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凪良ゆうの本棚

  1. 滅びの前のシャングリラ

滅びの前のシャングリラ  ☆   中央公論新社 
「流浪の月」で今年の本屋大賞を受賞した凪良ゆうさんの受賞後第一作です。凪良さんの作品はまだ読んだことがないのですが、本屋大賞受賞作は図書館の貸出予約が30件を超えていて、当分順番が回ってこないので、先にこちらを読みました。
 物語は、1月後に小惑星が地球に衝突して人類が滅亡することとなった中で4人の男女を語り手に、彼らが最後の日までをどう生きていくのかが描かれていきます。テーマとしてはよくあるパターンで、使い古された感がありますが、このパターンのストーリーは僕好みで、つい購入してしまいました。
 小惑星が衝突して人類が滅亡するという設定で頭に浮かぶのは映画「アルマゲドン」。映画ではブルース・ウィルス演じる主人公によって地球は救われましたが、この作品にはそんなスーパーヒーローは登場しません。人類の滅亡は避けることができない事実として描かれます。また、小説では伊坂幸太郎さんの「終末のフール」がありますが、あちらは惑星衝突まで8年という長い期間があり、最初の混乱が鎮静化したあとを描いていました。この作品では突然1月後に衝突すると唐突に発表されたのですから、皆がパニックに陥るのは無理もありません。当然のごとく、略奪や殺戮が起こる中で、登場人物たちは何をし、どう生きていくのかが読みどころとなっています。
 最初の「シャングリラ」の語り手は学校でいじめを受けている中学生の江那友樹。彼は小学生のころから片思いをしている藤森雪絵が混乱の中で東京へ歌手のLocoのコンサートに行くことを知り、彼女を守るためにあとをつけていきます。「パーフェクトワールド」の語り手は兄貴分のやくざの口利きで裏カジノの店長をして生活している信士。彼は兄貴分のやくざから、敵対するやくざの幹部の暗殺を頼まれ、実行に移します。「エルドラド」の語り手は友樹の母・静香。彼女は友樹を身籠ったとき、暴力的な夫が子どもを殺してしまうのではないかと恐れ、子どもができたことを知らせずに男から逃げ、女手一つで友樹を育てます。そして最後の「いまわのきわ」の語り手は歌手のLoco。地元の大阪の仲間とロックバンドをやっていた時に音楽事務所のスカウトマンに誘われ東京に行き、望まないアイドル歌手もしたが売れずにキャバ嬢をしていたところ大物音楽プロデューサーに気に入られてから、スターの道を歩みます。
 登場する4人は、だれもが今の自分に満足していません。特に友樹はいじめられてもやり返せない自分に大きな不満を抱いていますが、そんな彼が雪絵を守るために、次第に逞しくなっていく様子も、これまたよくあるパターンですが、読んでいて声援を送りたくなります。
 静香のヤンキーなお母さんキャラが素敵です。父親と違って簡単に暴力を振るえない心優しい息子を愛しながらも、いじめに対しやり返せとそそのかすし、好きな人のために東京へ行くという息子の一大決心を止めるのではなく、励ますのですからねえ。普通、やめさせるでしょう。
 読むとわかるように、この作品は、家族の物語でしたね。 
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