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夏木志朗の本棚

  1. Nの逸脱

Nの逸脱  ポプラ社 
 爬虫類のペットショップでアルバイトをする金本篤は、名前を付けて可愛がっていたフトアゴヒゲトカゲが売り物にならないと処分されそうになったため、店長に譲ってくれと頼む。しかし、店長から提示された金額は高額で篤には支払うことができなかった。その夜、篤は以前店に来た客を町で見かける。その男は店の中を見たものの、結局紫外線ライトだけを現金で配送手続きもせずに買っただけの客だったが、店長からそういう客は大麻を栽培していると聞いていた敦はその男から金を強請り取ろうとするが、逆に反撃を受け、拘束されてしまう(「場違いな客」)。
 西智子は高校の数学教師。クラスの生徒から嫌がらせを受け精神的に参っていた智子はある夜の最終電車で非常識な若い女に遭遇する。込み合った電車の中で詰めてくれという智子の言葉も無視し、ひたすらスマホを操作し、肘を押し付けてくる女に腹を立てた智子は、同じ駅で降りた女の後をつける(「スタンドプレイ」)。
 坂東はそれなりに売れている占い師。ある日、彼女に占ってもらいに来た女・秋津は、彼女に弟子にしてほしいと頼み込む。家政婦代わりに弟子としたが、秋津はとにかく何をするにも大雑把でまともにできなかったが、彼女には唯一実際に霊視ができるという大きな才能があった(「占い師B」)。
 2編の短編と1編の中編が収録されています。題名にある「N」とは何かは最後まで説明されません。ネットでも、「日常」のNなのか、「normal(普通)」のNなのか、「neighbor(隣人)」のNなのかと、いろいろ候補が上がっていますが、発行元のポプラ社のこの本の説明でも「始まりは日常からの小さな「逸脱」だった」とありますから、やっばり「日常」が正解でしょうか。
 「場違いな客」と「スタンドプレイ」は普通の人があるきっかけで日常から逸脱するというストーリーですが、「占い師B」はそもそも、登場人物の坂東も秋津も最初から日常を逸脱しているようなキャラなんですよねえ。この「占い師B」が3編の中で一番長い中編といってもいい作品ですが、これがよくわからない作品です。観察眼が鋭く、人の心理を読むことに長けていることで占い師として成功している坂東と、とにかく何をやらせてもまともにできず、ただ、実際に霊視能力を持つ秋津という2人のキャラで読ませるのですが、先の展開がまったく読むことができません。
 個人的には私には合わなく、たぶん直木賞の候補作となっていなければ読まなかったかもしれませんね。 
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