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中山智幸の本棚

  1. ペンギンのバタフライ

ペンギンのバタフライ  ☆  PHP研究所 
  図書館の本の紹介で“時間をテーマにしたちょっと不思議で、小さな奇跡が大きな感動を生むハートフル・ストーリー”とあれば、タイムトラベルものが好きな者として借りないわけにはいきません。作者の中山智幸さんは2008年には芥川賞にもノミネートされたそうですが、今回の作品は純文学の芥川賞系というより直木賞系の非常に読みやすい作品となっています。
 冒頭の「さかさまさか」は、妻を貰い事故で亡くした夫が妻から聞いた「この坂を自転車で後ろ向きに走り降りれば過去に戻れる」という都市伝説を信じて過去を変えようとする話です。この作品集には5編が収録されており、それぞれ1話完結ですが、この作品に登場するファブヒューマンというグループのことや“ペンギン氏”というキャラクターが他の作品にも顔を出しており、また、共通の登場人物がいるなど緩やかな繋がりを見せています。題名の“バタフライ”は“バタフライ効果”のことでしょうか。すべてはこの作品から始まっていきます。
 「バオバブの夜」は、妻の出産に立ち会っていた夫が彼自身が生まれてくるのを待っている死別した父親に出会い、娘が生まれたらつけようと思っていた名前を貰ってくれないかと言われる話です。
 「ふりだしにすすむ」は、自分の生まれ変わりだと主張する老人に頼まれて彼の妻が生まれ変わる前の女性に会いに行く話です。この作品だけアンソロジー「HAPPY BOX」に収録されていたので既読でした。
 「ゲイルズバーグ、春」は、2年後の世界に住む女性とメールをやりとりする男が彼女からあることを頼まれる話です。
 「神様の誤送信」は、人の未来が見えてしまう男が不幸になる人を誰ひとりとして助けられないことに苦しんでいるところに。ある男に出会う話です。
 どれもが温かな気持ちにさせてくれるストーリーであり、それぞれの作品の繋がりを探しながら読んでいくのも楽しい作品集です。
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