森絵都さんといえば、前作の「永遠の出口」はともかく、「カラフル」に代表されるように(ほかにも「DIVE!」とかあるのでしょうが、残念ながら僕はこれしか読んでいません)、児童文学の作家だと思っていました。
しかし、今回は、うって変わって大人のための作品です。なんといっても、冒頭、主人公野々と同棲相手の達郎との性描写から始まるのですから。男のサガで、つい頭の中でその状況を思い描いてしまいました(^^;
さらに、これだけに止まりません。物語途中でも、野々の悩む性の問題、そして、そのための達郎とのセックスの方法が描かれるのですから、今までの森さんの作品とは大違いです。
かといって、森さんの描く初の官能小説かというわけではなく、この作品で描かれるのは、「家族」です。
堅物で子供に異常な厳しさを見せていたが、死後、実は職場の女性と不倫をしていたことが発覚した父親。そんな厳格な父親に反発し、成人を機に家を出て、定職にも就かずそれぞれ同棲生活をする兄と野々。そんな兄と姉を見て育ち、父親に反発してもしょうがないと、一番父とうまくいっていた妹。
このどうしようもない兄と姉と、しっかり者の妹の会話が愉快です。また、後半三人が父のルーツを訪ねて佐渡へと行くのですが、これがまた弥次喜多道中のようで読んでいて思わず笑ってしまいます。
また、彼らばかりでなく、野々の同棲相手達郎や佐渡に住む伯母家族など登場人物たちの人物造型が実に見事で、読んでいて飽きることがありません。
表面上は軽妙な小説ですが、最後に森さんは野々にこう言わせます。
「誰の娘であろうと、どんな血を引こうと、濡れようが濡れまいが、イカが好きでも嫌いでも、人は等しく孤独で、人生は泥沼だ。愛しても愛しても愛されなかったり、受けいれても受けいれても受けいれなかったり。それが生きるということで、命ある限り、誰もそこから逃れることはできない。」
森さんの人生論でしょうか。オススメの作品です。 |