中田永一さんの初めての作品集ですが、中田永一というのは実はある有名作家の別ネームだと言われています。真偽のほどはわかりませんが、噂される○○さんだとすると、なるほどなと思われるような雰囲気もあります(ただ、そうだとすると、○○さんの明るい側面だけが反映された物語ばかりですが。)
収録された4作品ともちょっと少女漫画的な感じがありますが、どれもほのぼのとした作品となっています。
この中ではアンソロジー「I LOVE YOU」に収録されていたときから気に入っていた「百瀬、こっちを向いて」がやはり一番好きです。自分のことを「人間レベル2」と称する目立たない女の子にももてない高校1年生の主人公相原ノボルが先輩から頼まれて、百瀬という女の子と疑似カップルを演じることとなる話です。自分ではさえないと思っている主人公がいいですよね。劣等感を持っているのかと思いきや、意外に百瀬に対してもそれなりに自分の考えも言いますし、他人の気持ちもよくわかる、本当はいい男なんです。そりゃあ外見は先輩の宮崎には負けるでしょうけど、要は中身です(ここ強調です!)。
次第に百瀬に惹かれていく自分を後悔し、恋することなど知らなければ良かったという主人公に対し、友人の田辺が言うことばが、素敵です。「君はそう言うけどね、僕はそう思わないよ。だって、そういうの、素敵なことじゃないか。」こんな友人がいたからこそ、この物語も読了感爽やかなものになったのでしょう。
唯一書き下ろしの「小梅が通る」は、本当は通り過ぎる人が目を瞠るほどの美人なんだけど、そんな反応をされるのが嫌でブスメイクをし、素顔を隠している女の子が主人公の話。男性の僕からすればおもしろく読むことができたのですが、女性はどう感じるでしょうか。主人公のことを嫌な女と感じはしないでしょうか。ただ、この作品でも自分たちと違って実は美人の小梅に対して友人たちがやさしく背中を押してくれたことで「百瀬〜」同様、爽やかなラストとなりました。
教師に憧れる女生徒の気持ちを描く「キャベツ畑に彼の声」も、海で溺れて5年間昏睡状態だった少女と彼女が助けた男の子との関係を描く「なみうちぎわ」も心が安まる爽やかな話でした。おすすめです。
読んでいてすぐ気がついたのですが、中田さんの文章にはひらがなが多いというのが特徴的です。どうして漢字で書かないのかと思われるような文字もひらがなで書いています。何か意図があってのことでしょうか。確かにこうした恋愛小説には柔らかい印象を与えますが。 |