さん(参考文献の中にも彼の著作がありましたね)のように、東大生がクイズ番組に引く手あまたの状況になっています。でも、この作品では、クイズを勝ち抜くためには、単に知識量の多さ・記憶量の多さだけではなくボタンの押し方や駆け引きが必要とされることが描かれており、「なるほどなあ~」と納得させられます。クイズ番組の中で実際に目にする、「どうしてあそこまでの問題文で正解を導き出すことができるのだろう」という疑問も丁寧に三島の口から語られていて、クイズ番組の裏が明らかにされるようで、面白かったです。 事件が起きるわけではありませんが、三島が本庄がなぜ「ゼロ文字押し」できたのかを考えていく過程は、まさしくミステリーの謎解きと同じです。 ラスト、謎は明らかにされますが、それでも「自分はクイズが好きなだけのオタク」であろうとする三島に拍手です。 |
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地図と拳 ☆ | 集英社 |
第168回直木賞受賞作で、「このミス 2023年版」国内編では第9位を獲得しています。 日露戦争前夜の1899年から1955年まで、満州の架空の街を舞台に新しい国として成立した満州国の消滅の物語が日本人、中国人、ロシア人と様々な人々の視点で描かれていきます。 とにかく、視点となる登場人物が多い上に、その視点人物たちも途中で退場してしまうなど、いったい誰が主人公なのかわかりません。誰もがそう思うようで、作者本人はインタビューでの主人公は誰かという質問に答えて、「あえていえば主人公は李家鎮という都市です」と述べています。 唯一、最初から最後まで登場するのが細川という、ロシアの動静を探るために茶商人として満州に潜入した陸軍軍人の高木の通訳として雇われた、その当時21歳の大学生だった男です。冒頭では高木から“役に立たない”と思われていた細川が、この物語の中で大きな役割を担います。彼はやがて満鉄職員、そして自分で戦争構造学研究所を興して10年先の未来を想像します。そんな細川をはじめ、地図の魅力に取りつかれ、地図に描かれた存在しない島を探し海を渡った須野、その息子であり都市づくりに命を懸ける明男、ロシア人神父のクラスニコフ、不死身の体を持つ孫悟空を名乗る男、その娘である抗日運動家の孫丞琳らが数奇な運命の中で複雑に関わり合う群像劇となっています。個人的には盲目的に日本の正しさを信じ、天皇のいわゆる玉音放送を敵の工作だと言って徹底抗戦を主張する安井という軍人が強く印象に残りました。 600ページを超える大作で、分厚さに圧倒されますが、読ませます。 |
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