本が紡いだ五つの奇跡 | 講談社 |
初めて読む森沢明夫さんの作品です。 出版社に入社して4年、今だにヒット作というヒット作がない女性編集者、デビュー作はヒットし映画化までされたものの、その後ミステリーブームに乗っかって書いたミステリは全く売れず、エディターズスクールの行使のアルバイトで食いつなぐ小説家、ガンで余命宣告を受けたが妻には言えない大御所デザイナー、アルバイトをする書店に来る男子大学生に片思いする女子大生、自分が営む美容室に来た女性が気になる男やもめの店主をそれぞれ各章の主人公にして、1冊の本が生まれる初めから、それが完成して書店に並び、それを読者が読むまでを描いていく作品です。 ただ、描かれるのは1冊の本が作られる過程ではなく、それに関わる人、そして最後にはできた本を読む人のそれぞれの悩みや、その本の完成に関わることにより、あるいはその本を読むことにより前を向くことができた姿、つまり、それぞれの生きる姿が描かれていきます。 題名からは1冊の本がそれを手に取る人に何らかの奇跡を生じさせる話かと思いましたが、ちょっと違いました。 |
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おいしくて泣くとき | 角川春樹事務所 |
(映画を観ていない人にはネタバレあり) 4月に観に行った同名映画の原作です。 部活をしていないという理由から学級新聞の作成委員に指名された風間心也と新井夕花。新聞を作成する中で二人だけの「ひま部」を結成し、やがてお互いに惹かれあっていく。幼い頃母を亡くした心也は食堂をしている父・耕平との二人暮らし。耕平は食堂をする傍ら貧しい家庭の子どもたちに無料で食事を提供していたが、心也は耕平が子ども食堂を行うことで、学校で不良たちから偽善者の息子といじめを受けていた。また、夕花は働かずにギャンブルと酒に明け暮れる義父から暴力を受けており、家には居場所がなくなっていた。ある日、夕花が義父から暴力を受けている場面に遭遇した心也は同級生・蓮二の力を借りて夕花を助け出し、どこか遠くに行きたいと言う夕花の希望で幼い頃家族で行った海に連れていく・・・。 映画を観たときには、夕花のいなくなった状況に違和感を持ち、それが気になって物語の中に入り込むことができなかったのですが、原作のストーリーはその部分が映画とは異なり、やっばり、こっちだよなという感じです。こちらの展開の方が自然ですし、すっきりします。わざわざ夕花を記憶喪失にする必要性はなかったのではないでしょうか。 また、映画では心也の妻のゆり子は夕花がいなくなったことや、彼女の義理の弟が行方を捜していることも知っていますが、原作ではゆり子はトラックが突っ込んで壊れた店の修繕が始まり、ある人物に話を聞くまで夕花のことは知りません。普通はそうですよね。奥さんに中学生の頃に好きだった女性のことを30年も気にかけているなんて、言うはずありませんし、奥さんだったら、そんなことを思い続ける夫は嫌なはずです。 ラストで映画にはないサプライズもありましたし、原作どおりに描いても、十分泣ける映画にはなったと思うのですが。個人的には映画より原作のストーリー展開の方が好きです。映画の方が良かったのは、原作では心也と夕花が一緒に帰ると、まず心也の家がありましたが、映画では夕花の方が先に左折して家に帰っていきます。彼女がまっすぐ歩いていく心也を見るシーンは彼女の恋心があらわれていて素敵なシーンでした。 |
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