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西澤保彦の本棚

  1. 彼女が死んだ夜
  2. 仔羊たちの聖夜
  3. 麦酒の家の冒険
  4. スコッチゲーム
  5. 依存
  6. 謎亭論拠
  7. 黒の貴婦人
  8. 複製症候群
  9. パズラー
  10. 方舟は冬の国へ
  11. 異邦人
  12. 腕貫探偵 市民サーヴィス課出張所事件簿
  13. 神のロジック 人間のマジック
  14. 腕貫探偵、残業中
  15. 夢は枯れ野をかけめぐる
  16. 身代わり
  17. からくりがたり
  18. 下戸は勘定に入れません
  19. さよならは明日の約束
  20. 探偵が腕貫を外すとき
  21. 悪魔を憐れむ
  22. 幽霊たち
  23. 沈黙の目撃者
  24. 腕貫探偵リブート
  25. 夢魔の牢獄
  26. 偶然にして最悪の邂逅

彼女が死んだ夜 角川文庫
 タックたちが登場する作品としては、デビュー作の「解体諸因」があるが、時系列的にはこの作品がタックシリーズの第一弾といっていい作品。
 箱入り娘のハコちゃんこと浜口美緒は、明日からアメリカへホームスティに行くことになっていたが、壮行会のあと、帰った家には見知らぬ女性の死体が・・・。アメリカに行きたい一心のハコちゃんは、男性陣を呼び出し、死体を始末してくれないと自分も死ぬと騒ぎ出す。
 あまりに厳格な親をもったハコちゃんは、かわいそうといえばかわいそうだが、それにしてもあまりに身勝手。親も親なら子も子だ。そのおかげで、とんでもない事件に巻き込まれてしまったタックたちがかわいそうだ。僕が友人だったらただではおかない!と鼻息荒く言いたいところだが、果たして現実だったらどうかな?
 「解体諸因」では、まだ、タカチとかがはっきり描ききれていないところがあるが、シリーズキャラクターとしてだんだん印象深く描かれてきている。
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仔羊たちの聖夜 角川文庫
 昨年のクリスマスイブ、プレゼント交換をしようとコンビニに行ったタックたちの前に女性がビルから墜落してくる。1年後、ボアン先輩がみんなのプレゼントの中に紛れ込んでいたとして一つの品物を取り出してくる。ビルから墜落した女性のものなのか、タックたちが調べを進める中で、5年前にも同じビルから転落事件が起きていることが判明する。さらに彼らの前で起こる転落事件。果たして3つの事件には何らかの関係があるのか・・・。
 前作までの雰囲気からちょっと異なって、全体に暗いトーンで覆われている。このシリーズは主人公たちが大酒飲みで、飲んでいる中で推理をするということからか酩酊推理と呼ばれているが、その言葉の持つ明るいイメージとはずいぶん乖離している。特にこの作品以後、「スコッチ・ゲーム」、「依存」と内容が暗くなっていく。
 相変わらずの美貌と明晰な頭脳を持ち、ミステリアスな雰囲気のタカチは僕は大ファンであるが、この作品では、次の「スコッチ・ゲーム」で明らかとなるタカチの過去がからんできており、興味深い。
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麦酒の家の冒険 講談社文庫
 気分転換を兼ねて旅行に出たタックたち4人だったが、帰る途中で車がガス欠、しばらく歩いた末に、人気のない山荘に上がりこんで宿を取ることにする。家具はシングルベットが1つ。あるものはクローゼットの中に隠されたように置いてある冷蔵庫と山ほどのエビスビール。4人は麦酒の家の謎を解くために、ビールを1本、また1本と飲みながら議論を始める。
 飲んでばかりいるタックシリーズの中でも一番酩酊推理ということが色濃く出ている作品。殺人事件が起きるわけでなく、後の「スコッチ・ゲーム」や「依存」のように登場人物の過去が明らかになるわけでもなく、ただ淡々とビールの空き缶を増やしながら、論理の組み立てがなされていく。でも、飲みながらこういう論理のぶつかり合いができるのだろうかなあ。すごい。ぼくらは酒を飲んだらとても論理的な話などできないのだけど。
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スコッチゲーム 角川文庫
 ご存知タックこと匠千秋、ボアンこと辺見祐輔、タカチこと高瀬千帆、ウサコこと羽迫由紀子が活躍するシリーズ長編4作目。今回の話は彼らが安槻大学に入学する2年前の出来事で、メインはタカチ。彼女が郷里の女子高を卒業する直前、寮に帰るとルームメイトが殺されていた。タックたちは今だ解決されていないこの謎を解くためにタカチの郷里へ向かう。
 この作品ではタカチの過去が描かれている。このシリーズは酩酊推理というのが売りだが、酩酊推理という明るい感じの言葉に反して内容はとにかく重苦しい。僕としては事件の解決はもちろんだが、タックとタカチの関係はどうなるのかが非常に気になってしまった作品である。とにかく目が離せないシリーズである。
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依存 幻冬舎ノベルス
 架空の地方都市高槻市の大学生匠千秋(タック)とその仲間たち、タカチ、ボアン、ウサコの4人が登場するシリーズの一作。大学教授の家に招かれた4人だが、教授夫人の顔を見たタックの顔色が変わる。タカチはタックから驚くべき話を聞く。夫人はタックの母であり、タックの双子の兄を殺した人であることを。タカチの過去を描いた「スコッチ・ゲーム」に続きタックの知られざる過去が明らかとなる。あまりに重いテーマで作品全体が暗く、いつもの酩酊推理が影が薄い。最後のタックを守ろうとするタカチの姿が印象的だ。やはり、最終的には男より女の方が強いのか。
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謎亭論拠 ノンノベル
 タック、タカチ、ボアン先輩、ウサコたちが活躍するいわゆるタックシリーズ(人に言わせるとタカチシリーズでもあるようだ。)の8編からなる短編集。1作目の「盗まれた答案用紙の問題」のページをめくると、あのボアン先輩が高校の教師だって!とびっくりしたが、最初に職員室に忘れた裏ビデオを取りに戻るというシーンがあって、ああやっぱりいつものボアン先輩だと安心した。この短編集のいくつかが4人が既に大学を卒業してからの話となっている(4作目の「呼び出された婚約者の問題」を読むと、なんとウサコは結婚までしている。)。シリーズファンとしては、それぞれの卒業後の姿や、話の中には他の作品との繋がりが窺い知れる記述があって、興味深く読むことができる。
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黒の貴婦人 幻冬舎
 タックシリーズの短編集。このシリーズのファンとしては早く「依存」の続きを書いてほしいと思っているのだが、この作品集は続きというわけではなく、彼らが大学生のときの事件のほか、卒業後の事件合わせて5編が収録されている。
 僕としてはこのシリーズは、謎解きを楽しむのはもちろんだが、それ以上に登場人物のストーリー、特にタックとタカチのストーリーの方に興味の重心が移ってきている。
 そういう意味で2作目の、表題作でもある「黒の貴婦人」は興味深い作品である。これは時系列的からいけば「スコッチ・ゲーム」と「依存」との間に位置するものであるが、最後のタカチの告白を聞いて初めて「依存」でのタカチの行動がよく理解できた。全く、男としてタックがうらやましい。「スプリット・イメージまたは避暑地の出来心」ではボアン先輩がなぜ女子高の教師となったかの理由も分かり、そういう点では、彼らのストーリーに興味のある人には重要な作品集である。
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複製症候群 講談社文庫
 突然空から降りてきた虹色の壁の中に主人公たちは閉じ込められてしまいます。なんとか無事脱出したのですが、テレビによると、「ストロー」と呼ばれるようになったその壁は世界中に出現しており、その壁に触れると、なんと自動的にその生物のクローンができてしまうというのです。主人公たちも不注意や故意から複数のクローン人間を生み出してしまいます。「いかなる理由があろうとも、クローンを作り出した人間は厳重な処罰をうける。そしてオリジナル一人を残して、クローンはすべて処分される。」という国会での採決される中、殺人事件が起きます。
 タックシリーズ以外で初めて読んだ西澤作品です。それまでは、SF世界でのミステリー作品という先入観があって、SFなら何でもできるだろう、透明人間が殺人を犯せばいいのだからと正直読む意欲もわきませんでした。ところが、たまたま出張する際に電車の中で読む本をと駅の本屋で購入し、電車の中で読み始めたのですが、こういっては何ですが、意外とおもしろく、一気に読んでしまいました。どちらが本物で、どちらがクローンか分からないというのはちょっと怖いですね。そのうえ、クローン自身がクローンと意識していなければ、本物の方がもしかしたら自分がクローンではと思い始めてしまうかもしれません。
 蛇足ですが、なぜストローが出現したか、そして消失してしまったかについて、著者は説明していません。結局そうした状況の中で事件がどのように起き、どう解決されるかということが問題で、どうしてそういう状況になったのかは、著者にとってはどうでもいいことなのでしょうね。
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パズラー 集英社
 西澤さんの作品は「タックシリーズ」(僕としてはやはりタックのシリーズです)の大ファンで、楽しく読ませてもらっていますが、ノンシリーズの短編集というのは初めて読みました。掲載されている作品は、日本が舞台であったり、外国が舞台であったりで統一感はありません。発表したものの寄せ集めという感がしないでもありません。そのうえ、僕としては、この作品集だけに限りませんが、日本人の作家が外国人を主人公にして書いた作品にはどうも違和感があって馴染めません(西澤さん、ごめんなさい)。
 掲載された6編のなかで、おもしろく読んだのは、記憶の曖昧さをテーマにした“蓮華の花”と最後の“アリバイ・ジ・アンビバレンス”です。“アリバイ・・・”はどことなくタックシリーズを彷彿させる雰囲気です。
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方舟は冬の国へ カッパ・ノベルス
 失業し、職探し中の十和人に持ち込まれた話は、1ヶ月の間、何者かの手により監視カメラと盗聴マイクが仕掛けてある別荘で、見知らぬ他人と家族のふりをして生活するというもの。
 あまりに荒唐無稽な仕事内容にもかかわらず、引き受けるかなあという疑問が湧きます。いくら大金をくれるからといって、いや、大金をくれるからこそ、うさんくさい仕事だと思うのではないでしょうか。話を聞いたあとでは断れないと言っても、断るでしょう普通は。それに、監視カメラと盗聴マイクが仕掛けられているというだけで、犯罪に関係ないのかと普通は気になるはずです。というように話の導入部には非常に疑問を感じましたが、なぜこんなことをするのかという謎には興味を引かれて、どんどんページを読み進みました。そのうち、「あれっ?この物語はミステリーではなかったの、SF? これは西澤さんの作品でも「七回死んだ男」や「複製症候群」系の話なのかなあ」と思う不思議な現象が現れ、先の展開が非常に気になってしまいます。さすが、西澤さん、うまいですよねえ。とはいえ、言わせてもらえば表紙に描かれている“本格推理小説”というのは、看板に偽りありではないでしょうか。
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異邦人 集英社
 永広影二は、羽田から飛行機で郷里へ向かう途中、空港のトイレでふと自分の姿に既視感を感じる。郷里に着き飛行機を降りると、そこはなんと23年前の時代であった。
 この作品は、タックシリーズとは別の西澤さんお得意のSFとミステリを絡めた作品で、僕の好きなタイムトラベルものです。父親が殺害された直前の時代にタイムスリップした主人公。果たして主人公は父親の殺害を止めることができるのか。
 通常タイムトラベルものとなると、タイムパラドックスをどう料理するのか興味のあるところだったのですが、ふ〜ん、そうきたかという感じです。父親殺害の犯人は途中でたぶんこういうことなんだろうなとわかってしまいました。最初の期待が大きかっただけに、残念です。
 ミステリの謎とは別にジェンダーという今日的な問題も絡めた作品となっています。
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腕貫探偵 市民サーヴィス課出張所事件簿 実業之日本社
 7編からなる連作短編集です。大学、病院、アーケード街、繁華街、警察署、会社ビル、ホテルの片隅に簡易机を置いて座る男。丸いフレームの銀縁メガネ、黒っぽいネクタイ、そのうえ両腕の肘まで黒い腕貫を嵌めて、いかにも公務員然とした姿。机に貼られた紙には「市民サーヴィス課臨時出張所」の文字。「個人的なお悩みもお気楽にどうぞ」という言葉に惹かれて、相談窓口に座った男女の話に腕貫男が答えます。
 いわゆる安楽椅子探偵ものと言っていいのでしょうが、最初の3話とあとの4話とでは、腕貫男の関わり方がちょっと違います。最初の3話では主人公から相談されて、腕貫男はヒントを述べるだけ。それを述べると「では、次の方、どうぞ」と話を終えてしまいます。真相は主人公によって明らかにされます。それに対し、あとの4話では、腕貫探偵が真相を明らかにするところまで述べる形になっています。
 謎の解決としてはそんな捻りがあるわけでなくシンプルで楽しく読むことができました。登場人物たちのキャラクターもなかなか愉快で、腕貫男より彼等の方が印象深いです。特に「スクランブル・カンパニイ」の玄葉淳子と秋賀エミリはいいですねえ。ぜひ再登場を願いたいキャラクターです。
 それにしても、西澤さんの小説の登場人物の名前はとにかく難しくて読めません。一番最初その名前が出てくるところにはふりがなが振ってあるからいいのですが、それ以降はないので、常に一番最初に戻って名前を確認しなければなりません。いくらなんでも、あんな変な名前の人ばっかりではないでしょう。鈴木や田中では登場人物としてインパクトがなくて、すぐ忘れてしまうかもしれないけど、あんな変な名前の読み方でも同じことだと思うのですが。西澤さんの意図するところは何にあるのでしょう?
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神のロジック 人間のマジック 文春文庫
 物語の舞台は、人が住む町から遥か離れた場所にある学校。全寮制のそこには6人の生徒と、校長先生、寮長、料理人の老婆が生活していた。そして、新入生が来たときに崩れ落ちる世界・・・
 西澤さんのノンシリーズ作品です。人里離れたところに建つ、周りの沼にはワニがいるという学校からして、最初から怪しい雰囲気で始まります。そこにいるのはわずか6人の生徒。実習は犯人当てクイズといういかにも何かあるという設定です。生徒たちは自分がここに連れられてきたときの記憶がはっきりせず、自分たちがなぜここにいるかということを推理します。将来探偵に育て上げるための探偵養成所であると考える生徒、自分たちが住むこの世界はバーチャル・リアリティの世界だと考える生徒。特にバーチャル・リアリティの世界という考えは説得力がありましたね(岡島二人の「クラインの壺」みたいです。)。
 人格が転移するとか、死んだ人が何回も甦るという話を書く西澤さんのことですから一筋縄ではいかないと思って読んでいたのですが、う〜ん、騙されましたね。振り返って読むと、確かに、あちこちに伏線が張ってありました。ただ、謎解きはかなり強引です。
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腕貫探偵、残業中 実業之日本社
 黒い腕貫をした“市民サーヴィス課臨時出張所”の職員が、事件の謎を解き明かす腕貫探偵シリーズ第2弾、6編からなる連作ミステリ集です。
 このシリーズは公務員が探偵ですから、日常の謎ミステリかと思いきや、その内容は殺人など意外に残酷な事件が題材になっています。今回は前回と違って出張所に持ち込まれた事件ではなく、勤務時間外に彼に持ち込まれた事件を描いたものです。勤務時間外ということもあってか、腕貫がグルメで様々なおいしい店を食べ歩いているという個人的な部分も描かれます。さすがに仕事中ではないので黒い腕貫もしていなかったようですね。基本的には安楽椅子探偵ものですが、最初の「体験の後」では腕貫探偵自身が事件の渦中に巻き込まれたりもします。
 前作でも特徴あるキャラクターが登場しましたが、今回も非常にユニークな女子大生ユリエが登場。誰もが振り返るほどの美人で金持ちなのにオヤジキャラというところが何とも愉快。すっかり腕貫探偵に恋してしまったらしい。作品中の所々で登場します。
 6編の中で、一番おもしろかったのは、皮肉にも腕貫探偵が事件に関わらない「人生、いろいろ」です。ああ、そうだったのかあというところで、もうひと捻りありましたね。そのひと捻りのおかげで後味すっきりです。
 「体験の後」では、ある人のため、周りの人が力を貸すことにちょっと説得力がなかった気がします。「流血ロミオ」にしても「青い空が落ちる」にしても、謎解きが強引かなというところがありました。いくらなんでも、通常そこまでしないだろうと思うことが多かったですね。
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夢は枯れ野をかけめぐる 中央公論新社
 経営が傾いた勤務先の早期退職制度に応募して48歳で退職し無職となった羽村祐太。結婚もせずに無趣味、預金が増えることを唯一の楽しみに生きてきた、そんな彼の周りの起こる出来事が語られる連作短編集です。
 同級会で再会した同級生から依頼されたゴミの分別の謎、近所の老人の別居している息子から頼まれた自家用車の保管の謎、実家に行くといって行っていない妻の謎等確かにある日常の出来事の裏に隠されていた真実が明らかになるところからはこの作品は“日常の謎ミステリ”に属するのでしょう。その中でもミステリ色が強かったのは、羽村と久しぶりに出会ったことにより、子どもの頃交通事故で死んだ母親の事故の背後にある事実に気づく「その日、最後に見た顔は」です。この論理的解明は見事です(女性の気持ちって、そういうものですかね。)。
 ただ、この連作短編集は、ミステリというよりは老年に向かう人が抱える様々な問題を内包した物語として読むことができます。親の介護、認知症、老人の一人暮らし等々、読んでいて謎の解明よりは自分の行く末のことに思いを馳せてしまいました(老人が食事をスーパーでのパックの総菜に頼るなんてわかりますよねえ。)。そうした意味でもラストに置かれた表題作「夢は枯れ野をかけめぐる」は悲しい物語でした。おすすめです。
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身代わり 幻冬舎
 待ちに待った「タック・タカチシリーズ」長編です。前作の「依存」から、はや9年。西澤さん、待ちくたびれましたよ。
 「依存」から続く話だったのですが、「依存」の内容をすっかり忘れてしまっていました。タックが心に痛手を負ったことだけは記憶に残っていたのですが・・・。「依存」がかなり重い作品だったのに対し、今回は作品の雰囲気としては軽めです。この作品、タックではなく、ボアン先輩こと辺見祐輔が中心になって語られていきます。
 失恋のショックから休学していたソネヒロが、久しぶりに飲み会に参加したと思ったら、その夜に死亡します。それも、女性を襲い逆に反撃を受けて誤って自分でナイフを身体に刺してしまったというもの。その事実に納得できない祐輔は、独自に事件の謎を追います。一方、住宅街の家で住人の女子高生と近所の交番の警察官が殺害されているのが発見されます。果たして、この2つの事件がどう絡んでくるのか・・・。
 相変わらず飲んでばかりいるボアンやタックたちの酩酊推理は、今までのシリーズどおり変わっていません。しかし、タックとタカチが登場するのは物語の中盤からなので、ちょっと物足りない気がします。
 本格ミステリといっていい作品ですが、事件があまりに偶然に左右されている気がします。あんな犯行が果たして実行できるのか、頭の中ですっと思い描くことができません。どうしても、「そんなこと、あり得ないでしょう」と思ってしまいます。いくらミステリとはいっても、ちょっと突拍子すぎる嫌いがあります。
 とはいえ、タックの再生へ向けた第1作であり、ファンとしては嬉しい作品です。
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からくりがたり 新潮社
(ちょっとネタばれ)
 2年前に自殺した兄の日記に書かれていたことが、事実なのか、兄の妄想なのか調べる妹の話から始まる連作集です。1話目だけでなく、各話のそれぞれの主人公の前に現れ、誰もの頭の中に突如“計測機"という言葉が浮び上がる怪しげな男がいるのですが、いったい何者か、正体がはっきりしません。読み終わっても消化不良です。
 毎年大晦日の日になると、殺人事件が起きるのですが、それが登場人物たちに関わりのある人ばかり。連続殺人を扱ったミステリかと思えば、時にはホラーのような書きぶりにもなり、さらには登場する女性たちが性に対して奔放な女性ゆえのエロティックな描写もありで、かなり読む人を選ぶ作品かもしれません。性描写の多さには参りますよ。
 西澤さんて、こんな作品も書くんだと、タック・タカチシリーズファンとしては、まったく異なる作風に戸惑いを覚えます。
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下戸は勘定に入れません 中央公論新社
 いつも自殺することを考えている大学の准教授である古徳。飛び降りる場所を考えて高層マンションに引っ越したが、まだ決断にはいたっていない。そんな彼が持つ不思議な能力が、ある条件下で酒を飲むと、同席者と一緒に過去にタイムスリップしてしまう、いわゆる“道連れタイムスリップ”の能力。一緒にいる者と、今と同じ日付の同じ曜日に、同じ銘柄の酒を飲んでいた過去にタイムスリップするが、タイムスリップするのは精神だけで、その場にはその時代の自分たちが存在しているというもの。
 本を手に取る前は、酔っ払いの大学准教授がタイムスリップした過去で事件を解決する話かと思いましたが、そうではなく、タイムスリップ先で過去の事実を新たに外側から見ることによって明らかになった事実が現在の謎を解く鍵となるという形になっています。今までもSF的な設定によるミステリーを描いてきた西澤さんらしい作品です。
 4話が収録されており、それぞれ独立しても読めますが、最後の話で―つの長編として読むことができるという体裁になっており、長編としては自殺願望がある古徳に心の安らぎがもたらされる話となっています。 
 タイムスリップものというと、どうしてもタイムパラドックスをクリアするためのいろいろな論理がこねくり回されて、結局どういうことだ?と頭がぐちゃぐちゃしてしまい投げ出したくなるのですが、今回はどうにか読了。
 西澤さんにはビールを飲みながら推理をする「麦酒の家の冒険」という作品がありますが(そこでも“エビスビール”でした)、本人はお酒が好きなんでしょうか。
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さよならは明日の約束  光文社 
 4編が収録された連作短編集です。
 主人公は本を読むのが大好きな高校生の日柳末美(ひさなぎえみ)とジャンク映画フリークの柚木崎渓(ゆきさきけい)。西澤さんの作品はいつもながら登場人物が難しい読み方の名前で、読者泣かせです。何度も、「何と読むのだっけ?」と前のページに戻ってしまいました。
 冒頭の「恋文」は、日柳永美の読書好きの祖母の本棚にあった本の中に、チャップリン宛ての祖母が送り主の手紙が封をしたまま挟まれていたことから話が始まります。祖母が覚えのない手紙を開封すると、そこには学生時代同室だった女性の名前で自分を殺害する犯人の名前が記されていました。祖母の記憶を頼りに永美は手紙の謎を推理していきます。祖父母が恋人同士であった頃、祖父が祖母に宛てた手紙の謎はすぐわかりますが、こちらの謎解きは難しいです。
 「男は関係なさすぎる」は、本でいっぱいの喫茶店「ブック・ステアリング」の店主・梶本がかつて通い、渓が現在通っている高校の校長が替わったという新聞記事から、梶本が高校時代にその先生の行動で疑問に思っていたことを渓と永美が推理していきます。こんな困った先生いていいの?という話です。
 「パズル韜晦」は、友人の亡くなった祖父が未完のまま残したミステリの結末を渓と永美が推理します。でも、実はミステリの結末を推理するということの裏には、ある人物が二人には隠していた真の目的があったという話です。
 表題作である「さよならは明日の約束」は、梶本の同級生だった屋敷万理子が卒業時にクラスの色紙の中に書いたはずのコメントが消えていた謎を渓と永美が推理します。そこで明らかになったことが、梶本が学生時代に行ったことを思い出させ、そして、それが最後に描かれる永美が本を預かるということに繋がっていきます。想い焦がれる者からすればわずかな希望でもすがってみたくなるものだという恋の話ですね。
 4編ともすべて過去の出来事を思い起こしながら推理をしていくというもの。日常の謎ミステリですが、ラストは柚木崎と日柳永美の恋の物語へと着地していきます。 
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探偵が腕貫を外すとき  実業之日本社 
 櫃洗市市民サーヴィス課一般苦情係の黒っぽいスーツにネクタイ、今では懐かしい袖元が汚れないための“腕貫”をした公務員が事件の謎を解くシリーズ第4弾です。4編が収録された短編集です。
 兄から宅急便の配達員を辞めると告白された弟。その理由は、三年連続で4月4日午後4時に配達に行った部屋で鳩が窓に衝突して死に、更にその部屋で人が死ぬという事態が続いていたからというもの。今年も4月4目が近づいてきて・・・(「購いの顔」)。マンションが一夜のうちに現れたのならともかく、鳩ってそんなにお馬鹿さんなのと思ってしまい、ちょっと腕貫探偵の謎解きには納得いきません。偶然が重なりすぎです。
 40年前、不倫相手の女性を殺してしまった男がなぜか罪をかぶって刑期を勤め上げてくれた女性の夫の葬式の場で、市民サーヴィス課臨時出張所が開設されているのを見つけ、腕貫探偵に事件の告白をする・・・(「秘密」)。腕貫探偵の推理により事件の裏にあった真相が明かされますが、収録された4編の中では一番納得できる推理でした。
 妻子と別れ、一人暮らしをするマンションの自分の駐車場に月曜日の朝になると不特定の車が無断駐車している謎を夜の繁華街の片隅に設けられた市民サーヴィス課臨時出張所の腕貫探偵に相談するが・・・(「どこまでも停められて」)。4編の中では一番素敵な真相です。
 女子大生のユリエが企画した幼稚園の同窓会の最中に、道に迷った恩師を迎えに行った参加者の一人が死体となって発見される。ユリエは腕貫探偵に事件のことを話すが・・・(「いきちがい」)。勘違いが重なって起きた事件の真相が腕貫の口から語られますが、勘違いの重なりをそこまで推理できるのかと疑問です。 
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悪魔を憐れむ  幻冬舎 
(ちょっとネタバレ)
 4編が収録されたタックシリーズ第10弾。前作の「身代わり」から4年ぶりの新作です。
 このシリーズ、時系列のとおりに作品が発表されているわけてはないのてすが、今回はタックたちが大学を卒業した直後の話がまとめられています。
 冒頭の「無限呪縛」は、大学卒業後就織もせずフリーターとなっているタックと大学院へ進学したウサコが平塚刑事の実家に20数年前から起こっているボルターガイスト現象を探るという話です。ポルターガイスト現象によるとしか思えないことで亡くなったお手伝いさんの娘の事件の真相をタックが明らかにします。ポルターガイストが起きるまでの間に語られる夕力チからの手紙やウサコが人から聞いた休験話などのエピソードが実は伏線となって謎の解決へと収斂していくという作品です。
 表題作の「悪魔を哀れむ」では、人を言葉であやつることができる“悪魔”がタックの前に登場します。タックは大学OBである居酒屋の主人から恩師の教授の自殺を防いで欲しいと頼まれますが、タックが警戒していたにもかかわらず、教授は校舎から転落死してしまいます。結局、タックは“悪魔”を前に何もできなかったのですが、題名の「悪魔を憐れむ」の“憐れむ”がそういうことだったとは・・・。この“悪魔”とは決着がついていないので、再登場もあるのでは。
 「意匠の切断」では、2年前に起きた、男女が殺害され、手と首が切断されて家の前や公園の阿舎に置かれていた事件について安槻署の刑事、佐伯から相談されたタックが、正月休みで安槻に戻ってきたタカチと真相を推理します。そんな動機でそんなことするかと思うほど、あまりに事件が突飛すぎる感がします。
 ラストの「死は天秤にかけられて」では、ようやく大学を卒業し、女子校の教師の職を得たボアン先輩と飲む居酒屋で、タックが見かけた男の電話の様子からある事件の真相を推理をする二人を描きます。これはもう実際にこんなことありうるかということは別にして、論理的な思考で謎解きをしていくといういわゆるパズル作品です。
 相変わらずの論理的な謎解きに頭がついていくのがやっとでしたが、シリーズファンとしてはタック、タカチ、ウサコ、それにボアン先輩と再会できたのは嬉しいです。特に、ウサコの電撃的結婚には唖然です。それ以上に、タックとタカチはどうなるのかが大いに気になるところです。 
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幽霊たち  幻冬舎 
 妻が亡くなった後の自堕落な生活がたたって入院中の作家・横江継実のともに、刑事が訪ねてくる。加形野歩佳という男が司法書士の多治見康祐を殺害し、自首したが、動機を語らず、ただ「理由を知りたければ横江継実に訊いてくれ」と語っているという。加形野という珍しい苗字から、犯人の野歩佳が40年以上音信不通の親戚であった男の息子であり、殺害された多治見が同級生だったことを思い出す。多治見は横江の家で起こった殺人事件に関わっていた人物だった・・・
 作品を読み始めて思ったのが、とにかく、加形という登場人物の名前の読みが難しいこと。「かなた」なんて読むことができる人はなかなかいないでしょう。そのため、常に何という読み方だったかなと前に戻って確認しなければなりません。西澤さんは、よく読み方が難しい名前を多用するので、西澤さんらしいのですが。
 また、現在の章で語られる家族関係が冒頭に掲げられている家系図と異なっていて、これって誤植じゃないか、おかしいなあと思いながら何度も家系図を見たりして読み進んだので、なかなか集中して読むことができませんでした。これは間違いでなかったことが過去の章のところで明らかにされますが、それぞれの姉と弟が結婚したり、伯父と甥の関係にある二人の男と結婚したりと、家族関係が複雑すぎです。そのうえ、あるトリックが仕掛けられているので、更に頭の中は混乱です。
 主人公である横江継実に幼い頃亡くなった従姉妹の幽霊が見えるというファンタジックな設定のはずなのですが、読み進んでいくとファンタジックな雰囲気は雲散霧消してしまいます。家族の中の異常な考えや、その家に関わる者たちのこれまた異常な思いが複雑な人間関係を生み、事件を起こしていくという話になっています。幽霊だけでもトリッキーなのに、それに加えてラストで明らかにされるある事実に「えっ!」と唖然としてしまいました。これ、わかった人はいるのでしょうか。 
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沈黙の目撃者  徳間書店 
 西澤作品らしい登場人物が読めない名前ばかり。ただでさえ、名前を覚えるのに苦労する老年には辛いです。これ、どうにかなりませんかねえ。「あれ?何て読むんだっけ?」とページを何度も前に繰るのは本当に煩わしいです。
 冒頭の表題作「沈黙の目撃者」は、早期退職した刑事が自宅で殺され、料理中だと思われたキッチンの俎板の横に下戸のはずなのにビールのロング缶とビアマグが残されていた事件が描かれます。大量に残されていたビールの空き缶と被害者が元刑事であったことが事件の誘因になるのですが、下戸だったはずなのにビールのロング缶とビアマグが残されていたのは、事件の本筋とは違う理由です。
 「まちがえられた男」で描かれる事件は、有名なミステリ作家のある作品へのオマージュともいうべきもので、ここまでは普通に読むことができたのですが、これ以降がいけません。ビアマグ、マグカップ、タンブラーグラスなど、飲み物を入れる容器についてのSF的ストーリーにミステリ要素を含ませたものだと納得して読み進んだのですが、次の「リアル・ドール」のエロさ爆発の描写には参りました。さすがにこれは読む人を選びます。いい加減勘弁してくれと言いたくなるほどの性描写です。「彼女の眼に触れるまで」はまだミステリと言えるのですが、最後の「ハイ・テンション」は再び性描写満載の作品でした。どうにか読了しましたが、この連作集、これはいわゆる“トンデモ本”と言っていい本ですね。西澤さん、それよりタックとタカチの物語を書いて欲しいです。 
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腕貫探偵リブート  実業之日本社 
 “腕貫探偵”シリーズ第7作目となります。4話からなる短編集です。ただ、「腕貫探偵リブート」とされていますが、腕貫探偵が登場するのは、最後の「ユリエの本格ミステリ講座」だけです。それ以外、冒頭の「ユリエのお見合い顛末記」と表題作の「逢魔が刻」には腕貫探偵を“ダーリン”と呼ぶ住吉ユリエらが登場しますが、「マインド・ファック・キラー」には腕貫探偵はおろかユリエらも登場しません。腕貫探偵の論理的な謎解きを期待していた読者には、ちょっと拍子抜けかもしれません。
 また、ある意味西澤さんらしいのかもしれませんが、「マインド・ファック・キラー」にはあまりに激しい性描写のシーンも描かれるので、これは読者を選ぶかもしれません。この話は、外国人男性と彼らと遊ぶ日本人女性が次々とミランダという女性に殺されて行く様子を描くもので、謎解きではないのですが、ラストに読者をあっと言わせます。そういう驚きでは、この短編集の中で一番かもしれません。最後にあっと言わせるという点では「逢魔が刻」も同じですね。
 このシリーズ、西澤ファンならともかく、個人的には、今後読むのを考えさせられます。 
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夢魔の牢獄  講談社 
  主人公、田附悠成は、就寝中の夢の中限定でタイムリープをして他人に憑依できる能力を持っている。彼が20代の頃、友人の結婚式で高校の友人たちが招待された夜、教師だった女性の義理の息子が殺害されるという事件が起きるが、犯人は逮捕されないまま迷宮入りとなっていた・・・。
 物語は、過去に遡行し、他人に憑依する能力を持った田附が、この事件の犯人を明らかにしていく様子が描かれます。登場人物の名前がありきたりではない名前であること、濃厚な性描写があることなど西澤さんらしい作品といえます(この点は苦手な読者が多いかもしれません。)。他人に乗り移るということで西澤さんの「七回死んだ男」と比較されるようですが、残念ながらそちらは未読です。
 他人の身体に憑依するといっても他人として行動できるわけではなく、他人の目を通してかつて起きたことを他人として経験するだけです。憑依した他人が何を考えているのかを知ることはできません。また、憑依する相手も田附が自由に選べるわけではないし、いつ憑依できるのかもわからないので、自らが積極的に真実を明らかに行動することもできません。そういう点では、犯人に憑依できればすぐに真実は明らかになる訳ですが、もちろんそうなっては簡単に物語が終わってしまいますので、そうはいきません。そこは恣意的にルールが設定されざるを得ません。
 恣意的な設定にならざるを得ないことに納得できれば、最後に明かされる真実は意外で、想像もできず、ここは面白かったと言えます。しかし、先に書いたとおり、性描写が多く、それも男女だけでなく男性同士もあって、読む人を選ぶ作品です。
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偶然にして最悪の邂逅  東京創元社 
 5編が収録されたミステリ短編集です。西澤作品は“匠千暁”シリーズ以外は、性描写のきわどいものが多いし、登場人物の名前が珍しくて読むのも難しいので、いちいち前に戻って読み方を確認しなければならないという煩雑さがあって、どうも読むのが苦手なのですが、今回も、性描写はそれほどでもないにしても、相変わらずの登場人物の難しい名前にページがなかなか先に進みませんでした。西澤さんにはこだわりがあるのでしょうが、この読みにくさはどうにかなりませんかねえ。
 それでもこの本を手に取ったのは、冒頭に置かれた「人を殺さば穴ふたつ」の「気がつくと昭和から令和へと元号も変わり、38年もたっていたうえに、自分は幽霊になっていた」というあらすじを読んだからです。幽霊とミステリといえば有栖川有栖さんの「幽霊刑事」とか、加納朋子さんの「ささらさや」などありますが、この設定は大好きなんですよねえ。西澤さんがこの幽霊とミステリをどう料理するのか期待して読んだのですが・・・。登場人物は3人だけで、幽霊となって現れた男が、自分が殺され埋められていた現場で、自分はなぜ、誰に殺されたのか、そしてなぜ今幽霊として現れたのか、事件の様相を推理するという、いわゆる“安楽椅子探偵”ものといってもいいかもしれません。更にはこの幽霊が意識を失った人の中に入り込むという西澤作品には同じような設定があったような(?)作品でもあり、個人的に期待するような人間ドラマではなく、謎解きに徹した作品でした。
 そのほかの4編も西澤さんらしい読者を騙すトリックが施され、ラストで意外な真実が現れるというパズル好き向けの作品集といえます。 
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