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中田永一の本棚

  1. 百瀬、こっちを向いて
  2. 吉祥寺の朝日奈くん
  3. くちびるに歌を
  4. 僕は小説が書けない
  5. 私は存在が空気
  6. ダンデライオン

百瀬、こっちを向いて  ☆ 祥伝社
 中田永一さんの初めての作品集ですが、中田永一というのは実はある有名作家の別ネームだと言われています。真偽のほどはわかりませんが、噂される○○さんだとすると、なるほどなと思われるような雰囲気もあります(ただ、そうだとすると、○○さんの明るい側面だけが反映された物語ばかりですが。)
 収録された4作品ともちょっと少女漫画的な感じがありますが、どれもほのぼのとした作品となっています。
 この中ではアンソロジー「I LOVE YOU」に収録されていたときから気に入っていた「百瀬、こっちを向いて」がやはり一番好きです。自分のことを「人間レベル2」と称する目立たない女の子にももてない高校1年生の主人公相原ノボルが先輩から頼まれて、百瀬という女の子と疑似カップルを演じることとなる話です。自分ではさえないと思っている主人公がいいですよね。劣等感を持っているのかと思いきや、意外に百瀬に対してもそれなりに自分の考えも言いますし、他人の気持ちもよくわかる、本当はいい男なんです。そりゃあ外見は先輩の宮崎には負けるでしょうけど、要は中身です(ここ強調です!)。
 次第に百瀬に惹かれていく自分を後悔し、恋することなど知らなければ良かったという主人公に対し、友人の田辺が言うことばが、素敵です。「君はそう言うけどね、僕はそう思わないよ。だって、そういうの、素敵なことじゃないか。」こんな友人がいたからこそ、この物語も読了感爽やかなものになったのでしょう。
 唯一書き下ろしの「小梅が通る」は、本当は通り過ぎる人が目を瞠るほどの美人なんだけど、そんな反応をされるのが嫌でブスメイクをし、素顔を隠している女の子が主人公の話。男性の僕からすればおもしろく読むことができたのですが、女性はどう感じるでしょうか。主人公のことを嫌な女と感じはしないでしょうか。ただ、この作品でも自分たちと違って実は美人の小梅に対して友人たちがやさしく背中を押してくれたことで「百瀬〜」同様、爽やかなラストとなりました。
 教師に憧れる女生徒の気持ちを描く「キャベツ畑に彼の声」も、海で溺れて5年間昏睡状態だった少女と彼女が助けた男の子との関係を描く「なみうちぎわ」も心が安まる爽やかな話でした。おすすめです。
 読んでいてすぐ気がついたのですが、中田さんの文章にはひらがなが多いというのが特徴的です。どうして漢字で書かないのかと思われるような文字もひらがなで書いています。何か意図があってのことでしょうか。確かにこうした恋愛小説には柔らかい印象を与えますが。
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吉祥寺の朝日奈くん  ☆ 祥伝社
(ちょっとネタバレ
 「百瀬、こっちを向いて」に続く恋愛小説集第2弾です。
 5編からなりますが、なかでは表題作でもある「吉祥寺の朝日奈くん」が一番好きな作品です。喫茶店で痴話喧嘩に巻き込まれたことから、喫茶店のバイトの女性と親しくなった朝日奈くん。よくある年上の人妻の女性に惹かれる男性の話かと思いきや、思わぬ展開になっていき、ラスト近くで読者が思い描いていた景色をいっきにひっくり返します。とはいえ、ラストの落としどころはやっぱり恋愛小説です。
 「ラクガキをめぐる冒険」も「吉祥寺の〜」同様にちょっとミステリっぽい展開の物語です。主人公の女の子が高校時代に一緒にある“冒険”をした初恋の男の子に会おうとする話です。なぜ今さら初恋の人と会いたいのかと思いながら読み進めていくと、その“冒険”が彼女が思っていたこととは違う様相を見せてきます。これまた捻った恋愛物語で、おもしろいです。
 「交換日記はじめました!」は、二人の男女の交換日記に、その日記がいろいろの人の手を経ながら、その人たちが日記に書き込んだ文章で成り立っている物語です。日記に書かれた文章だけで好きになってしまうなんて、まあべたな恋愛小説です。嫌いではありませんけど。この物語もまた、ミステリらしい部分があります。
 「三角形はこわさないでおく」は、友人が好きな女の子を好きになってしまうよくあるパターンの話ですが、中田さんが描くと本当に素敵な恋と友情の話になります。また、「うるさいおなか」はお腹が鳴るのが気になる女の子の話です。あるあるこういうことって、と思いながら読んでいました。
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くちびるに歌を  ☆ 小学館
 舞台は、長崎県の五島列島にある中学校。その学校に音楽の産休代替教諭として、東京から一人の女性がやってくる。彼女が合唱部の顧問になったことから、今まで女生徒しかいなかった合唱部に男子生徒が入部してくる。男子が入部し、新たに混声合唱をすることとなった合唱部は、NHK全国学校音楽コンクール長崎大会に出場するため練習に励むが・・・
 男子の入部目的は綺麗な先生に少しでも近づきたいという邪なものなので(その年齢だった頃のことを思い返すと、美しい容姿に憧れを抱くのも無理はないと思うのですが)、まじめに取り組む女子との間に亀裂が生じたりして、彼らの行く手は前途多難。そんな様子を他人との交流をできるだけ避けようとする桑原サトルと父親が愛人を作って家を出てしまった仲村ナズナという2人の男女の目を通して語られていくという形でストーリーは進んでいきます。
 15歳の多感な中学生の気持ちが見事に描かれた作品です。最初はいい加減な気持ちだった男子が、あることをきっかけに練習に打ち込んでいくところは青春物語の王道のストーリーです。また、ひとりぼっちのサトルが、しだいにみんなの中に居場所を占めていく様子に、読んでいるこちらとしては大きな声援を送りたくなります。所々挿入される、Nコンの課題曲である「手紙〜拝啓 十五の君へ〜」に合せ、15年後の自分に宛てた手紙も、それぞれの想いが素直に表されていて、読んでいて、自分はあの頃何を考えていただろうと感傷的になってしまいました。ラストのサトルの兄を取り囲んでの合唱シーンは感涙ものですよ。
 現実にはこんないい子ばかりじやないだろうと心の片隅で思いながらも、感動することができた自分にホッとしました。
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僕は小説が書けない  角川書店 
 中学生のとき、自分が父の本当の子どもではないと知った高橋光太郎は、両親と向かい合うことができなくなり、家庭の中で孤立感を感じるようになる。そのため、中学生時代に書いていた小説も執筆が止まったままだったが、高校に入学した光太郎は2年生の佐野七瀬によって部員不足で存続の危機に立だされていた文芸部に無理矢理入部させられてしまう。
 アニメとライトノベルに詳しい井上部長、歴史オタクの水島副部長、ホラー小説を書くのに恐がりの鈴木先輩、BL小説を書く中野先輩、部員の小説の校正作業をする七瀬といったそれぞれ特徴のある部員たちが、生徒会から示された部存続の条件である「部誌」づくりに奮闘する様子を描いていく青春小説です。
 中田永一さんと中村航さんとの合作小説です。二人が書く青春小説らしい作品になっていますが、ただ、これといった驚きのストーリーではなく予想どおりの展開という点が残念なところ。これも芝浦工大で実験中の小説を書くソフトを使用してプロットを書いたということに理由があるのかも。まだ、開発途上ですから青春小説なら青春小説の、恋愛小説なら恋愛小説のある程度のパターンしかソフトに組み込まれていないのではないでしょうか。
 文芸部OBの"御大"と呼ばれる武井の特異なキャラはユニークだったのですが、性格が真反対のOB原田との確執はやっぱりお決まりの展開ですね。それにしても、男が婚約者を連れて浮気相手の前に平気で登場するシーンは、いくらなんでもそれはないでしょうと思うのですが。恋愛小説の名手の二人として、あんなシーンを描くのかとちょっとびっくりです。 
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私は存在が空気  祥伝社
 久しぶりの中田さんの6編が収録された短編集です。期待して読んだのですが・・・。
 顔が不細工で学校でイジメに遭い、妹からもバカにされ引き籠もりとなった少年が突然瞬間移動の能力を持ったことから始まる物語。線路に落ちた美人の同級生を助けたことから彼女と瞬間移動でいろいろな場所に行くが・・・(「少年ジャンパー」)。この短編集の中では一番超能力と恋というテーマに相応しい作品でした。
 父親のDVから逃れるため、自分の存在を消すことができる能力を身に付けた少女。唯一彼女の存在を認識できる女友達を通してある男子生徒を知った彼女は彼の後をつけ回すが・・・(「私は存在が空気」)。ラストはどんでん返しかなという作品です。
 トンネル効果のため交差点を渡る際恋人と手を繋いでいてもいつの間にか離れてしまう女性の恋物語(「恋する交差点」)。6ページのショートショートです。
 宅急便で送られてきた懐中電灯らしきものの光を浴びたとたん小さくなってしまった少年。チャンスとばかりに気になる女の子のスカートの中を覗こうと彼女の家に向かうが、彼女が誘拐されるところに行き会わせてしまう・・・(「スモールライト・アドベンチャー」)。
ドラえもんの「スモールライト」に触発されて書かれた作品だそうですが、それにしてもあまりにお子様向けです。
 親戚の経営するアパートの管理人をしながら苦学して大学に通う男子大学生。アパートの新しい入居者としてやってきた女性に念力発火能力(パイロキネシス)があり、彼は彼女を巡る騒動に巻き込まれていく・・・(「ファイアスターター湯川さん」)。宮部みゆきさんの「クロスファイア」がすぐ頭に浮かびました。
 サイコキネシスの能力を遺伝的に持つ女子高校生。“天然”というレッテルを貼られることを嫌ってサイコキネシスの能力を使ってクラスに幽霊がいると仕組んだが・・・(「サイキック人生」)。
 不思議な能力とどれも恋の物語という6編でしたが、う〜ん、正直のところこれまでの中田永一さんの作品と比較するといまひとつ。残念ながら図書館で借りて正解だったかなという短編集でした。 
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ダンデライオン  小学館 
 1999年の世界。11歳の下野蓮司は少年野球の練習試合で打球を頭に受け昏倒してしまう。目覚めると、そこは20年後の世界の病院で、彼の外見は小学生ではなく、大人へと変わっていた。彼を病院から連れ出した女性は西園小春と名乗り、彼女は蓮司の恋人であり、結婚をすることになっているといい、11歳の蓮司の意識が31歳の蓮司と入れ替わったことを説明してくれる。一方、2019年の世界で下野蓮司はノートに書かれた『ベンチで待機/パトカーの音/犬が三度鳴く/背後から殴られる』という自分の文字を見ているところを書かれているとおり背後から殴られ意識を失う。目覚めると、そこは1999年の世界で蓮司は小学生になっていた。蓮司はある目的のため支度をして鎌倉へとひとりで向かう。
 11歳の蓮司と31歳の蓮司がともに意識を失うことにより、意識が入れ替わるという物語です。それも次にお互いの意識を失うまでの短い間だけ(ここはちょっと都合よすぎ)。そしてその入れ替わっている最中に子どもの蓮司の中に入っている31歳の蓮司が、当時起こった強盗殺人事件の現場から一人の少女を助けます。なぜ、彼がそこに向かったのかは、それは大人になった蓮司がすでに過去で体験していたことを知っていたからですね。しかし、そもそもどうして事件のことを知っていたのかを突き詰めて考えていくと、このあたり、タイムトラベルものらしく事実がループしてしまうのですが・・・。そこはあまり論理的に考えずに、あくまでも「そういうものかぁ〜」と思って読むのが一番楽しめます。 
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