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野宮有の本棚

  1. 殺し屋の営業術

殺し屋の営業術   ☆ 講談社 
 第71回江戸川乱歩賞受賞作です。選評を見ると、選考委員の圧倒的な評価を得た作品のようですね。
 鳥居一樹は、防犯関連商品販売会社で常にトップの売り上げを誇る営業マン。ある日、説明を聞きたいという客からの依頼を受け、家を訪ねて招き入れられるが、そこで目にしたのは男の死体。客は既に二人組の男たちによって殺害されていたことを知る。背後から襲われて気を失い、気づくと山の中で、客の死体とともに埋められるところだったが、培ってきた営業スキルを動員して殺し屋たちに2週間で2億円の殺人報酬の売り上げを達成すると約束してとりあえずの危機を脱出する・・・。
 江戸川乱歩賞としては珍しいエンターテイメント作品です。探偵役である登場人物が事件の真相を推理するというような謎解き作品とは違います。殺人請負会社がいくつもあって、それらが競合して殺人という契約を奪い合っているという設定からして面白いです。「メラビアンの法則」、「パレートの法則」、「後攻有利の法則」などという営業の法則が語られますが、「へえ~そうなんだ」とそれを読むのも面白い。そして、営業マンとして常にトップの売り上げを誇っていても、生の実感を得ることができなかった鳥居がノルマを達成しなければ殺されるという状況の中で、殺人請負会社の営業にやりがいを見つけ、初めは殺人を回避しながらノルマを達成しようと考えていたのに、しだいに殺人に対しブレーキをかけない男へと変貌、いや、本当の顔が現れてくる過程も読みどころです。
 ラストは競合する殺し請負業の鴎木美紅と相棒の百舌のコンビとのコンゲームが繰り広げられますが、読んでいるこちらも騙されます。見事などんでん返しです。この後、鳥居はどうするのか。怠惰で自主性に欠けるが一級品の格闘技術を持つ耳津、時代遅れだが鉄砲玉になるのも辞さない覚悟の樫尾、そして、引きこもりだがテック関連のサポート役としては有能な籠原という仲間たちとの関係はどうなるのか。これは続編を期待したいです。おススメです。 
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