仕事でテヘランに駐在していた父の関係でテヘランで生まれた圷歩(あくつあゆむ)。イラン革命で日本に戻ったが、わずかな時間を日本で過ごした後父の転勤で今度はエジプトに行き、父母の離婚により日本に帰ってくることとなる。そんな歩くんの人生を描いていく作品です。
上下巻700ページを超える大作です。語り手となる歩は、テヘラン生まれということなので、プロフィールを見るとご自身もテヘラン生まれ、カイロ、大阪育ちというという西さん自身の経験がかなり色濃く反映されているのではないでしょうか。
とにかく、主人公の歩より、歩の姉・貴子のキャラがすごすぎます。幼いときから母に反発し、ご飯は食べない、部屋にこもって部屋中に鼠の尻尾のついた巻き貝の絵を描く、宗教にはまる、巻き貝のかぶり物で街中に出現するなど奇矯な行動に出る姉。美人のお母さんには似ずに、外見のかわいらしさがなく、対照的に母に似てかわいい歩にみんなの興味が向いてしまうことは姉にとっては腹立たしいものがあったでしょう。無理もないよなぁと思わざるを得ない点もあります。とはいえ、ストレートに母の愛情を欲するのではなく、愛情を欲するが故のあまりに奇矯な行動に気持ちを理解する以上に退いてしまいますけど。歩が姉を避けるのも当然という気がします。
この貴子だけでなく、歩の周囲の人は濃いキャラばかり。中でも矢田のおばちゃんは、近所の人の相談にのっていたことから、次第に多くの人が集まるようになり、結局新興宗教の“教祖様”みたいなものに祭り上げられてしまうという人物。それも自分は教祖なんてさらさら思っていないのですから、すごい人物です。あの貴子に大きな影響を及ぼすのですから、貴子以上のキャラと言えます。
そのほか、エジプトでの現地の友人・ヤコブ、高校時代の友人・須玖など歩に影響を及ぼす特徴あるキャラが登場します。そんな中で、歩自身は幼いときから母と姉の対立に巻き込まれてはいけないと二人の間では存在を消し、成長して母似の
いい男と自覚してからはいろいろな女性と遊ぶという、まったくの普通のキャラといっていいでしょう。
物語は阪神大震災、オウム真理教事件、東日本大震災などを経て進んでいきます。後半、順風満帆だった歩に試練が襲いかかります。僕らと変わらない普通の人であるのに、周りの強烈なキャラに囲まれて過ごした歩くんの人生、十分堪能しました。読み応えがあります。オススメです。 |