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長岡弘樹の本棚

  1. 傍聞き
  2. 陽だまりの偽り
  3. 線の波紋
  4. 教場
  5. 波形の声
  6. 群青のタンデム
  7. 教場2
  8. 赤い刻印
  9. 白衣の嘘
  10. 時が見下ろす町
  11. 血縁
  12. 教場0 刑事指導官風間公親
  13. にらみ
  14. 道具箱はささやく
  15. 救済
  16. 119
  17. 風間教場
  18. 緋色の残響
  19. つながりません スクリプター事件File
  20. 巨鳥の影
  21. 教場X 刑事指導官風間公親
  22. 殺人者の白い檻
  23. 新・教場
  24. 切願 自選ミステリー短編集
  25. 球形の囁き

傍聞き  ☆ 双葉文庫
 表題作を始めとする4編からなる短編集です。表題作の「傍聞き」は、第61回日本推理作家協会賞短編部門受賞作です。昨年文庫化されたこの短編集も、「おすすめ文庫王国」の国内ミステリー部門第1位を獲得しています。
 4編の中ではやはり「傍聞き」が秀逸です。刑事である夫を逆恨みによって殺された羽角啓子は、一人娘を育てながら刑事として働いている。近所で盗難事件が起き、犯人らしき人物としてかつて自分が逮捕した男が拘留される。その男から面会を求められた啓子は、その男が自分に逆恨みを抱いているのではないかと恐れるが・・・。
 「傍聞き」とは、「かたえぎき」と読み、国語辞典によると「かたわらにいて、人の会話を聞くともなしに聞くこと。」という意味だそうですが、この作品の中では、主人公が、「そうやって聞いていたことというのは、割と信じやすい」という漏れ聞き効果のことを話しますが、それがこの作品の主題となっています。すべてはこの題名に表されているのですが、それが明らかとなったときは、やられたなぁと思ってしまいました。見事です。
 「迷走」は、病院に到着しても患者を下ろさずに周囲を走り回り続ける救急車を描いたものです。救急隊長が恨みを持つ患者を見殺しにするつもりではないかという救急車内での緊迫感が読ませます。
 「899」は、要救助者を意味する消防無線の符牒だそうです。恋する女性の自宅火災で家の中に残された赤ん坊を救出するために中に入った消防士が遭遇した不可解な状況を描いています。
 「迷い箱」は、犯罪者更生保護施設から出て仕事に就いたばかりの男が自殺するのではないかと恐れる女性施設長を描きます。この作中の“迷い箱”とは、「捨てるかどうか迷っているときには、この箱の中に入れて、一日一回でいいから目に触れるようにする。そうして数日も経てば捨てる決心がつく」というもの。男が迷い箱の中に入れて置いたものは何なのか。それがわかったときにはあまりに悲しい結末となっていました。
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陽だまりの偽り  ☆ 双葉文庫
 表題作を始め5編が収録された短編集です。
 表題作の「陽だまりの偽り」は認知症を自覚し始めた郁造が主人公。ある日、嫁に孫への仕送りを現金書留で送ることを頼まれたが、郵便局へ行く途中、お金を入れたポーチを置き忘れてしまう。認知症気味ということを知られたくない郁造は、近所で頻発しているひったくりに奪われたと交番に届け出るが・・・。認知症であることを知られたくないためについた嘘から次第に追いつめられていく老人の様子とそれにより明らかにされるある事実が描かれています。直前のことを忘れてしまうのは、僕でもよくあること。郁造の行動は、馬鹿なことだと思いながらも、読んでいて身につまされてしまいます。途中、認知症のため家族に家の中に閉じこめられている老女を登場させたことがラストに生きてきます。
 「淡い青のなかに」は、万引きをした息子を迎えに行って帰って自宅前で男を車ではねてしまった母親が、息子からの身代わりになるという申し出を受けて、心揺れる様子を描きます。親が子どもの身代わりになるというのは現実の事件でも耳にしますが、この作品では逆。社会で認められる直前の母親の葛藤が見事に描かれていますが、後半明らかにされる事実は最初から想像できてしまったので、驚きという点ではいまひとつ。
 「プレイヤ」は市役所で管財課長を勤める崎本。次長への昇進が目前という中、市で管理する駐車場から人が墜落死する事件が起きる。そこは1週間前、柵が壊れているという電話を崎本が受けたが、忙しさから修理を命令するのを忘れていた場所だった・・・。事故により昇進が妨げられることを恐れて原因究明に奔走する主人公を描きますが、事故の結果の行く着く先があんなところにあるとは、捻りのあるストーリー展開に脱帽です。
 「写心」は、交通事故により助手にけがを負わせてしまったカメラマン・守下が主人公。負い目を感じて新聞社を辞め、実家が経営する写真店を引き継ぐが、経営不振で悪徳金融からも借金を重ねどうにもならない状況に陥っている。ある日、離婚の慰謝料をもらった女性の話を聞き、彼女の息子を誘拐して金を奪おうとするが、母親は金の支払いに応じない。金を払わないと言った母親の本当の気持ちは何なのか。題名になっている父が彼に話した「写心」ということばが余韻を残します。
 ラストは父子の想いを描いた「重い扉」です。図書館帰りの息子とその友人が暴行を受け、友人は意識不明の重体となる。後日、犯人らしき人物が捕まったので確認をして欲しいと言われた息子は、突然倉庫の一室に閉じこもってしまう。実際にこんなことが起こりうるのかと思ってしまいますが、あることを親子とも知らずに生まれた誤解から苦しむ二人を描きます。子を持つ父親としてグッときてしまう作品です。
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線の波紋   小学館文庫
 4つの章とエピローグで構成されていますが、各章は、娘を誘拐された母親、会社の金を横領している会社員、幼女誘拐事件を担当する女性刑事、引き籠もりの息子を持つ母親と、それぞれ別の人物の視点で描かれていきます。―話ごとにオチがあり、全体として幼女誘拐事件を描く長編という構成になっています。
 冒頭の「談合」では、娘の死体が発見されたという警察の名をかたる悪戯電話に悩まされながらも、仕事に復帰した母親が、自分が関わる工事の入札で談合が行われているのではないかと疑いを持ちます。果たして談合はあったのか、また悪戯電話の主は誰なのかが描かれていきますが、その謎解きはこの作品中で一番読ませます。
 「追悼」では、誘拐事件が起こった同じ町内で、久保和弘の横領を指摘した同僚・鈴木の他殺体が発見される事件を背景に、横領が発覚しているのではないかと疑心暗鬼になる久保を描きます。久保は、横領の証拠を鈴木が残しているのではないかと彼の携帯電話のメールを見ますが、その中に思わぬメールを発見します。
 「波紋」では、誘拐事件を担当する女性刑事が、無事に戻ってきた幼児から犯人の手がかりを聞き出し、容疑者を逮捕しますが、ラストに衝撃の事実を知ります。
 「再現」では、すべての章で語られてきたことが―つに繋がり、事件の全貌が明らかになります。ここで明らかにされるあるトリックには、幼児誘拐ゆえのなるほどなと思わせるものがありました。
 凝った構成で、また第1章、第2章はそれだけでも十分読ませる内容だったので、いっき読みでしたが、ちょっとご都合主義的な部分も見受けられました。ネタバレになるので詳しくは書けませんが、そんなに簡単に男女が恋愛関係になるでしょうか。
 救いのないラストですが、エピローグで明かされる鈴木の死に顔がなぜ笑顔だったのかの理由にはグッとくるものがあります。
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教場   小学館
 警察学校を舞台にした6編からなる連作短編集です。
 職務質問の講習でうまくいかなかった宮坂に対し、教官の風間は「なぜ、わざと下手なふりをした」と問う。(「職質」)
 しのぷと仲のいい沙織が授業中に倒れる。彼女のもとには、このところ脅迫状が届き、夜も眠れないという。(「牢問」)
 深夜、校外に出る者があり、稲辺が疑われる。鳥羽はその時間、稲辺が自習室で勉強していたところを見ていたが、ある理由のため、見ていないと証言する。(「蟻穴」)
 成績の芳しくない日下部は、調達屋の樫村から、あるものを調達してもらう。それが、彼を窮地に陥れることになるとは思わず。(「調達」)
 由良は以前蜂に刺されたことから大の蜂嫌い。そんな彼が運転技術講習で車に乗ったところ、車内に蜂がいてパニックとなる。誰が蜂を車内に入れたのか。(「異物」)
 卒業を前にして体調不良な都築。成績優秀な彼に対し、風間はいつ退校届けを出すかと問う。(「背水」)
 この連作短編集は、「必要な人材を育てる前に、不要な人材を篩い落とす場。それが警察学校だ」と、作品中で述べられていますが、そうした世間とは異質な警察学校という閉鎖空間の中で、精神的に追い込まれる学生とそこで起きる事件を描いていきます。
 同じ学生といっても、学校を卒業後すぐに入った者も、他の職業から転職したため、年齢の高い者もおり、それぞれ背負う人生が異なった者たちが集まっています。携帯電話も取り上げられ、世間から隔離され、教官の罵声が飛び、体罰が行われ、1人のミスも連帯責任が負わされるという状況の中、どの事件も、そんな警察学校という特殊な環境の中でからこそ起こったといえます。たぶん、外の世界であれば、そこまでのことは起こらなかったのではないでしょうか。
 ミステリというよりは人間ドラマの部分が強い作品です。ミステリの部分については、謎自体が何であるのかわからず、あとで「そういうことだったのか。」とわかったりします。あちらこちらに張り巡らされた伏線を見事に回収していきます。
 学生たちの行動をすべて見抜いてしまう切れ者の教官、風間のキャラが今ひとつ印象が薄い気がしたのですが、ラストに強烈なものを見せてくれます。警察小説とはちょっと異質な作品です。おすすめ。
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波形の声  ☆ 徳間書店
(ちょっとネタばれ)
 7編が収録された短編集です。
スーパーで教師の万引を目撃したと担任に告げた男子生徒が自宅で襲われ、意識不明となる。生徒が意識を失う前に担任の名前を呼んだという発見者の証言で、担任である補助教員は疑いをかけられるが・・・(「波形の声」)。題名で結果の予想がつく人がいるかもしれません。
 欣一と隣家に住む兵輔は、高校生の頃、甲子園で戦ったライバルであり、80歳を過ぎても相手を意識し、自分が老いたということを相手に悟られたくないと考えていた・・・(「宿敵」)。老いていないと見ていた行動が実は・・・という話です。
 息子を殺された母親は、息子の住んでいたアパートを借り、犯人捜しをするが・・・(「わけありの街」)。刑法の併合罪の概念が関わりを見せる作品です。大学時代に刑法を学びましたが、併合罪ってそうだったかなあ。
 近所に引っ越してきた30代の女性が横領事件を起こし失踪した女性に似ていると、獣医師の母親は息子に命じて彼女の写真を撮るが・・・(「暗闇の蚊」)。携帯の着信音として作品中にあるような音をダウンロードできるとは知りませんでした。飼い犬がものすごく大きいというところがこの作品のミソです。
 部長職の候補とされる秋穂と理花。種なし枇杷の販売を一手に引き受けるために二人は接待に臨むが、秋穂は相手を怒らせたことから、自分は無理だろうと思ったところに部長の辞令が下りる・・・(「黒白の暦」)。辞令が下りた理由は予想がつきますが、なぜかの理由は見事に予想がつきませんでした。伏線はきちんと張ってありましたね。
 上司からパワハラを受けている村役場から県庁へ出向した二人の役場職員。ある日娘たちが自分の父親の仕事ぶりを見る行事が催される・・・(「準備室」)。なぜ、上司は手抜きを見つけながら、娘たちの前では叱責しなかったのか。
 買い取った倉庫を息子と片付けているときに、この世に2点しか残っていない画家の絵の1点を見つけたが、息子が誘拐され、見つけた絵を要求される。犯人はその絵をマリアナ海溝へと投下するよう求めるが・・・(「ハガニアの霧」)。なぜ、犯人は世界で最も深いマリアナ海溝に絵を投下するよう求めたのか。
 相変わらず見事な短編の数々です。この7編の中では、教師が生徒に見せた力二が前に歩く実験が事件に関わりがあった「波形の声」、伏線が見事に張り巡らされていた「黒白の暦」、パワハラ上司の思わぬ心の内を知る「準備室」がおもしろかったです。
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群青のタンデム  ☆ 角川春樹事務所
(ちょっとネタバレ)
 「タンデム」とは二人乗りのこと。また「群青」とは警察官の制服の色を表しています。
 物語は、警察学校での成績が同点1位だった戸柏耕史と陶山史香が学校卒業後それぞれ職場に配置されて以降も成績を競い合っていく姿を描いていきます。なぜ、彼らは競争を続けていたのか。単に出世争いからだったのか・・・。
 いわゆる警察小説ですが、一匹狼の刑事やグループとしての刑事たちが事件を追うという形式の作品ではありません。物語は、7つの短編(ラストの「残心」は前後篇に分かれています。)とエピローグで構成されます。事件としての謎解きもありますし、いわゆる日常の謎的なものもあります。それぞれの短編はそれだけで一つの話として読むことができるのですが、連作短編としてそれぞれが伏線となってひとつの大きな話となっていきます。8つの話の中では、史香の特技が生きる話となっている冒頭の「声色」が一番印象的です。
 二人のほかの登場人物では、布施刑事がなかなかいいキャラをしています。最初は悪徳刑事かと思ったら、二人の関係を見抜く鋭い目を持った刑事でした。
 ラストで明らかとなる二人の出世争いの本当の理由は、かなり捻りが加えられていて、見抜くことはできませんでした。明らかになってから、改めてページを戻って読み直すと、そこには最初読んだときとは異なるものが浮かび上がりました。布施刑事が言うように愛情ってものにはいろんな形があるものなんですね。
 二人が卒配されてから定年退職後までを描いてるので、体裁としては大河小説みたいなものですが、250ページという分量ではちょっと物足りない、もう少し二人の関係を深く描くことができたのではないかという気がしないでもありません。
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教場2  ☆  小学館 
 シリーズ第2弾。6編からなる連作短編集です。
警察学校の初任科研修に臨む警察官になったばかりの6人の者たちを主人公に、彼らに起こる様々な事件や出来事を通して、教官の風間との関わりを描いていきます。風間はそんな彼らが警察官として適正があるのかどうかを見抜き、そうでない者には「退校届」を渡します。
 前作でも語られていましたが、舞台となる警察学校は「必要な人材を育てる前に、不要な人材を篩い落とす場」。ここを卒業すれば、それぞれ地域の署に出て行くのですから、おかしな人物を篩い落とす最後の場所として、教官の責任も大きなものがあるでしょう。
 前作の感想にも書きましたが、このシリーズは、ミステリというより人間ドラマの部分が大です。事件が起きて、その謎解きという面もありますが、それより、それぞれが歩んできた人生が警察学校という閉ざされた集団生活の中で露わになっていく様子が描かれます。
 警察官だからといって聖人君子でないのはわかっていますが、この作品の中には、こんな人が警察官になって大丈夫なのと首を傾げたくなる人物が登場してきます。例えば、「心眼」に登場する人を虐めることを愉快に思っている梅村と中内。彼らにこそ風間は対校届を渡さなくてはいけないだろうと思うのですが。もちろん、「心眼」で描かれる備品の窃盗事件の犯人は謎が解かれてみると、自分の気持ちをコントロールできない人物であることがわかり、警察官としては不適格者と烙印を押さざるを得ないでしょう。それは「罰則」の主人公も同じ。ラストの先に書かれていない部分が大いに気になります。
 この短編集を読むと、何だか警察学校には変な人ばかりだという印象を持ってしまうのですが、教官の目をくぐり抜けて警察官になったら住民を守るべき人が住民の敵になると思うと恐ろしいですよね。
 ラストの「奉職」の主人公・美浦は冒頭の「創傷」にも登場した、人に暴力を振るうことができない男。彼が実は前作のエピローグに登場していることに気づきました。 
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赤い刻印  双葉社 
 4編が収録された短編集です。全体で180ページ弱と、最近の書籍にしてはかなり薄い作品集でいっき読みでした。どれもが張り巡らされた伏線がラストに鮮やかに回収されて謎が明らかとなるという形を取っています。短編ということもあり、何を書いてもネタバレになってしまいそうで、非常に感想の書きにくい作品でした。
 冒頭の「赤い刻印」は「傍聞き」の女性刑事とその娘が再登場の作品です。刑事である母親の元に毎年送られてくる差出人不明の御守り。アルバムに残された赤ん坊の時の手形とそれに並ぶ母親の手形。老人ホームで生きている実母。署長のお声掛かりで始まった未解決事件の捜査。一見関係のない事実が繋ぎ合わさって、最後にひとつの真実が現れてきます。長岡さん、これではあまりに辛すぎるだろうと、抗議したくなります。
 医学部の学生である千尋は、脳内出血による後遺症により短期記憶が失われる「高次脳機能障害」を患ってしまい、教授の勧めで毎日の日記をつけることとする。愛用のバインダーノートに書かれた日記。薬理学が苦手な千尋が元薬学部の入院患者から聞いた薬品の覚え方。何気なく張り巡らされた伏線が回収されていく中で、ある人物のある思いが浮かび上がってきます(「秘薬])。これはある専門的知識を有しているとストーリーの行方が分かったかもしれません。
 校舎から飛び降り自殺した生徒の父親がクラスに乗り込んできて担任教師・生徒を人質に取り、自殺の原因となった息子のメモ帳を隠しているのは誰だと追及する(「サンクスレター」)。物語は、メモ帳の行方の謎ではなく、担任教師が事態を打開する手がどうして浮かんだのかがメインとなります。これも見事に様々に置かれた伏線が回収されていきます。
 認知症で寝たきりの母と、知的障害のある弟の世話をしている和佳。同級生である医者の蝦原から母の命があと1月と聞いてから、歩道橋で誰かに背中を押されたり、風呂の手すりが外れて溺れかけたりなどの不審な出来事が起きる(「手に手を」)。ラスト、弟が唱えて覚える漢字が何であったのかを知ったときは胸が熱くなります。4編の中ではちょっとわかりにくいかなという気がしますが。 
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白衣の嘘  角川書店 
 医療の現場を舞台にした6編の作品が収録された短編集です。少々設定に強引なところがありますが、どの作品も張り巡らされた伏線が見事に回収され、意外な結末が待ち構えています。
 副島が働く病院に大学病院から末期癌患者の女性が転院してくる。詐欺事件を起こした過去があるその女性を担当するが、そのとき以来副島を批判する投書が来るようになるとともに、病院の外に刑事らしき姿が見えるようになる(「最後の良薬」)。彼女がなぜ転院を希望したのかがメインストーリーとなるかと思いきや、思わぬどんでん返しが仕掛けられていました。         `
 外科医として働く姉と全日本に選ばれたバレー選手である妹の彩夏。二人は車で実家に帰省する途中、トンネルの崩落事故に遭い、彩夏は右足切断の重傷を負ってしまう。潰された車に足を挟まれ動けない彩夏は姉に死なせてと頼むが・・・(「涙の成分比」)。本当にそんなことあるの?とは思いますが、ラストは感動の余韻が広がります。
 心筋梗塞で病院に運び込まれた役場職員の藤野。彼は役場に勤める前に窃盗を働いたことがあり、入院している病院にも窃盗で侵入したことがあった。ある日、彼は、病室の移動によってある患者と同室になる(「小医は病を病し」)。病室の移動に実はあんな理由があったとは。藤野だけではなく読者もミスリードされます。
 上司から欠勤が続く女性研修医の様子を見に行くよう頼まれた医師の上郷は、彼女が徐々に病院に来ることができるようある方策を講じるが・・・(「ステップ・バイ・ステップ」)。この伏線はちょっと難しいです。
 退職する上司の椅子を争う友瀬と同僚の生原。ある日、何者かによって崖から突き落とされた上司の手術の執刀医に、上司は生原を指名する。上司の椅子は生原だと諦めた友瀬だったが、療養中の上司は、友瀬に思わぬことを告げる(「彼岸の坂道」)。上司が生原を執刀医に選んだ真の理由があんなことにあるとは。これは凄い上司です。
 地域課の警察官である浅岡の姉は刑事課の刑事。結婚を目前に、腎不全で入院してしまい、婚約は破棄されたが、担当医の貞森といい雰囲気に。ところが、貞森が浅岡と釣りの最中海に落下し、命を落としてしまう(「小さな約束」)。6編の中では一番強引な設定ですが、冒頭に語られる事実が最後に見事に活かされています。 
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時が見下ろす町  祥伝社 
 外壁に時計が掛けられている「時世堂百貨店」がある町を舞台にした8編が収録された連作短編集です。
 老女が山で採集してきた白い花に孫は青い水を与えれば青くなると言い、二人で賭をするが、結局、青い水を与えた花は白くならず、やがて枯れてしまう・・・(「白い修道士」)。 
 デパートの苦情係の野々村は上司の夫がやっているメンタルクリニックでカウンセリングを受けた後、上司とともに苦情処理に向かう電車の中で痴漢の疑いをかけられてしまう・・・(「暗い融合」)。
 実業団マラソン大会で怪我をした先輩の代わりに選手となった刑事の藤永。新任のコーチの雁屋はレース直前になって彼にフォームを変えるよう指示する・・・(「歪んだ走姿」)。
 暴力団のフロント企業の幹部の五木ら3人が専務に呼び出され、サイコロでゲームをするよう命令される。負けたものは退職届を書くよう言われるが、そのゲームの途中、五木は発作を起こしてしまう・・・(「苦い確率」)。
 ドラッグストアでレジのアルバイトをする新井智久は1万円礼を出し会計をせかす客にレジに千円札がなかったので自分の財布からATMで下ろしてきたばかりの千円札を出しておつりを渡す。すると男はレシートを丸めて投げ、「ちゃんと合わせておけ。」と言って出て行く(「撫子の予言」)。
 先輩に金をせびられた安積はパソコンを売って金を作ろうと、売買承諾書の保護者の署名欄に一所懸命練習して父親の署名をまね、買い取りの受付に出すが、店長にバレてしまう。困った安積はあることを行うが・・・(「翳った指先」)。
 アパートの一室に集まった3人は、拉致してきた男を3人で殺害しようとナイフを3人で持って男の身体に振り下ろすが・・・(「刃の行方」)。
 空き巣に入った箱村は、急に帰ってきた家人の女性を見て逃げようとするが、女性は目が見えないらしいことに気づく。彼は息を詰めて部屋から女性が出て行くのを待つが・・・ (「交点の香り」)。
 物語は冒頭の「白い修道士」から最後の「交点の香り」に向かって時を遡っていきます。同じ町を舞台にしていますが、「白い修道士」と「交点の香り」にストーリーの繋がりかおることを除けば、ある物語の登場人物が別の物語で登場しているという点はあるものの、直接にはストーリーに繋がりはありません。連作短編集によくあるラストの話でそれまでの話の謎がいっきに明かされるという形式にもなっていません。ただ、どれも、ほんのちょっとした言葉や行動の裏に意外な真実が隠されていたり、ささいなことから驚きの事実が導き出されたりというストーリーになっています。
 話としては面白かったのですが、「暗い融合」のように、「え?こんなことあるの?」と思ったり、「こんなに簡単に二つのことをつなぎ合わせて考えることができるの?」と、思うことが多かった気がします。登場人物たちの推理力が凄すぎます。 
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血縁  集英社 
 7編が収録された短編集です。
 冒頭の題名となっている“文字盤”とは、言語障害者が意思表示のために使う五十音を一枚のノートやカードに書いたコミュニケーション支援道具だそうです。コンビニ強盗のちょっとしたしぐさに違和感を抱いた刑事・寺島が解き明かす事件の裏に隠された真実はあまりに辛すぎます。
 「苦いカクテル」と「32-2」は、どちらも法律問題をモチーフにした作品です。前者は老いた父親を介護する姉と妹の物語です。父親を毒殺したとして逮捕された姉を弁護士の妹が弁護します。妹が法廷で論じたことは、そういえば学生の頃刑法の講義の中で聞いたことがあるなぁと記憶が蘇りました。謎解きよりは刑法の講義のような話でした。後者は、主人公がそばにいる記憶を失った人のために、その日に起こった出来事を語っていくという形をとっていますが、主人公が語っている相手が誰かということがまずは謎です。題名はある法律の条文です。こちらは条文そのものなので、犯人の行動はこのためかとすぐにわかりました。
 「オンブタイ」は、交通事故で盲目になった主人公の所に新しいヘルバーがやってくるところから姶まる物語ですが、盲目の主人公の語りということもあって、読者にも何が起こっているのかわからないという、読んでいて恐ろしさがあります。
 表題作の「血縁」もミステリというよりホラーといった方が相応しい作品です。子どもの頃から支配的な姉・令子に苦しめられている妹の志保が、介護ヘルパーで行った先で起こった事件を姉に目撃されたことから恐ろしい事実に気づいていきます。とにかく姉の令子が妹の志保をなぜそこまで虐めるのか、志保もなぜ令子の手の届かないところにいかないのか、ちょっと理解できません。血縁ということに縛られるんですかね。
 「ラストストロー」は、死刑執行に際し、三つのボタン(このうちの二つが実際に死刑囚の足下の床が開くためのもので、あとはダミーだそうです。)を押す担当となったことにより重荷を抱えることとなった3人の元刑務官の物語です。長岡さん自身が言うとおり、死刑執行者になるという心の負担を軽くするためのダミーのボタンというアイデアを膨らませた話となっています。寓話からとられた「ラストストロー」という題名が意味するところがおもしろいです。
 「黄色い風船」は、これまた刑務官が主人公です。愛犬のとった行動からあることに気づくという話です。犬ってこんなに凄いの!と感心してしまう作品です。 
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教場0 刑事指導官風間公親  小学館 
 6編が収録された教場シリーズ第3弾です。前2作では警察学校の教官であった風間公親が県警捜査一課強行犯孫にいたときのことが描かれます。風間はここで所轄の若手刑事を実際に起きた殺人事件をもとに3ヶ月指導する立場となっています。それは“風間道場”と呼ばれ、ここを無事卒業した者は例外なくエース級の刑事として活躍しているというもの。捜査一課であっても、新米刑事を厳しく指導するのは警察学校と同じ。警察学校での「退校届」が、ここでは「転属願」に変わっただけです。              物語の形式としては倒叙ミステリであり、最初に犯人の側から事件が描かれ、それを風間の元に来た新米刑事が風間の厳しい薫陶を受けながら真相を暴いていくという形になっています。しかし、「三枚の画廊の絵」のように、机の上に置いてある「転属願」を常に見ながら捜査をするのも辛いですよね。それも日にちが過ぎるにつれて、空欄だったところが次第に埋められていくのですから、いくら新米刑事を追い込むことで鍛えていくとはいっても、これってパワハラじやないかと言いたくなります。
 刑事コロンボヘのオマージュなのか、各話の題名は刑事コロンボの作品をもじったものとなっているそうです。 Wikipediaで調べたところ、「仮面の軌跡」は「仮面の男」、「三枚の画廊の絵」は「二枚のドガの絵」、「ブロンズの墓穴」は「権力の墓穴」、「第四
の終章」は「第三の終章」、「指輪のレクイエム」は「偶像のレクイエム」、「毒のある骸」は「毒のある花」のようです。
 テレビで刑事コロンボを見たとき、コロンボが推理を披露しても、犯人が諦めて白白さえしなければ、裁判で勝てるのではないかと思ったときがあったのですが、それはこの作品でも同じです。「仮面の軌跡」、「三枚の画廊の絵」などは、白白さえしなければ、確かに怪しいとまでは裁判官に思ってもらっても、有罪まで持ち込めるのか疑問です。「毒のある骸」にしても、犯人が自分のミスを隠そうとしたという証拠は残っており、それが犯行の動機と推論できても、ストレートに殺しの証拠とはならないのでは・・・。この話はなぜ助手が苦しむ中で坂を登っていったのかの謎解きの方がおもしろいです。まあ、深く考えると、作品を楽しむことができませんね。どれもテレビドラマ化した方がおもしろい作品のような気がします。
 ラストの「毒のある骸」では、犯人が白白して一件落着のあとに、思わぬ事件が起きます。これが風間が警察学校の教官になるきっかけだったのでしょうか。 
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にらみ  光文社 
 7編が収録されたミステリー短編集です。
 今回の短編集は、意外と強引にこれでどうだ!というものが多かった印象を持ちました。幹部の代わりに警察に出頭する弟分のために、ある餞別を送ろうとする兄貴分を描く「餞別」は、これはちょっとでき過ぎというか偶然が重なり過ぎですし、遺品整理業を営む養父と実の父を探す養子を描く「遺品の迷い」では、“倒産”という言葉があのように聞こえるのかなあと大いに疑問です。また、「実況中継」はミステリーらしいトリックですが、大勢の人の協力がなければできないトリックであり、すぐ警察にバレてしまいそうです。
 また、強引さは亡くても、「白秋の道標」での妊娠検査用動物として利用できるアフリカツメガエルの登場や、「百万に一つの崖」での百万人に一人の珍しい血液という設定で、だいたいのストーリーが想像できてしまいました。
 そんな7編の中で個人的に一番好きだったのは、表題作の「にらみ」です。被疑者の保原が犯した別の事件で“にらみ”を担当した刑事の片平は、保原が仮釈放中に保護司の金目当てに農薬を飲ませて殺そうとした事件の取り調べを担当するが、保原の自供に片平は違和感を覚える・・・。“にらみ”とは、刑事が被疑者の裁判の傍聴に行って、傍聴席の一番前の席に座って被疑者が供述を覆したりしないよう無言の圧力を加えることだそうです。トリック自体は既存のミステリーの中にもみられるものですが、この作品では“にらみ”を見事にトリックに消化しています。 
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道具箱はささやく  祥伝社 
  18編が収録された短編集です。短編が得意な長岡さんですが、今回は短編といってもどれもが原稿用紙20枚以内に収められたこれまで以上に短い作品となっています。その短さの中で伏線をそっと張ってラストで回収し、「なるほど!」とうならされる作品ばかりですから見事なものです。本当に伏線の張り方が巧みですね。もちろん、ちょっと強引かなというものもありますが、そこは原稿用紙20枚の中ではやむをえないのかな。
 その中でも個人的に一番気に入ったのは「ヴィリプラカの微笑」です。靴店を経営する友人から夫婦喧嘩を調停するというヴィリブラカの像をもらった多恵。その像の前で夫婦が互いに言いたいことを正直に言い合うが、ただし相手が言い終わるまで口は挟まない。古代ローマ人はこのルールで互いに文句を言えば夫婦喧嘩は解決すると考えていたが、果たして・・・という作品です。とにかく、伏線が何かというところが巧みでしたねえ。結末も、手ごろな凶器がありますから、てっきり落としどころはあそかと思ったら見事にうっちゃられました。
 「仮面の視線」もうまいですねえ。強盗を殺してしまったササキは犯行を見られたと思った男を殺害してしまう。ところが・・・という話です。人間を襲うという虎が出没する部落で、背後から襲われないために住民が行うあることを知って殺人を犯したササキは愕然としてしまいますが、自分で勝手にああだこうだと思い込んで墓穴を掘るということはありがちです。
 「戦争ごっこ」は、認知症が進み大きな音がすると悲惨な戦争時を思い出し、爆弾が落ちたと勘違いするようになった祖父の面倒を見る嫁とその息子の物語です。ストーリー展開よりも、機転が利く息子に拍手。あの歳の男の子はなかなか素直に口には出さないものですよね。
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救済  講談社 
 6編が収録された短編集です。
 「三色の貌」は、ちょうど給料の支給日に東日本大震災で倒壊した漬物メーカーの社屋で起こった火事場泥棒による強盗事件を描きます。冒頭に「社員文集より抜粋」という文章が置かれ、その後にこの文章を書いたらしい人物が描かれるのですが、その行動がどこかおかしい。ミステリ読み慣れしている人には、この人物の行動の原因はどこから来ているものか簡単に推測できますが、そんな彼の言葉から犯人を見つける方法はまったく想像できませんでした。
 「最期の晩餐」は、弟分の不始末の落とし前をつけるために兄貴分がとった行動を描きます。題名はやくざが不始末を犯した弟分を始末する前に彼の好きな料理を食べさせる「最後の晩餐」をする習わしから。それにしても、いくらああいう行動を取ってもそうそううまくはいかないでしょうに。あの結末はできすぎです。
 「ガラスの向こう側」は、元鑑識係の警察官が殺人現場で証拠隠滅を図った事件に親子の刑事が挑む話です。読んでいて、ある事実に違和感を覚える読者もいたでしょう。そこから犯人も、そしてその動機も推測できたのではないでしょうか。
 「空目虫(そらめむし)」は、6編の中で個人的に一番面白かった作品です。介護福祉士の脩平は認知症の人を元気にする絶対のコツは本人の「得意なこと」をやらせることであり、うまくできることをしていると、誰もが無邪気な笑顔を見せるものだと考えている。そんな脩平に施設長の坂東は、体験利用者用のイスに座っているタカハシという老人に笑顔をプレゼントしてあげてと依頼される・・・。ある事実が明らかとなったときに「そうか、あれが伏線だったのか。やられたなぁ」と思わされ、そして切なくなります。
 「焦げた食パン」は、ノビ師と呼ばれる窃盗犯の石黒がかつて大金を盗んだ家に再び侵入し捕まるまでを描きます。鍵は開けたまま、物の置き場所はめちゃくちゃだったので、家人の老人は認知症になっているのではないかと考えたが、実は・・・という話です。題名の「焦げた食パン」の意味するものに気づく人も多かったのでは・・・。
 「夏の終わりの時間割」は、小学6年生の男の子と、スズメバチに刺され高熱が出たことが原因で精神薄弱となった19歳の少年の交流を通しながら放火事件の真相を描きます。放火犯と疑われている19歳の少年が精一杯考えた行動に哀しくなり、彼を思う小学6年生の少年の行動が胸を熱くします。 
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119  文藝春秋 
 消防官、元消防官、消防官の家族を主人公に描く9編が収録された連作短編集です。
 研修の帰りに石を拾って川原に降りていく女性の自殺を思いとどまらせた今垣は、やがてその女性・三咲季と交際するようになる。ある日、自殺を図っている女性がいるという通報を受けて向かった先は三咲季が住むアパートの部屋だった。今垣と交際している三咲季がなぜ再び自殺を図ったのか・・・(「石を拾う女」)。
 新人の土屋の特技は一度聞いた曲を諳んじることができるというもの。そんな土屋がある日の火災現場で上司の栂本が現金の入った封筒らしきものを防火服の中に隠すのを目撃する。不信感を抱く土屋に栂本は防火服の洗濯を命じる・・・(「白雲の敗北」)。
 女性レスキュー隊員の志賀野は休暇中に火事を発見、通報したが逃げ遅れた子どもが焼死する。原因は隣家の男が庭でごみを燃やした際の火の不始末と思われたが・・・(「反省室」)。
 小学校から依頼された講演の講師役を命じられた大杉は最初は無理だと断ったが、結局は引き受ける。講演の際、最近自分が経験した、犬にかまれている人の救出にあたった経緯を話して無事に役目を果たしたが・・・(「灰色の手土産」)。
 ある日、友人の家で飲み潰れた元消防官の垂井は深夜に火事で目覚めて逃げ出すが、友人は一酸化炭素中毒で死んでしまう。元上司から火災現場に呼び出された垂井は、原因がペットボトルに当たった太陽の光による収斂火災だと言われるが、そのペットボトルは垂井が置き直したものだった・・・(「山羊の童話」)。
 かつて音楽教師だった栂本康二郎は家具の移動の手伝いを友人に頼まれ、友人宅を訪れる。栂本がトイレに入っているときに、1人で家具を動かそうとした友人が倒れた家具の下敷きになって意識を失い、栂本もトイレのドアが倒れた家具によって開けられなくなり、閉じ込められてしまう・・・(「命の数字」)。
 部下を殉職させたことに責任を感じ、危険な南米コロンビアでのレスキュー講師派遣に手を挙げ、コロンビアを訪れた猪俣は、反体制組織によって拉致監禁されてしまう。しかし、何日か経って誰も姿を現さなくなり、このままでは餓死すると、脱出を図る・・・(「救済の枷」)。
 土屋はこのところ、上司のパワハラで退職を考えるまでに精神的に追い込まれていた。ある日、火事の通報で土屋が向かった先はそのパワハラ上司の住むアパート。たまたま引っ越しの手伝いに来ていた同僚の大杉は救出できたが、上司は焼死してしまう・・・(「フェイス・コントロール」)。
 西部分署副所長の吉国は殉職した同じ消防官だった息子のために、同僚たちを招いたお別れ会を開き思い出を語るが、彼の真意は別のところにあると気づいた今垣は・・・(「逆縁の午後」)。
 そこかしこに張られた伏線を回収することによって、現れている事実が違う様相を見せるという長岡さんお得意の短編の切れを見せてくれます。消防士としての知識により、ストーリーが成り立っているものが中心ですが、「白雲の敗北」のように消防士というよりその個人の資質を題材にしたものや、「灰色の手土産」のように消防官に限らず誰もが持つであろう気持ちを題材にしたものなど様々な内容のストーリーになっています。「命の数字」など息子が消防士というより自分自身が音楽教師だったことがミソ。へぇ~そうなんだ、そんなこと可能なんだとびっくりです。
 冒頭の「石を拾う女」からラストの「逆縁の午後」までの間に10年以上の時間の経過があり、その間に幸せを掴んだ者、家族を不幸が襲った者など、いろいろな人生が垣間見えてきます。消防士だからといって常にヒーローというわけではなく、悩んだり苦しんだりすることは普通の人間と変わりはなく、そんな悩み、苦しみを抱えた消防士が描かれていきます。あまりに悲しいのはラストの「逆縁の午後」です。父親として浮かび上がってきた事実は辛すぎるし、残酷です。 
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風間教場  ☆   小学館 
 警察学校の教官である風間とその学生たちを描く教場シリーズ第4弾です。
 これまでのシリーズ作品では、警察学校の教官としての風間が、警察官として必要な人材を育てる前に不要な人材を退校させる様子が描かれましたが、今回、風間に課されたのは新規採用者を「退校者0」で警察学校から送り出すことです。
 警察学校の教官・風間公親は、学生たちのわずかなミスもすべて見抜いてしまう鬼教官として恐れられていたが、新しく赴任した校長の久光から「退校者ゼロ」のモデル教場をつくるよう命じられる。そして、一人でも学生が辞めることになったら、風間自身も辞めることになることを約束させられる。果たして、6か月間という期間の中で風間は一人も辞めさせないことができるのか・・・。
 長編という形式を取っていますが、実際は連作短編集のように、学生たちが退校するのか、あるいは退校処分になるのかどうかというハラハラとしたいくつかのエピソードを描きながら、校長から課せられたミッションを風間がクリアできるかどうかを描いていきます。
 この作品には、シリーズ第1作の「教場」に登場した宮坂が先輩警察官として顔を出したり、優秀な刑事であった風間が警察学校の教官となる原因となった事件に関わった(というより、事件の当事者であった)平が刑事課から異動となって風間の下で助教をやっているのもシリーズファンとしては嬉しいところです。 
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緋色の残響  双葉社 
 第61回日本推理作家協会賞短編部門受賞した「傍聞き」、そして「赤い刻印」の表題作に登場した捜査一課強行犯係のシングルマザーの刑事・羽角啓子とその娘・菜月を主人公に描く5編が収録された連作短編集です。
 冒頭の「黒い遺品」は、殺人事件の容疑者の目撃者となった菜月が似顔絵を描くことによって犯人が逮捕されるストーリーですが、その似顔絵を描くのに用いたものが意外なもの。でも、その意外なもので描かれる伏線がきちんと張られているのはさすが長岡さんです。
 「翳った水槽」は、菜月の担任の女教師が殺害された事件を描きます。被害者が飼っていたメダカが事件解決の決め手となるというストーリー。ある事実が明らかとなったときに、なるほどそうなのかぁと驚かされる一編です。あとの「暗い聖域」でもそうですが、相当な知識がないと気づくことができませんね。
 表題作の「緋色の残響」は、菜月が幼い頃通ったピアノ教室で菜月の同級生がピーナツのアレルギーで亡くなった事件が描かれます。絶対音感を持つ菜月が事件解決に一役買うというストーリー。解決があまりに偶然に寄りかかる話のような気がしないでもありません。
 「暗い聖域」は、菜月に料理を教えて欲しい、アロエの苦みを消したいと頼んできた同級生の男の子が崖から突き落とされた事件が描かれます。啓子が菜月に「あの子を助ける」と言った「あの子」とは誰のことなのかがこの物語の肝となります。人の嘘を見抜く才能に優れている啓子の才能の一端を見ることができる作品です。   。
 最後の「無色のサファイア」は、啓子の元に菜月の担任から、菜月が同級生たちにファミレスで奢っていることから、いじめられているのではないかという電話があったことから始まります。新聞記者を目指したいという菜月の地道の努力が実を結ぶと共にイジメの真実が明らかになります。まあ、ちょっと現実には難しいのではと思ってしまいますがね。 
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つながりません スクリプター事件File  角川春樹事務所 
 題名にある「スクリプター」とは、映画の製作現場において、撮影シーンの様子や内容、物語の繋ぎなどを管理する役目の人。物語は7章からなり、各章、語り手を替えながら、スクリプターである真野韻(ひびき)が映画の撮影を巡って起こる事件等を解決していく様子を描きます。
 やはり、この作品の特徴はスクリプターという通常あまり表に出てこない職業に光を当て、その職業ならではの優れた記憶力と観察眼を持った女性・真野韻を探偵役に据えていること。しかし、韻が疑問を呈するのはシーンが“つながらない”ことへのこだわりであって、事件を解決しようという正義感からではないようです。大きすぎるセーターに、頭頂部を少しずらした位置で丁髷状に結った髪という外観に加え、笑わず、声を荒げることもなく、冷静に真実を明らかにしていく韻のキャラは印象的です。読んでいるうちに彼女の価値観が一般人とは違うことが明らかとなってきて、不気味さを感じるようになるのですが・・・。
 第1章では、映画製作中に主演女優(これが韻の姉)が自殺シーンの練習で誤って死んでしまうという事件が起きますが、この事件がさらっと流されるので梯子を外された感じのまま第2章へと進んでいきます。
 第2章ではそれから3年後、第1章でスタントマンをしていたが、その後主演男優を演じるまでになった土岐田が語り手。この話には読者を騙す仕掛けが施されています。
 第3章では語り手は自主製作映画を製作中の高校の映画クラブの男子高校生。撮影所に見学に来た彼らと知り合った韻が彼らの周囲で起きた傷害事件の真実を明らかにします。
 第4章では語り手は韻の高校の同級生である社会人野球の選手。社会人野球のドキュメンタリーを製作中に起きた殺人事件を韻が解決します。
 第5章では語り手は第1章に登場した映画監督の森次。コロンボ好きの助監督の犯した罪を韻が暴くのですが、物語は「刑事コロンボ」のように倒叙形式で描かれます。また、ここで先に何気なく触れられていたひき逃げ事件の真相も明らかとなります。
 第6章では語り手である若い頃の麻薬使用で脅迫されている俳優・牧田の悩みを韻が解消してあげるのですが、ここに至っていよいよ韻の不気味さが発揮されてきます。そして最後の第7章に突入して、ようやく消化不良のまま残っていた第1章の謎が解決という流れになっていますが、韻のキャラもあって、全体的にちょっとダークな作品になっていますね。 
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巨鳥の影  徳間書店 
 8編が収録された短編集です。
 短編の名手と言われるだけあって、どれも短い話の中にさりげなく伏線を張っておいて、最後にそれを回収するというお手並みは見事です。
 表題作の「巨鳥の影」は離れた場所にいて携帯もない二人がどうやって連絡を取ることができたのかが謎となりますが、これは以前テレビの所ジョージさんの「笑ってコラえて!」でやっていたことを思い出しました。
 「死んでもいいから」は盗みに入った犯人をゴルフクラブで撲殺した女性教師の話です。1ページ目から重要な伏線が張られていました。「盗犯防止法」と「正当防衛」の話は大学時代の刑法の時間で勉強したことを思い出しました。
 「水無月の蟻」は蟻を飼育する趣味を持つ主人公から、なぜ隣人の女性が蟻の入った水槽を借りていったのかが謎となります。これを読んで思い出したのが、昔家の中に出現したゴキブリをゴキジェットで退治して庭に捨てたのですが、普通なら死んだ虫に集まる蟻が薬品がかかったゴキブリにはまったく集まらなかったこと。蟻って利口なんですねえ。
 「巻き添え」はデパートの屋上から飛び降りた娘に通行人が当たって死亡してしまうが、その通行人が同級生の母親という確率的に少ないだろうことが起こりうるのかが謎となります。
 「鏡面の魚」は患者が誤投薬で死亡するが、医師が看護師に指示した薬品名を書いた手鏡には誤った薬品名が書かれており、医師のミスとされた事件が描かれます。果たして本当に間違えたのかが問題となりますが、ここで語られるトリックは一度試してみたくなります。
 「白いコウモリ」は再生不良性貧血で入院する少年が医者が話したある言葉を吸血鬼と聞き間違えるが、実はそれは・・・という話です。これはちょっと悲しいというか、愛ってすごいなと思わされる作品でした。
 「見えない牙」は浮気の証拠の入ったスマホを持って外に飛び出していった義理の娘を追っていった男の末路を描きます。これまたラストを想像させる伏線が最初の方にさりげなく張ってあります。小学生の女の子、ここまでわかっているのかなあとちょっと疑問。
 「再生の日」は家の破産で医学部を辞めざるをえなくなった主人公が、世を恨み過激派に身を投じ爆弾を作るが、アジトに持っていく途中で寄ったフィットネスクラブで盗まれてしまう。その犯人は誰という話ではなく、爆発したのに怪我の兆候が外から見られないのはどうしてかという点が謎となります。これはちょっと後味はよかった話です。
 本の帯には「犯罪の傍らに、鳥、蟻、魚、コウモリ、犬、プラナリアetc.生き物がいる。」とありますが、「死んでもいい」と「巻き添え」には生き物は見つけられませんでした。どこかに登場しましたっけ? 
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教場X 刑事指導官風間公親  ☆  小学館 
 木村拓哉さんが風間を演じるテレビドラマの反響もあって、警察学校の教官として知られる風間ですが、この作品では教官になる前の捜査一課で刑事指導官をしている風間が描かれます。刑事指導官としては「教場0 刑事指導官風間公親」に続く2作目となります。
 捜査一課で所轄の若手刑事を実際に起きた殺人事件をもとに3ヶ月指導する立場である風間ですが、そのシステムは“風間道場”と呼ばれ、ここを無事卒業した者は例外なくエース級の刑事として活躍しているというもの。今作品でもラストの「仏罰の報い」を除き5人の新人刑事が“風間道場”で鍛えられます。
 「教場0」同様どの話も倒叙形式となっています。そのため、作品の面白さは犯人当てではなく、風間、というより新人刑事がなぜその人物が犯人なのかを指摘するところにあります。どの作品も張り巡らされた伏線をうまく回収しており、謎解きがされると、「あ!だからあそこにああいう記述があったのかぁ・・・」と納得させられます。
 犯人としては、まさかと思うでしょうが、読者としても犯人がわかる理由には驚かされます。地図にあんなことがあるなんて知っている人はそうそういないでしょうし、おなかの中にあんなものが入っているとは誰も思いませんし、それが出てくるなんて更に考えられません。また、うまく殺害したと思ったら実は想像もできないしっぺ返しをされていたなんて、驚くしかないですよね。もちろん、その前に伏線がしっかり張られているのですけどねえ。
 どれも捜査一課に配属された新人刑事が風間の薫陶を受けて事件を解決するというパターンになっていますが、最終話だけが異なります。この事件に呼ばれたのは「教場0」で既に風間道場に入ったことがあり、風間が義眼となる事件の際、一緒にいた平優羽子です。彼女を登場させることにより、風間と風間を義眼にした犯人、十崎との戦いが続いていることを読者に知らせます。 
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殺人者の白い檻  角川書店 
 脳外科医の尾木敦也は6年前に強盗によって両親を殺害されて以来、人の命を救うことに無力感を感じるようになり、それがピークに達した今、彼は病院を休職していた。そんな彼に、院長から脳動脈瘤破裂で倒れた患者の手術をするよう呼び出しがかかる。手術が終わりに近づいたとき、尾木は患者が彼の両親を殺害した犯人として逮捕され、一貫して殺人について無実を主張したものの死刑が確定し、服役していた定永であることを知るが、動揺しながらも手術を終える。手術後、リハビリをしてある程度機能が回復すれば死刑の執行が近づくため、最初はリハビリを拒否していた定永だったが、やがてなぜかリハビリを始めるようになる・・・。
 果たして定永は犯人なのかがメインの謎ですが、真犯人は誰かということより、どうして真犯人であることが分かったのかというところがこの物語のキモです。そして、それが説得力あることは、ある伏線が張られていたことで、「なるほどなあ!」と納得させられます。この辺りうまいですねえ、長岡さん。 
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新・教場  小学館 
 教場シリーズ第6弾です。プロローグとエピローグに挟まれた6話が収録されています。時系列的には風間が“千枚通し”の異名を取る十崎という犯罪者に狙われているため、現場を離れて警察学校の教官に異動してからのことが描かれますので、「教場0」と「教場X」の次ということになります。警察学校での一番最初の教え子たちとの関りが描かれます。
 今回も(というか、ここから始まるのですが)警察官として相応しくないと風間に判断された者たちが警察学校を去っていきます。警察官として一般市民を危険から守り、そのために凶器ともなる拳銃を所有するのですから、順法精神のない人はもちろん、精神的に弱い人、危険に対処できない人、警察という権力を持つことで逆に勘違いしてしまう人などが警察官になったら大変です。今回も学生たちのちょっとした行為、態度から警察官として適正でないことを見極め、非情に退校願を書かせます。
 その中で、「次代への短艇」は風間にとって珍しく学生を応援するラストとなっています。もちろん、真正面から優しい言葉をかけるのではなく、ある物を渡すのですが。でも、こんなものを貰ったら普通は恐いですよね。素直に喜ぶことはできませんし、何のことだと思ってしまいます。
 また、「カリギュラの犠牲」ではある人物が警察官になろうとした本意を見抜き、退校願を書かせます。本人はそれでよかったのでしょうが、ただ、卒業式の親も来ている中で卒業させないのですから、親としてはたまったものではありません。
 ラストに書下ろしのエピローグが加えられています。このエピローグの中でこのシリーズには重要な事実が語られていますが、「え?それでおしまい?」と、シリーズファンとしてはあまりにあっけないと思ってしまうのではないでしょうか。 
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切願 自選ミステリー短編集  双葉文庫 
 デビュー20周年を記念してこれまで様々な短編集に収録されていた作品の中から著者自らが選んだ5編を再収録。加えてこれまで収録されていなかった第25回小説推理新人賞受賞作「真夏の車輪」を収録した文庫オリジナルの短編集です。「真夏の車輪」以外は既読でした。
 再収録の5編は、姉の主治医が釣りに誘った理由は何だったのか(「小さな約束」)、息子が死んだ部屋に住み始めた母親の思いは何だったのか(「わけありの街」)、飼い犬が散歩の途中でいつも同じ人にすり寄っていくのはなぜなのか(「黄色い風船」)、やくざが自分の弟分たちにさいころゲームをさせた理由は何か(「苦い確立」)、娘を轢いた男を起訴しなかった検事を救急車に乗せたまま、病院の周囲を回る救急隊員の目的は何か(「迷走」)。
 そして、初収録の「真夏の車輪」は、母校の野球応援で野球場に行ったが、乗ってきた自転車がバンクしてしまい、帰る手段のために自転車を盗んだ高校生と、たまたま兄に黙って乗ってきた自転車を盗まれた高校生という同じ高校生の加害者と被害者の意識を描きます。 
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球形の囁き  双葉社 
 「傍聞き」のシングルマザーで刑事の羽角啓子と娘の菜月を主人公とする「緋色の残響」に続く連作短編集です。 5編が収録されています。「傍聞き」では小学生だった菜月がこの作品集では中学生、高校生から大学生となり、更に夢をかなえて地元新聞社の記者へと成長した姿が描かれます。
 表題作の「球形の囁き」は大学生になった菜月のアルバイト先の仲の良い女性が殺害された事件の謎を菜月が解き明かします。東野さんのガリレオシリーズを彷彿させる科学的知識がないと解けない謎を理系脳の菜月が解き明かします。理系が苦手の私としては、説明がされても頭の中でうまく理解することができませんでした。しかし、このラストはちょっと怖いです。科学的知識が必要ということでは冒頭の「緑色の暗室」の謎解きも同じですね。
 「路地裏の菜園」は菜月がベビーシッターをしていた家の女性が階段から突き落とされるという事件が描かれます。なぜ、彼女が狙われたのか。これはうちの家でもそうだなあと納得の種明かしです。
 まさかそんな展開になるとはという驚きをもったラストになるのが「落ちた焦点」。ここでは、新聞記者になった菜月に恋人、それもその恋人が啓子の相棒であるという母娘にとっては幸せな展開になると思ったのですが・・・。
 ラストの「黄昏の筋読み」は啓子が警察を定年退職し警察に再任用されてからの話です。再任用となっても変わら
ぬ啓子ですが、菜月もしっかりと生きている姿を知ることができます。シリーズもこれで完結ということになりますか。 
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