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中島たい子の本棚

  1. 漢方小説
  2. そろそろくる
  3. 院内カフェ
  4. かきあげ家族

漢方小説  ☆ 集英社
 以前交際していた男性が結婚すると聞いたときから、原因不明のふるえに襲われた主人公川波みのり。病院をはしごするが、一向に快方に向かわず、 そんなとき、ふと思い立って行ったのが、昔一度だけ行ったことのある漢方診療所。そこにいたのが、若くて笑顔の素敵なイケメン漢方医で、みのりはその漢方医に惹かれて通院を始めます。
 31歳で独身、もちろん子なしで、今年のはやりのことばで言うと、典型的な「負け犬」です。しかし、 みのりのキャラクターが愉快で、本人は真剣に悩んでいるのだろうけど、とってもそうは思えない、「負け犬」なんて言葉とは縁のない女性という感じです。また、みのりの周りの登場人物たちもなかなかのキャラクターで、物語を引き立てます。特にバツイチ、40歳に手が届こうかという志保さんという人はユニークです。皆から敬遠されている離婚経験のある男と交際するのですが、その理由が「え!そんな理由なの」と驚いてしまいます。
 第28回すばる文学賞受賞作で、第132回芥川賞候補作(残念ながら受賞は逸しましたが)です。漢方の知識を交えながらユーモアにあふれた文章で、一気に読んでしまいました。
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そろそろくる 集英社
 主人公は32歳、独身のイラストレーター。仕事も上手くいかず、生理が近づくと癇癪、イライラ、過食となる。この原因はといえば、それはPMS(月経前症候群)らしい。
 月経前症候群がひどい主人公が、恋をしたのはPMSのせいかと悩みながらも、PMSと折り合いながら新たに仕事や恋に突き進んでいく様子をユーモラスに描いていきます。
 やはり、生理というものがない男性の僕としては、正直のところなかなか主人公の気持ちに共感することは難しいところです。というより、共感以前の理解するところから始めなくてはならないのでしょう。実際、PMSとういう言葉自体知りませんでしたし。
 あまり深刻にならずに淡々と文章が綴られていきますので、あっという間に読むことができます。ただ、主人公が30過ぎの独身女性で、体調が悪い中で恋をしという設定はすばる文学賞を受賞した「漢方小説」と同じで、このままだと飽きてしまうかなという気がします。次作は新しい設定の作品を期待したいですね。
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院内カフェ  ☆  朝日新聞出版 
 最近は地元の大学病院にも同じ建物内ではないけど、敷地内にスターバックスがありますし、県立病院の中にも外来がある棟に喫茶店が入っています。この物語はそんな総合病院のロビーにあるカフェにやって来る人々を描いていきます。
 カフェには「ここのコーヒーはカラダにいい」と繰り返す“ウルメ”や医師が着用する青いシャツの上に白衣コートをはおった本物の医師なのかわからない“ゲジデント”という印象的な常連客がいますが、この物語の中心となるのは、主婦であり売れない作家でもあるカフェのパート店員の相田亮子と、実家の両親の介護生活が終わり、ようやく自分の人生を過ごせると思ったとたんに夫に難病が見つかった藤森朝子。亮子はパン職人の夫との間に子どもをほしいと思いながら、なかなかできないという悩みを抱えており、一方朝子は病気になっても自分勝手な夫に苛立ちを隠すことができません。
 病院の中にはあるが、メニューも病人に配慮したものではなく、他のチェーン店と変わりがないカフェという点が、この物語のおもしろさの重要なファクターとなっています。
 亮子と夫が子どもができないことに心の決着をつけ、夫にソイラテをぶちまけた朝子がやがて病人の夫との関わり方を見つけていくところは中島さんうまいなあ。
 ラストの登場人物がそろった中でのクリスマスのサプライズを仕掛けたのは誰だったのでしょうか。ゲジデントだったら楽しいなあ。
 温かな読後感をもたらせてくれる作品でした。オススメ。 
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かきあげ家族  ☆  光文社 
 中井戸八郎は、老境に入ったコメディ映画の監督。新作映画の監督を降ろされ、このところ仕事がなく、家でブラブラする毎日。そこに離婚をしたといって孫を連れた長女と会社を首になったという長男が戻ってくる。高校時代から引き籠りの次男を加えて、久しぶりに中井戸一家がひとつ屋根の下に集まるが・・・。
 題名の「かきあげ家族」は、家族がぐちゃぐちゃしていると八郎が自虐的に中井戸家を表したもの。物語は、世界的に有名な映画監督から遺言でなぜか八郎がもらった絶筆の脚本が行方不明になった事件を通して、“かきあげ”のような中井戸一家を描く笑いとちょっと感動の物語です。
 とにかく、中井戸一家のキャラが愉快です。男として生きてきたが、自分はやっぱり女だと結婚後に女性にカミングアウトした元三男で現在は長女の美子。子どもの中で唯一普通にまともに生きているはずが、なぜか会社を辞めてしまった長男の章雄。20年来の引き籠りの次男の真太郎。そして、美子の子どもの吾郎。八郎と漫才のような掛け合いをするのが最高に面白いです。この子も実は登校拒否児なんですねえ。更に、元女優で常に八郎より一枚上手の妻の百合子も面白いし、後半登場する八郎の母親、元女優の夢乃がこれまた愉快な人物で、この物語の行き先に大きな影響を与えます。コメディ映画の監督の八郎が自分の家族を題材に映画にしたら相当笑える映画になるであろうにと思ってしまいます。
 最後には衝撃の事実が明らかとなるなかで八郎が撮る映画で大団円。主人公が映画監督のせいか、物語の中で様々な作品が登場した部分も、映画好きとしては非常に面白くていっき読みでした。 
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