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村上春樹の本棚

  1. ノルウェーの森
  2. アフターダーク
  3. 東京奇譚集
  4. 色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年
  5. 女のいない男たち

ノルウェーの森 講談社
 村上春樹を初めて知った作品である。書店に平積みされていたあの上下2巻の赤と緑の表紙は衝撃的だった。僕が以後村上作品をよんでいくこととなるきっかけとなった作品。物語は大学生の「僕」によって語られていく。「僕」は自殺した友人の恋人「直子」に偶然であったのを機にデートを重ね、一年後彼女の誕生日にセックスをする。しかし、精神的に厳しい状態にあった「直子」は京都にあるサナトリウムに入ってしまう。そうした中「僕」は大学生活の中で「直子」とは対照的な「緑」に会う。
 村上さんには悪いが、そこらのポルノ作品より、ずっとエロティックな作品であったと思う。「世界の終わりとハードボイルドワンダーランド」等の作品と比べると割と読みやすく、上下2巻もあっという間に読んでしまった。なお、表題となっているビートルズの「ノルウェーの森」はいまだに聞いたことがない。
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アフターダーク 講談社
 作家生活25周年記念作品。村上さんの作品に多い「僕」で語られる一人称の作品ではなく、三人称で書かれているため、どことなく僕としては読んでいて違和感があります。そのうえ、時に俯瞰して登場人物を眺めるという、あたかも神の視点のような感じで物語が語られているので、なおさらです。
 物語は真夜中の12時直前から翌朝の7時前までという、わずか7時間の出来事が語られています。その中での主な登場人物は、幼いときから美人の姉と比較されて育った妹マリ、ある時これから眠るといったまま眠り続けるマリの姉エリ、姉の友人であり、妹に関心を寄せる高橋、ラブホテルに呼んだ中国人の売春婦が生理になったことに腹を立て彼女に暴行をふるうSE(らしい)白川、そのラブホテルのマネージャーの元女子プロレスラーのカオル、そして従業員のコムギとコオロギです。話は主にマリと眠り続けているエリを描いていますが、エリの部分の話がよくわかりません。幼いころからいい子で期待された子の反抗といえば話は簡単なのでしょうが、果たして村上さんはこの作品で何を書こうとしたのでしょうか。
 そして、さらにわからないのはマリとエリとは別に描かれている白川のことです。理不尽な暴行を働いた白川は何故にそうした行動をとったのか、そして白川のその後は?と、考えると中途半端に回答が得られないまま話が終わってしまった気がします。最後はやはりという終わり方ですが、どうしてこうした流れとなるのかも理解できません。読み終えても消化不良といった感じです。理解力不足を痛感です。
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東京奇譚集 新潮社
 村上春樹さんの作品は、どれも読みやすいです。スラスラ読むことができてしまってあっという間に読了です。ただし、読みやすいということと内容を理解したということはまた別物です。村上さんの作品を読むといつもそのことを感じてしまいます。読んでいるときはわくわくしながら読んでいるのですが、読み終わると感想がうまく書けないのです。村上さんの作品はかなり読んでいるのですが、このホームページに感想を書いていないのは、そんな理由からです。そのため、今回も感想といえるかどうか。
 奇譚というのは、帯に意味が書いてありますが、「不思議な、あやしい、ありそうにない話。しかしどこか、あなたの近くで起こっているかもしれない物語」のことだそうです。本書には、そんな作品が5話掲載されています。
 第1話の「偶然の旅人」には村上春樹さん自身が登場します。村上さん自身の不思議な偶然の話から話は友人の経験した不思議な話へと移っていきます。友人が経験したことはいわゆる“虫の知らせ”みたいなものですが、彼がゲイであるというところがミソですね。でないと、その後のことは起きなかったような気がします。この作品集の中では、一番わかりやすく素直に読むことができた話です。
 次の「ハナレイ・ベイ」は、サーフィン中に鮫に襲われて死んだ息子の姿が、自分には見えない母親の話。不思議な話よりサチという名の主人公のキャラクターにおもしろさを感じて読みました。
 「どこかであれそれが見つかりそうにない場所で」は、マンションの26階から28階までの間で失踪した男を捜す男の話です。結局この主人公の男は何者かも説明されず、話は淡々とラストを迎えます。別に何がという話でもないのですが、一気に読んでしまいます。
 「日々移動する腎臓のかたちをした石」は、小説家(これは村上さんではないようです)と、パーティーで知り合った女性との短い出会いと別れを描いています。職業を教えてくれない女性に執筆途上で止まっている作品の話を聞かせるうちに、構想が湧き、書き上がって連絡をとろうとしたら・・・。ラストで彼女の職業がひょんなことからわかります。ただそれだけの話ですが、不思議に余韻を残します。
 この作品集の中で一番奇譚という名にふさわしかったのは、最後の「品川猿」です。名前をふと忘れてしまうようになった女性が、区役所の「心の悩み相談室」のカウンセラーとその原因を突き止めようとしますが、何とその原因は、という話です。これは、本当に“ありそうにない話”というより“ありえない話”ですが、ミステリっぽくておもしろく読むことができました。
 5編とも読みやすくて、どうってことない話もあるのですが、村上さんの手にかかると、あっという間に物語の中に引き込まれてしまいます。前作の「アフターダーク」が理解力不足でよくわからなかったのですが、今回のこの作品はお薦めです。
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色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年  ☆ 文藝春秋
(ちょっとネタばれあり)
 多崎つくるは36歳。鉄道会社の設計管理部に籍を置いており、2歳年上の旅行会社に勤める木元沙羅と交際している。彼には大学時代に自殺を考えるほど大きな心の傷を負ったことがあった。それは高校時代からグループを作り、行動を共にしていた4人の友人だちから、ある日突然、絶縁を言い渡されたことにあった。その話を聞いた沙羅は、多崎が当時4人に理由を問いたださなかったことを知り、今こそ4人に理由を聞くべきだといい、彼らの現在を調べて多崎に教える。最初にアオを訪ねた多崎は、彼から4人が多崎に決別をした理由を聞くが、それはまったく多崎には身に覚えのないものだった。多崎は、次にアカそしてクロと訪ねていく・・・。
 4人の友人には名前の中にそれぞれ赤、青、白、黒の色が入っており、色の入っていないつくるは、彼らと一緒に行動しながらも、心の片隅で自分は彼らと違う、最初から微妙な疎外感を抱いていました。このことが題名の“色彩持たない”に繋がってくると思いますが、そのほかの登場人物にも灰田、緑川というように色が入っており、色が入っていないのは、恋人の沙羅だけ。彼女だけが多崎側の人間ということでしょうか。
 村上さんの作品としてはわかりやすいです。訳のわからない存在も登場しませんし、別世界とかの不思議な状況設定もありません。ただ、わかりやすいといっても、あくまで村上作品の中での比較であって、この物語のテーマについて簡単に説明しろといわれてもできませんが・・・。
 物語は、恋人の助言で、友人だちから言い渡された絶縁宣言の理由を聞いて歩くことにより、過去に向き合い、現在を生きていくつくるを描いていきます。そういう点では、非常に分かり易いストーリー展開です。身に覚えのない絶縁宣言とか、友人たちの現在の状況(特にシロの状況)など、謎解きの雰囲気もあったのですが、そこは村上春樹さんはミステリ作家ではありませんので、ミステリ的解決ということにはなりませんでした。ちょっと残念。
 そのほか、大学時代の唯一の友人、灰田との関係(特に多崎が見た灰田との同性愛的な夢のこと)や灰田の父のエピソードなど、回収されないままに終わってしまったものもあります。そして、それ以上にこれから多崎はどうなるのか、大いに気になるラストでした。果たして、どちらに転ぶのか、気になりますねぇ。
 それにしても、村上さんの作品の主人公は怒るという感情をなかなか見せません。今回も、絶縁の理由を聞いても多崎は怒りません。普通怒るだろうと思うのですが。
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女のいない男たち 文藝春秋
 6編が収録された短編集です。村上春樹さん自身のまえがきによると、この短編集のモチーフは、表題作のとおり「女のいない男」だそうです。
 冒頭の「ドライブ・マイ・カー」は、癌で亡くなった妻が生前浮気をしていたことを知りながら、それをおくびにも出さず妻と暮らしていた男の話です。免停になったために、雇った女性の運転手との間でその事情を話す様子が描かれていきます。この作品、ストーリー以前にタバコを投げ捨てる女性運転手の出身地が実在の町だったことから雑誌発表時に町から抗議を受けたことで有名になってしまいました。今回収録に当たっては、架空の町に変えられています。
 次に収録されている2作品は、ともに谷村という人物の語りで進んでいきます。「イエスタデイ」は、田園調布の出身でありながら関西弁を使う男・木樽の話。自分の恋人を友人の交際相手に紹介するという余裕をかましていたのですが・・・という話です。「独立器官」は、独身の整形外科医で女性関係にも不自由することなく優雅に暮らしていた男・渡会の話です。常に何人かの女性とつきあっていたこの男が、年下の女性を真剣に恋するようになったあげく・・・という話です。両方とも女性に裏切られて傷つく、見た目とは異なる純な男の行動を描きます。とはいえ、「イエスタデイ」の木樽には「何カッコつけているんだ!」と言いたくなるし、「独立器官」の渡会には「いい年齢して純情にもほどがある!」と言いたくなります。
 「シェラザード」は、“ハウス”で生活する男と、その世話係としてやってくる女との話。物語の内容より、いったい、主人公の羽原は何者なのか(どういう職業なのか)、もしかしたら過激派なのか殺し屋なのか、“ハウス”とは何なんだと話の本筋以外のところが気になってしまった作品です。
 「木野」は、妻と同僚との不倫現場に遭遇したことから(どこかの芸能人みたいですね)、妻と別れ、会社も辞めてバーテンダーを始めた男の話です。この短編集の中では一番不思議な作品です。彼の店に時々訪れる坊主頭の男は何者なのか、その男が彼にした忠告はいったいどういうことなのか、結局最後までわからなくて終わってしまいました。作品中に柳の木が出てきますが、村上さん、柳の木が好きなようですね。
 最後に置かれた表題作はこの短編集のための書き下ろし作品。村上さんが言うのは「コース料理のしめのような」作品だそうですが、作品中でも語り手が言っているように、僕にも何か言いたいのかわかりませんでした。
 村上作品は読みやすいのですが、結局「女のいない男たち」で、妻に不倫されたり、恋人に捨てられる男たちを描きながら村上さんは何を言いたかったのか、相変わらず僕には難しすぎます。
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