法月綸太郎の本棚

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法月綸太郎の本棚

密閉教室
雪密室
一の悲劇
法月綸太郎の冒険
生首に聞いてみろ
しらみつぶしの時計
犯罪ホロスコープⅠ　六人の女王の問題
キングを探せ
法月綸太郎の消息
赤い部屋異聞

密閉教室　　☆	講談社ノベルス
新本格派の一人である法月のデビュー作。ある高校が舞台。朝登校をしてきた女子高生が教室の戸を開けようとしたが、鍵がかかっているはずがないのに開かない。教師が力任せに開けたところ教室からは机といすが消えており、部屋の中央にはクラスメイトの死体が横たわっていた。以前実際に東京の高校で教室から机といすが夜のうちに運び出され、これで校庭に９の字が描かれていたという事件があったが、この本とどちらが早かっただろうか。高校生が登場人物であり、青春小説としても読める。
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雪密室　　☆	講談社ノベルス
法月綸太郎のデビュー第２作目にして、名探偵法月綸太郎のデビュー作である。外は一面銀世界の家の離れで、殺人事件が起きるが、足跡は発見者のものしかないという設定自体ガチガチの本格推理小説。なんと読者への挑戦もあるという本格ファンにはたまらない小説である。作者と同じ名前の名探偵、読者への挑戦といえばエラリー・クイーンを思い出すが、中学生時代にエラリー・クイーンを夢中で読んだ僕としては、買わないわけにはいかないシリーズである。
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一の悲劇	祥伝社ノン・ポシェット
主人公山倉の息子と間違えられて、隣の家の同級生の男の子が誘拐される。身代金の受け渡しに山倉は失敗し、子供は死体となって発見される。やがて犯人として浮かんだ男には探偵法月綸太郎と一緒にいたというアリバイがあった。　名探偵法月綸太郎の登場する作品ですが、法月綸太郎は完全に脇役です。本書は主人公山倉の一人称で語られており、メインは誤認誘拐に翻弄される山倉の心情です。誤認誘拐でありながら、実はその子は・・・という設定が、悲劇を呼び込みます。最後の方で様々な解決が示されますが、どれも妙に納得させられてしまいます。しかし、真実はよく考えれば目の前にあったのですね。注意深く読む人であれば、早いうちに真実に到達できるのではないでしょうか。
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法月綸太郎の冒険	講談社ノベルス
名探偵法月綸太郎が活躍する７編からなる短編集です。その中で、図書館シリーズといわれる「切り裂き魔」ほか後半の４編が僕は好きです。なかでも、「緑の扉は危険」は、本好きとして「はは～ん。そういうことも十分考えられるなぁ」と、妙に納得してしまった一作です。　なによりこの図書館シリーズが興味深いのは、とかく、悩める名探偵といわれる法月綸太郎が、このシリーズでは、図書館司書の沢田穂波に思いを寄せる一人の青年として描かれているということです。穂波とデートするために右往左往する綸太郎の様子を見ていると、やっぱり普通の青年だなと思えて、身近に感じることができます。とはいえ悩める名探偵との落差があまりに大きすぎる気がしますが。
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生首に聞いてみろ	角川書店
久しぶりの法月綸太郎シリーズの長編です。昨年の「このミステリーがすごい」で第１位に輝いたばかりでなく、探偵小説研究会編「本格ミステリ・ベスト１０」でも第１位となっています。それにしても、すごい題名です。これが法月さんの作品でなく、名前も知らない新人の作品なら決して手に取らなかったでしょう。やはり、題名というのは重要です。　物語は、著名な彫刻家川島伊作が急逝し、葬儀の後、川島が死去する直前に完成させた、娘の江知佳がモデルの石膏像の首が何者かにより切り取られ、持ち去られてしまうことから幕が開きます。江知佳の身に危険が及ぶのではないかと考えた江知佳の叔父から相談を受けた法月でしたが、その後、今度は江知佳が失踪してしまいます。　なぜ、石膏像の首は切断され、持ち去られたのか、名探偵法月綸太郎が推理します。どうも名探偵法月というと、深刻に悩む姿を連想してしまうのですが、この作品では法月綸太郎が深く悩むという姿は見られません。そして、神のごとく謎を解く名探偵ではなく、失敗も重ねます。　新本格派第１世代ですので、きちんと謎を解く鍵は提示されていますし、伏線も緻密に張られているのがわかります（もちろん、わかるのは読んだ後からですが）。そこは本格派たるゆえんです。最後の解決編は、ちょっと駆け足かなという気がしないでもありませんが、石膏像の首切りの謎を見事に論理的に解き明かしてくれます。　ただ、正直のところ、彫刻に関する専門的な記述は、全く彫刻に興味もない僕にとっては、読むのが辛いところがありました。謎の重要な部分ですので、端折るわけにはいかなかったでしょうが。
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しらみつぶしの時計	祥伝社
ノン・シリーズ作品を集めた短編集です。今まで未発表だった作品を集めたもので、内容に統一感はありません。ミステリ集かと思えば、「猫の巡礼」のように、ミステリとは言えない作品も収録されています。　いくら切羽詰まっているからといえ、用を足しで個室から出ようとするときまで死体に気づかないというのは無理な設定な「使用中」、ホラーかと思ったら、ちょっとラストは力が抜けてしまった「素人芸」、ホラーでもミステリでもなかった「猫の巡礼」など、いまひとつのめり込むことができない作品集でした。　表題作の「しらみつぶしの時計」の閉じられた空間の中のいくつもの時計という設定から思い浮かぶのは、綾辻行人さんの館シリーズの１作「時計館の殺人」ですが、内容はまったく異なります。これは閉鎖されたドームの中の１４４０個の１分ずつずれた時計の中から正しい時間を示すものを探すというもの。論理的な推理に頭を絞りながらどうにかストーリーについていったら、最後はあ然です。　二つの鍵のトリックを描いた「盗まれた手紙」とお互いの誤解が生んだ悲劇を描いた「トゥ・オブ・アス」が、この作品集の中では楽しく読むことができたかな。
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犯罪ホロスコープⅠ　六人の女王の問題	カッパ・ノベルス
（ちょっとネタバレ）　作者と同名の法月綸太郎が探偵役として活躍する６編からなる短編集です。　それぞれ星座にまつわる神話を作品の冒頭に掲げて、それをモチーフとした話となっています。神話など知らないのですが、昔テレビで見たレイ・ハリーハウゼン特撮の「アルゴ探検隊の冒険」を思い出してしまいました。　今回は、牡羊座、牡牛座、双子座、蟹座、獅子座、乙女座の６つの星座に関する話となっています。法月綸太郎シリーズなので本格ミステリ作品集ですが、論理的な思考が続かなくなってきた最近、読むには辛かったですねえ。特に暗号ミステリである表題作の「六人の女王の問題」は、あまりに難解な暗号で、途中で投げ出したくなりました。難しすぎです。　その中でおもしろかったのは「ゼウスの息子たち」です。ミステリのテーマとしては昔からよくある“双子”をテーマにしたものですが、“双子”ということに捻りがあって、この作品集の中では一番好きな作品となっています。ラストの「冥府に囚われた娘」は、意識不明の女性からメールが送られてくるという話。犯人がわかった後で、さらに捻りがあってなかなか読ませます。法月さんが作品中で作った都市伝説がいかにもありそうなほどうまいです。
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キングを探せ　　☆	講談社
前作「生首に聞いてみろ」から７年。作者と同じ名前の名探偵・法月綸太郎とその父・法月警視のコンビが犯人たちに挑むシリーズ最新作です。　４人の男たちが交換殺人を計画します。誰が誰を殺すかを、殺す相手にちなんだ４枚のトランプのカードで決めることとします。最初の一人目の犯行は倒叙形式で始まりますが、誰が誰を殺すことになっているのか、すべてが読者に明らかとされてはいません。交換殺人であることが明らかとなっていく中で、綸太郎は犯人に罠をかけますが、それを見抜いた犯人は思わぬ行動に出ます。綸太郎と犯人(といっても、知恵を出すのは４人の中の一人だけなのですが)との頭脳合戦が読みどころです。また、作中で綸太郎が勘違いをするように、読者も勘違いするように、読者の心理をついたあるトリックが仕掛けられています。　さすが、かつて綾辻行人さんらとともに新本格派の旗手として登場しただけあって、今回の作品もガチガチの本格ミステリといっていい作品です。ラストに至ってタイトルの意味するところがわかりますが、うまいタイトルですね。すっかり法月さんに騙されました。
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法月綸太郎の消息	講談社
４編が収録された法月綸太郎シリーズです。前作「犯罪ホロスコープⅡ　三人の女神の問題」（カッパ・ノベルス）から７年ぶりの新作になります。今年はシリーズ開始３０周年に当たるそうです。　冒頭の「白面のたてがみ」と最後の「カーテンコール」は小説という形はとっているものの評論といった方がいいかもしれません。前者では、コナン・ドイルの名探偵シャーロック・ホームズものの中では他とは毛色の違う「白面の兵士」と「ライオンのたてがみ」を挙げ、そこからコナン・ドイルとチェスタトンや奇術師のフーディーニの関係が語られます。一方、後者では、アガサ・クリスティーの「ビッグ４」「カーテン」「ハロウィーン・パーティ」「象は忘れない」といった作品について述べられ、それらから名探偵エルキュール・ポアロの兄・アシルの存在を巡る問題が討論されていきます。挙げられた作品を読んだことがない者にとっては、いくら小説形式で、ミステリ的な内容になっているにしても、ちょっと読むのが辛いです。特に、この歳になってきて、論理的な思考をするのが一層苦になってきている身としては、残念ながら楽しむことができませんでした。　この２作品に挟まれた「あべこべの遺書」と「殺さぬ先の自首」は、法月警視が悩む事件を綸太郎が解き明かしていくという、いつものシリーズ作品らしい安楽椅子探偵ものです。前者は既刊の「７人の名探偵」（講談社ノベルス）に収録されていた作品で、１人の女性を巡って敵対する二人の男がそれぞれ相手の部屋に遺書を残して自殺と思われる状況で死んだ謎が語られます。後者は警察に人を殺したと自首してきたが、被害者とされた人は生きており、その後実際に被害者が殺害された際には、自首してきた男にはアリバイがあったという話です。後者に登場する法月警視が自分の妻に似ているという印象を持った女占い師の稲生柳子が気になるキャラです。どうして法月警視は「二度と会わないつもりだ」と言ったのでしょうか・・・。
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赤い部屋異聞	角川書店
９編が収録された短編集です。どれもが何らかの作品へのオマージュとなっています。この短編集のために書き下ろされた「だまし舟」を除くと、既に発表された作品であり、その中でアンソロジー「９の扉」に収録されいる「まよい猫」とアンソロジー「惑ーまどうー」に収録されている「迷探偵誕生」は既読でした。　冒頭の表題作は、江戸川乱歩の「プロパビリティーの犯罪」をテーマにした「赤い部屋」へのオマージュ作だそうです。赤い部屋に集まった人々の前で「プロパビリティーの犯罪」を犯してきて罪に問われないと嘯くＴが「プロパビリティーの犯罪」によって断罪される話です。そもそもの江戸川乱歩の「赤い部屋」は読んだことがないので比較のしようはありませんが、収録作の中では個人的には一番の作品でした。　そのほかでは、ラフカディオ・ハーンの「小豆とぎ橋」がモチーフとなる「葬式がえり」が恐いです。毎日自分が働くビルの屋上から１階ずつ落下していく夢を見るという青年の話が描かれる「続・夢判断」も面白いです。特に最後の女の言葉がドキッとします。
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