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村山由佳の本棚

  1. 風は西から

風は西から  幻冬舎 
 伊東千秋と藤井健介は大学時代同じサークル仲間だったが、就活を機に交際を始めるようになり、今では健介は千秋を故郷・広島の両親に紹介するまでになっていた。健介は両親の経営する居酒屋を継ぐため、実地にノウハウを学ぼうと、大手居酒屋チェーン「山背」に就職、千秋は大手食品メーカー「銀のさじ」に就職して双方とも忙しい毎日を送っていた。やがて繁盛店の店長となった健介は赤字を出さないために寝る間も惜しんで働くようになり、心身ともに疲れ果ててマンションから飛び降り自殺をしてしまう。どうして彼を救えなかったのかと後悔する千秋は、健介の両親とともに非を認めようとしない「山背」とを訴えるが・・・。
 電通の女性社員の自殺以降、遅すぎた感はありますが、働き方に対する考えも、バブル期のような「24時間働けますか」という考えから変わってきましたが、ついこの前まではこの作品の話のようなことはゴロゴロとそこらへんに転がっていました。
 この話は、やはり社員の働き過ぎによる自殺によってブラック企業と世間で言われた某大手居酒屋チェーンのことをモデルにしているとしか言えません(参考文献の中にもその企業の過労自殺を扱った本があります。)。社員には創業者の著作を買わせ、それを丸暗記させて試験をする。人件費を削り、その分社員に負担を上乗せし、タイムカードを押したうえで残業をするのが当たり前のように洗脳する。そんな企業の創業者がカリスマ経営者としてちょっと前までは崇め奉られていたのですから、恐ろしいことです。創業者からしてみれば、自分は睡眠時間も惜しんで頑張ってきたからこそ今の会社になったんだと思うのでしょうが、それをすべての社員に押しつけることが正しいとは決して思えません。
 この作品では、息子のために大企業にしっかり対峙する両親と恋人、そしてそれを支える弁護士と職場の仲間がいたからこその、企業側の謝罪となりましたが、過労死が問題視される今でも、簡単には働き方を変えていくのはなかなか難しいです。 
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