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永嶋恵美の本棚

  1. 一週間のしごと
  2. 檜垣澤家の炎上

一週間のしごと 東京創元社
 初めて読んだ永嶋恵美さんの作品です。東京創元社のミステリ・フロンティアシリーズの1作です。
 主人公恭平には、マンションの隣室に住む幼い頃から犬や猫、果てはアルマジロなんてものまで拾ってくる癖のある幼馴染みの菜加がいます。そんな菜加が今回拾ってきたのは、人間の子供。渋谷駅前で母親に置き去りにされた子供を連れてきたが、その後その子の住むアパートの部屋から母親らしき女性たちの自殺死体が発見されたことから、菜加、弟の克己、恭平、そして恭平の友人忍を巻き込んだ長い一週間が始まります。
 とにかく、事件の発端が強引すぎる気がします。いくら母親がなかなか帰ってこないからといって、子供を置き去りにした母親を困らせようと書き置きもせずに連れてきてしまうことが、どんな事態を招くのかわからない高校生はいないでしょう(こうでないと話が始まらないから仕方ないのでしょうが)。そのうえ、事件が起きて警察の捜査が始まっているというのに、子供の祖父母の家を探して、そこに連れて行こうと考えるなんて、いろいろその理屈を説明していますが、ちょっと常識はずれ。その探し方にしてもあまりにずさんです。こうしたことから、最初からいまひとつ話にのめり込めませんでした。
 青春ミステリ好きの僕にとって、帯に書かれた“青春ミステリの快作”ということばは、購入する大きな要因となったのですが、正直のところ“青春ミステリの快作”というよりは、“青春ミステリの怪作”でした。青春ミステリという言葉からは、当然高校生の主人公が幼馴染みを助けて友人とともに事件解決に活躍するという話を期待したのですが、ところがどっこい、違いましたねえ。大いに裏切られました。作者は逆にそれを狙っていたかも知れませんが、リアリティがなさ過ぎて絵空事にしか思えませんでした。非常に後味悪い読後感です。
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檜垣澤家の炎上  ☆  新潮文庫 
 横浜で貿易商を営む檜垣澤要吉の妾腹の子として生まれた高木かな子は、母親が火事で亡くなった後、本妻のスヱに引き取られ、すでに病で寝たきりとなっていた要吉の世話をすることとなる。ほどなく要吉は亡くなり、かな子は本妻の孫娘(年上だけど法律上は姪という関係)たちと暮らすこととなる。商売は要吉の本妻であるスヱが実権を握っており、女系一家の檜垣澤家の中ではすべてがスヱの一声で決められていた。
 主人公のかな子ですが、母親によって妾腹の子でも生きて行けるよう躾けられ、7歳でありながら人間関係を冷静に見、人の気持ちを推し量りながら、どう行動すればこの檜垣澤家の中でうまく生きていくことができるのかを常に考えています。成長するに従い、かな子はその頭の良さを発揮し、檜垣澤家の中での居場所を次第に確保していくという、当時の女性の世の中での地位ということからすれば、かな子の向上心は怖ろしいほどです。本妻のスヱやその娘の花との腹の探り合いは読んでいて実に面白い。
 ミステリとしての一番の謎である花の婿である辰市の死の真相は想像もできませんでした。意外な犯人に驚きです。ここにも恐ろしい人物がいたんですねえ。
 物語は幸徳秋水の大逆事件や第一次世界大戦、ロシア革命、それにスペイン風邪の大流行が檜垣澤家、そしてかな子自身にも大きな影響を与えていきます。ラストでは関東大震災も起こり、かな子の人生も大きく変わっていこうとしていますが、物語はここまで。これ以降のかな子がどうなっていくのか大いに気になります。続編に期待です。 
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