長野の松本平の民間病院に勤務する内科医の栗原一止と、彼を取り巻く人々を描いた2010年の本屋大賞第2位の作品です。
一止は漱石の「草枕」を愛読し、日常の話し方もその影響を受けて古風な話し方という、端から変わり者と思われている男。そんな彼が、医師不足という現実の中で患者と向き合っていく姿を描いていきます。地域医療が、医師不足のため一人の医師にかかる負担が増大、そのため、その状況を見た医師が地域医療に携わらず、結局医師不足から過酷な勤務状況になるという悪循環に陥っているのは周知のところです。対照的に高度医療の研究を行うが、果たして患者のことを真摯に考えているのかと思われる大学病院、そして時に問題となる医局制度など、現代医療の抱える問題が描かれており、読みながら考えさせられます。
そんな苛酷な地域医療を支える大狸、古狐の両医師、看護師の東西、一止の親友の砂山次郎医師など、皆個性的で、こんな病院あるのかと突っ込みながらも、現実にこんな病院があったらいいのにと思いながら読み進みました。個性的といえば、一止の妻のハルさんや同じ下宿に住む男爵や学士殿のキャラも印象的で、彼らとの関わりもおもしろく読ませます。
ただ、一止の話し方には最後まで馴染めませんでした。奇を衒っているようで、非常に鼻につきます。実際にそんな話し方をする医者はいないでしようし、夏川さんがこの作品で書こうとしていることは、主人公がそんな話し方をしなければ伝わらないというものではありません。奥田英朗さんの描く伊良部のように笑いに徹したり、漫画であったりするならともかく、あの話し方をする必要性はまったくないと言わざるを得ません。 |