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永井紗耶子の本棚

  1. 木挽町のあだ討ち
  2. めぐる糸 明治浪漫霊異譚

木挽町のあだ討ち  ☆  新潮社 
 初めて読む永井紗耶子さんの作品です。これはいいなあ、今年上半期の直木賞の候補作というより、直木賞を受賞するのではないでしょうか。
 木挽町の芝居小屋・森田座の裏通りで若侍・菊之助が父親を殺害して出奔した家人の男・作兵衛を見事討ち取り、首級を挙げた仇討がなされる。それから2年が過ぎ、ある若侍がその仇討を目撃していた6人の男女の元を訪れて、仇討の様子を聞いて回る。若侍はなぜか仇討のことだけでなく、その人たちの“来し方”を話してほしいとの菊之助の文を持っていた。若侍は何者なのか。なぜ、若侍は彼らから彼ら自身のこと、彼らの“来し方"までも聞くのかという謎を抱えながら物語は進んでいきます。
 仇討の様子を語る6人は、吉原に生まれた元幇間の木戸芸者の一八、武士でありながらある事件がきっかけで武士を捨てた立師の与三郎、母を亡くし、ひとりぼっちになり、隠坊に育てられた衣装係でもある女形の二代目芳澤ほたる、元は木彫り職人だった小道具係の久蔵と与根の夫婦、旗本の次男坊でありながら、芝居に魅せられ武士を捨て筋書となった篠田金治。
 若侍に語る、彼らが芝居小屋に関わる仕事につくまでに辿ってきたそれぞれの語る“来し方"が読ませます。特に、武家屋敷の仕事からなかなか抜け出せず、ようやく帰ってきても一人息子の死を見ているだけしかなかった久蔵に市川團蔵から注文されたのが子どもの切り首というストーリーはそれだけで泣かせます。そんな久蔵の話だけでなく、それぞれの話が、実は菊之助の仇討に大いに関わりがあり、彼らあっての仇討の成功だったということがわかったときは、作者の永井さんにやられたなあと脱帽です。
 6人目の篠田金治の語りで、仇討に隠されていた事実が明らかになりますが、更に終幕である人物の語りですべてが明らかになる構成は見事としか言いようがありません。今年、これまで読んだ本の中でマイベスト1です。 
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めぐる糸 明治浪漫霊異譚  ☆  双葉社 
 時は明治39年。僧侶だった母方の血筋からか、幼い頃から霊を見ることができる帝大生で新聞社でアルバイトをする斎木啓吾とその友人で華族の次男坊である連翹寺正周の二人が霊異の謎を明らかにしていく5編とエピローグ的な「終」が収録された連作短編集です。
 啓吾は江戸から明治へと変わる際の上野戦争で命を落とした男の霊の頼みで男の妻と、彼が命を張って助けた幼い娘の行方を捜す。・・・「ロマン髑髏」
 お祈りをする猫の噂を聞いた啓吾は、探し出したその猫に乗り移っていた元太夫の霊からの頼みで彼女が落籍されたときに別れた子どもの行方を捜す。・・・「祈り猫」
 浅草の凌雲閣に展示されている正周の許嫁である松木原男爵家の令嬢・薫子の写真の顔が笑うという噂を調べる啓吾は正周とその写真を見て意識不明となっている薫子の友人の家を訪ねる。・・・「笑う写真」
 教授宅に本を届けた帰り、啓吾は道に迷い、目にした風呂敷包みから伸びている糸に引き寄せられるうちに、人力車に連れ去られた祖母を探す正周と出会う。啓吾と正周との初めての出会いを描きます。・・・「霧箱の糸」
 幼い頃行方不明となっていた富豪の娘が10年ぶりに見つかり、無事を祝うパーティーが行われるが、その席で娘は叔母の夫に飛び掛かる。・・・「生きていた令嬢」
 霊が取りつくと言っても、啓吾に取りつく霊は悪さをするというより啓吾に何かをしてもらいたいという霊で、それほど恐ろしい存在ではありません。恐怖を煽るような怪異譚ではなく人情味あふれる話が読んでいて心地良いです。中でも最初の「ロマン髑髏」の結末の落としどころはここだったのかあと拍手です。
 また、啓吾を取り巻く華族の次男坊で長男がしっかりしていることをいいことに自分の好きなことに力を注ぐ正周も、そんな正周をなぜか気に入って結婚相手に考える薫子、そしてうらびれた場所に住みながらも高名な占い師である峯斎など魅力的なキャラが登場し、読み終えたあとの満足感が高いです。
 物語は1話完結という形式を取りながら、「祈り猫」で火事の中、子どもを連れて逃げた禿の皐月であり、「笑う写真」で薫子の写真を撮った写真館で働いていた凛の正体の謎は残されたままであり、また、占い師の峯斎からは啓吾と正周との間にも実は何らかの関係があることが仄めかされるなど、続編が期待できる流れとなっています。 
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