桜風堂ものがたり | PHP研究所 |
駅前商店街の百貨店の中にある銀河堂書店で、文庫の棚を担当する「宝探しの月原」と呼ばれる未知のヒット作を発掘する天才、月原一整。ある日、万引きをして逃げた少年を追いかけたところ、少年が車にはねられるという事件が起き、ネットで万引きをした少年、そして彼を脅して万引きをさせた上級生ではなく、追いかけた一整に非難が巣中してしまう。店や百貨店に迷惑がかかることを恐れた一整は、アルバイト時代から通算1O年働いた銀河堂書店を退職する。退職した一整は、以前からネットで親交のあった桜野町にある桜風堂書店を訪ねるが、店主の老人は入院しており、一整の事情を知っている店主から、桜風堂をやってみないかと言われる・・・。 題名が「桜風堂ものがたり」なので、桜風堂を任された一整が田舎町にある老店主が大切に育て上げた店をどう切り盛りしていくかが描かれるのが、物語の主たるストーリーかと思いましたが、予想とは異なりました。物語は、銀河堂を辞める前に一整がこの本は売りたいと言っていた、かつての売れっ子シナリオライターの団重彦の書いた「四月の魚」を、一整だけでなく、銀河堂書店や彼らに関わりのある人たちが「売りたい!」と考え、行動する様子を描いていきます。 サンタクロースじみた巨漢のPOP作りが好きな店長の柳田、推理小説誌にコラムを持っているほどの目利きで知られる副店長の塚本、カリスマ書店員と言われる文芸担当の三上渚砂、自分に自信が持てず内気な児童書担当の卯佐美苑絵など、印象深いキャラの店員が登場し、「四月の魚」の重版目指し突き進みます。書店に行くと平積みにされたり、POPが立てられたりとしていますが、書店員さんたちは、本を売るために、いろいろなことをしているんですね。 初めて読む村山作品です。本好きには楽しく読むことができましたが、できればやはり一整が「桜風堂」を立て直す話が読みたかったです。ただ、村山さんのあとがきには、桜風堂の話も、銀河書店の話も書こうと思えばいくらでも書けるとあったので、それについては次に期待ということでしょう。銀河堂書店の書店員の皆さんにも再会したいですし。 |
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星をつなぐ手ー桜風堂ものがたり | PHP研究所 |
(ネタバレです) 「桜風堂ものがたり」の続編にして、作者のあとがきによるとこれをもって物語は終わりを迎えます。 山あいの町にある小さな書店「桜風堂書店」を老店主から託された月原一整だったが、小さな書店ということで、出版社の営業マンにも相手にされず、人気の新刊も入荷して来ないという悩みを抱えていた。そんな一整に元働いていた銀河堂書店のオーナーである金田から、桜風堂を銀河堂書店のチェーン店にしないかとの話が持ち掛けられる・・・。 街の本屋さんが次々と姿を消していくことが、この物語の中で語られています。オンライン書店に押され、それに太刀打ちできるのは一部の大型書店のみというのが小説の中だけでなく現実の状況です。街の本屋さんとしては何か特色あるものがなければ生き残ることができないという困難な時代の中で「桜風堂書店」はどうなっていくのかが今回のメインストーリーとなります。あとは一整と卯佐美苑絵の関係はどうなるのかも、気になるところです。 最終的には月原一整の人柄が多くの人の協力を呼び、「桜風堂書店」が盛り立てられていくとともに、山あいの町、桜野町も注目を浴びてハッピーエンドになるのですが、果たして現実はどうなのでしょうか。4月にNHKで「1万円選書」という企画で話題を呼んだ北海道砂川市にある小さな書店「いわた書店」のことが放送されましたが、ああした特色を出して生き残っていくことができる書店はほんの一握りにすぎないような気がしてなりません。 |
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