交通事故で脳に損傷を受け80分間しか記憶がもたない数学者と家政婦の私、そして私の息子のルート(博士に名付けられた)との3人の関係が淡々と描かれます。
「メメント」という映画がありましたが、これも主人公が前向性健忘症という記憶障害に陥り、ポラロイドで写真をとって、それにメモを残したり、自分の体に入れ墨をしたりして起こったことを忘れないようにしていましたが、この作品の博士も服のあちこちにメモを書いたクリップを止めています。
物語の中にいろいろ数学の話が出てきますが、学生時代数学が不得意だった僕にも分かるように書かれています。友愛数とか完全数とか初めて知った言葉ですが、おもしろく理解できます。
それにしても、自分の記憶が80分しかもたないなんて、それを自分自身が分かったらとても悲しいことです。いくら素晴らしい時間を持っても、80分経つとすっかり忘れてしまうのです。3人の関係もいくら近づいても、翌日になるとまた一からのやり直しです。とても悲しい、そしてとても素敵な物語でした。数学の嫌いな人にもお勧めの一冊です。 |