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七河迦南の本棚

  1. 七つの海を照らす星
  2. アルバトロスは羽ばたかない
  3. 空耳の森
  4. わたしがいなくなった世界に

七つの海を照らす星 東京創元社
 第18回鮎川哲也賞受賞作です。児童養護施設を舞台に、施設に言い伝えられている「学園七不思議」をモチーフとして7つの話が語られます。
 いわゆる“日常の謎”ミステリーに分類される作品で、殺人が起きるわけではありません。それぞれの謎を、児童福祉施設の保育士・北沢春菜が児童福祉司の海王さんの力を借りながらが解いていきます。そして、そこで解かれず残された謎が最後の7話目で一つの事実に収斂して明らかにされるという連作短編集ならではの構成をとっています。
 賞の選評で笠井潔さんが言っているように、若竹七海さんの「ぼくのミステリな日常」を先例とする構成の踏襲ですね。こうした構成の作品は大好きですが、子供たちが主人公ということもあるのでしょうか、“日常の謎”の謎解きが予想がついてしまうものもあり、それほど印象的なものではなかったのは少し残念なところです。
 児童養護施設といえば、昨今は児童虐待、保育の放棄ということからクローズアップされています。作者の七河さんはよくここまで制度のことを知っているかというほど詳細に児童養護施設のことを描いています。でも、「滅びの指輪」のようなことは許されるのでしょうか?
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アルバトロスは羽ばたかない  ☆ 東京創元社
 児童養護施設「七海学園」で働く保育士・北沢春菜を主人公とするミステリー第2弾、第18回鮎川哲也賞を受賞した「七つの海を照らす星」の続編です。
 春、夏、初秋、晩秋という章でそれぞれ日常の謎の物語が語られ、それらの章の間に七海学園の入所児が通学する高校で起きた転落事件を扱う「冬の章」が挟みこまれています。日常の謎を春菜が解き明かしていくというところは前作を踏襲していますが、春から初秋にかけて春菜が関わる日常の謎に冬の章の重要な手掛かりが隠されているという構成になっています。
 それぞれの章の話だけでも十分ミステリとして読ませます。春の章では、母親に崖から落とされた少年のエピソードが語られますが、なぜ母親が子どもを崖から突き落としたのかの謎を、夏の章では、施設同士のサッカー大会の会場からある施設のチームが忽然と姿を消してしまった謎が、初秋の章では、施設に来る前の学校の友達にもらったといって女の子が見せびらかしていた寄せ書きが消えてしまった謎を、晩秋の章では、夜間に子どもに会わせろと押しかけた父親とのいざこざを春奈が解決していく様子が描かれています。
 ラストで明らかになった事実には、正直びっくりしてしまいました。これは、作者の七河さんにものの見事にやられました。脱帽です。何の疑問もなく読み進めていた中に、まさか七河さんがあんな仕掛けを施していたとは! 転落事件が事故か事件なのかということより、そもそも・・・。読者のミスリードがうまいです。事実が明らかになって、慌ててページを前に戻って確認してしまいました。そうだよねえ、よく読めば、違和感があるよなあ・・・
 あまりにせつないラストです。果たして、このシリーズの続編はあるのでしょうか。
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空耳の森 東京創元社
 何を書いてもネタバレになりそうなので、曖昧な言い方しかできません。発行元の東京創元社さんも、この本の紹介に当たって、うまくネタバレのないようにしています。そのため、逆に七河さんの作品を初めて読む人にはちょっと不親切な気がしないでもありません。
 ひとつひとつの作品は、山岳を舞台にしたサスペンスの「冷たいホットライン」、孤島で二人きりで住む幼い姉妹を描く「アイランド」、離婚予定の父母の間で悩む子供を描く「悲しみの子」など、統一感のない9つの作品が並びますが、七河さんらしく、ラストであっといわせる作品が多く、ミステリとしてそれぞれ楽しめる作品となっています。ただ、読んでいるうちにどこか引っかかるものが出てきます。「発音されない文字」に至って、それがはっきりとし、この作品集の全体像が見えてきます。「発音されない文字」は、七河さんの作品を未読な人には、「この作品は何だ?」と思うでしょうね。
 僕自身は、読み終えて、そういうことだったのかぁと十分満足したのですが、これは、読む人を選ぶかもしれません。
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わたしがいなくなった世界に  ☆  東京創元社 
 児童養護施設「七海学園」を舞台にしたシリーズ第3弾です。前作「アルバトロスは羽ばたかない」が刊行されたのが2010年ですから、すでに15年が経っており、すっかり内容は忘れていました。途中で怪しげな女性が登場しますが、この女性は何者なのかまったく覚えていません(誰なんでしょう?佳音と因縁がありそうなんですが・・・)。だいたい、春菜がなぜ入院しているのかが、今作の中ではまったく説明がありませんから、この作品を読む前に前作を読むことが必要かもしれません。
 構成は、七海学園をめぐる様々な謎が描かれる第一話から最終話までの6話と、幕間0として挿入されている卒園生からの手紙に書かれた20年以上前の話も含めた全体を通しての謎が最後に解き明かされるという作りになっています。
 今作では、主人公である北沢春菜が入院、リハビリ中なので、代わって学園の高校1年生コンビである亜紀、裕美、葉子の3人が中心となって話が語られていきます。
 学園に入所が決まった少女に施設内を案内してくれた少女がその後学園内に姿が見えず、たまたま見かけたバスの中に少女がいるのを見てバスに乗るが、降りた様子がないのに姿が消えてしまう(「遠い星から来た少女」)。
 かつて母の死を予言してしまった子が、たまたま迷い込んでしまった路地裏の家で今度は未来の殺人を見てしまったと悩む(「国境のない国」)。
 父親の異常な愛情から逃れるため、学園祭での演劇部の発表の舞台上から主役の女子高校生が姿を消してしまう。いったい、彼女はいつ、どこへ消えたのか(「サンクトゥス」)。
 施設対抗の駅伝大会で走者の少年がたすき渡しをしたのち、忽然と姿を消してしまう。確かにたすきは渡されているのに少年はどこに消えたのか(「その走り抜けた一瞬」)。
 父と二人で暮らしているアパートの部屋で保護された発達障害の女児。父の姿はなく、部屋には出血の跡があり、彼女は「わたしが殺した」というが死体はどこにもなかった(「わたしがあの人を殺した」「わたしがいなくなった世界に」)。
 途中で挿入される裕美たちが書いた卒園生に贈る言葉はなぜここに挿入されるのか、学園のあちこちに現れる、殺人を糾弾するような「あなたはあの人を殺した」と書かれた紙はいったい誰が誰にあてて書いたのか。
 それぞれの謎は謎としてはあまりに強引かなと思うものもありましたが、最後にすべての謎が明らかになるところは見事です。ここで描かれる謎は障害に関わっていますので、作者の七河さんも障害について勉強したのでしょうね。
 それにしても続編で前作との間隔が15年はあまりにあきすぎです。 
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