映画監督でもある西川美和さんがポプラ社のPR誌に発表した2作に書き下ろし3作を加えた5編からなる短編集です。第141回直木賞候補作でしたが、残念ながら北村薫さんに敗退しました。
この作品、現在公開されている笑福亭鶴瓶さん主演の映画「ディア・ドクター」のアナザーストーリーということで購入したのですが、読んでみると全くの別作品でした。映画と同じ題名の「ディア・ドクター」という作品も収録されていますが、内容は脳梗塞で倒れた医者の父親と二人の息子たちの話で、映画のストーリーとは異なります。また、収録作の中には医者が主人公の「ありの行列」や「満月の代弁者」がありますが、映画とは僻地医療をテーマにしているところは同じですが、話自体は異なります。ちょっと出版社に騙されたかなあという気もします。しかし、騙されたのもまあいいかとと思えるほど、収録作5編、それぞれおもしろく読ませる作品となっています。
短編なので、尻切れトンボという気がしないでもないものもあります。最初の「1983年のほたる」など主人公の女の子がどう成長していくのだろうと思ったのですが、最後はささっとまとめたという感じで終わってしまいましたし・・・。
5編の中で一番気に入ったのは、「ノミの愛情」です。医者の妻となった元看護師の妻が、平穏な家庭生活の中で、ある事件をきっかけに生き甲斐を見いだしていく姿がちょっとプラック・ユーモア風に描かれていておもしろいです。最後のセリフ「はい、私は看護師です。」に思わず拍手。
どの作品も文体もテンポよくて読みやすい。おすすめです。 |