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沼田まほかるの本棚

  1. 九月が永遠に続けば
  2. ユリゴコロ

九月が永遠に続けば 新潮社
 一人息子が、ある夜ゴミを捨てにいったまま失踪、直後年下の愛人が電車に飛び込み死亡するという事件が起きる。息子が愛人を殺したのではないかと疑心暗鬼になる主人公。果たして息子はどこに消えたのか。事件の真相は・・・。第5回ホラーサスペンス大賞受賞作品です。
 とにかく、最初から重苦しい話です。主人公の年の離れた愛人が、別れた夫が結婚した女の子供と付き合っている男、というなんともややこしい関係です。また息子の担任が、同性愛で、かつて教え子と問題になって学校を追われた教師、精神科医の前夫は精神に異常を来して病院に入院していた女性を愛して主人公と離婚、とくるのだから、なんともはや背景だけで読んでいてやりきれなくなってしまいます。とにかく、狭いなかでの人間関係があまりにドロドロしすぎています。
 ホラーサスペンス大賞を受賞しているのだから、ハッピーエンドではないとはわかっていますが、それにしても読んでいて辛い物語でした。登場人物の中に、関西弁のおせっかいな男が出てきますが、この男がこの物語の中で一番まともな人間だったのではないかと思えてしまいます。
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ユリゴコロ 双葉社
 沼田まほかるさんの作品は、今までホラーサスペンス大賞を受賞したデビュー作「九月が永遠に続けば」しか読んだことがありません。その作品自体、人間関係がドロドロした、読んでいて暗い気持ちになる作品だったのですが、それ以降の作品も、あらすじを読むと、どうにも救われないような話ばかりなので、手にとっても読むことがありませんでした。今回も「このミス」等でベスト10に入らなければ読まなかったかもしれません。そういう点では「このミス」もいいきっかけを作ってくれました。
 物語は、母が交通事故で死亡、恋人は突然姿を消し、父は余命幾ばくもない癌が発見されるという、不幸のどん底にある男・亮介が主人公です。ある日、父親の留守中に実家に行った亮介は、押し入れの中のダンボール箱の中から4冊のノートと和紙に包まれた母の遺髪らしき髪を見つける。「ユリゴコロ」と題されたノートに書かれた物語は、幼い頃から人を殺してきたと告白する驚くべき内容だった。果たして、これを書いたのは母なのか、そしてこれは事実なのか、あるいは創作なのか。亮介は、弟の手を借り父に内緒で事実を探るが・・・。
 幼い頃に医者が話した、この子には“ユリゴコロ”がないという言葉を聞いて、“ユリゴコロ”を探すノートの持ち主。主人公を取り巻くあまりに不幸な現実に、このノートに書かれた異様な持ち主の心情を読んで、やっぱりこれもやりきれない話になりそうだなあと暗い気持ちになったのですが、ノートの持ち主の正体は誰かという謎に、亮介が幼い頃感じた母親が入れ替わったのではないかという記憶、さらに亮介の恋人の失踪がうまく絡み合わせられて、先が気になり、どんどん読み進んでしまいました。
 ラスト近くで全体像が見えてきてしまうのですが、それでもラストシーンは、それまでの重苦しい雰囲気から一転、ちょっと感動してしまいます。これはおすすめ。
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