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森谷明子の本棚

  1. れんげ野原のまんなかで
  2. 春や春

れんげ野原のまんなかで 東京創元社
 図書館を舞台にした日常の謎ミステリです。5編からなる連作短編集です。
 第1話は職員の目を盗んで閉館後の図書館に残ろうとする少年たちの謎、第2話は原語の絵本が無茶苦茶に並べられている謎、第3話は他人の名前をかたって美術書が借り出された謎、第4話は図書館周辺の土地持ちである秋葉が幼い頃見たという雪女の謎、第5話は図書館に誰かが置いていった廃校となった小学校の図書館の蔵書の謎を、秋庭市の外れに立つ秋葉市立図書館の司書今居文子を主人公に、先輩司書の能勢がホームズ役を務めて解き明かしていきます。
 中では、第2話の「冬至ー銀杏黄葉」が好きです。それは、登場人物の深雪さんに負うところが大きいですね。

 本の帯に“そこでは、誰もが本の旅人になれる”と書いてあれば、本好きとしては手に取らないわけにはいきません。そのうえに、図書館が舞台になるために、実際発行されている本が話のキーポイントとなって登場してくるのですが、第1話のキーになる本は、カニグズバーグの「クローディアの秘密」、第5話のキーになる本は、メアリー・ノートンの「床下の小人たち」で、両方とも家にある本なのでちょっとうれしくなってしまいました(ただ、読んだのは子供で、僕は話を知らないのですが)。
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春や春  光文社 
 夏の風物詩といえば高校野球。地元でも現在、甲子園を目指して熱戦が続いています。同じ甲子園でもこの作品で描かれるのは、“俳句甲子園”。別に甲子園球場で俳句の大会をするわけではありませんが、高校生たちが俳句の日本一をかけて戦うのは同じです。
 幼い頃から父親の影響で俳句に親しんできた高校2年生の須崎茜は、国語教師の富士に俳句は文学ではないとやり込められて発憤、俳句同好会を作って“俳句甲子園”に出場することを決意する。彼女の誘いで集まったのは、図書委員のトーコこと加藤東子、音楽の好きな三田村理香、書道が好きな北条真名、ディベートが得意な桐生夏樹、そして文学が好きな井野瑞穂の5人。彼女たちは松山で開催される全国大会を目指し、活動を開始する・・・。
 俳句といえば、小林一茶の「古池や蛙飛び込む水の音」程度の知識しかない僕にとっては、ここで語られる俳句のことを興味深く読むことができました。また、彼女たちが作る俳句に、「俳句ってこういう風に作っていくんだなぁ」と感心しながら読み進みました。これまで知らなかった俳句のことがちょっと身近になった気がします。
 また、この“俳句甲子園”では、対戦相手の句に対して批評をし、一方はその批評に対し防戦するシーンがありますが、単に俳句の内容、質が良くても、それをどう素晴らしいか周囲に納得させなければ勝てないなんて、まさしくディベートです。五七五の17文字で自分の気持ちを表すのさえ難しいのに、更に弁が立たなくてはダメだとは“俳句甲子園”も侮れません。
 それぞれの持つ技術や特徴を活かしての俳句作りに、ただ単に俳句の発表にとどまらないものがあり、応援の観衆を動員したりのスポーツと同様の駆け引きがあったりしてびっくりです。
 女子高校生らしい淡い恋もあり、また、俳句に打ち込む姿に“これが青春だ!”という感じで清々しい青春小説でした。オススメです。 
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