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水見はがねの本棚

  1. 朝からブルマンの男

朝からブルマンの男  東京創元社 
  桜戸大学2年生でミステリ研究会会長の葉山緑里と唯一の会員の1年生の冬木志亜のコンビが謎を解き明かす5編が収録された連作短編集です。表題作は2023年「第1回創元ミステリ短編賞」を受賞しています。
 志亜がアルバイトをする喫茶店に週に三度来店しては一杯2千円もするブルーマウンテンを注文し、飲み残して帰る客がいる。どうしてなのかとサークル室で緑里に話していると、突然、その客がサークル室のドアを開けて入ってくる(「朝からブルマンの男」)。
 4人の学生が暮らす学生寮で幽霊が出るとの噂が出てきて、その究明を緑里は大学から依頼される。緑里と志亜は寮に住む学生たちに状況を聞くが、学生たちは、その背景に寮の土地を買い取って隣の廃墟になっている団地とともに高級住宅地として売り出そうとするために、学生を寮から立ち退かせたいディベロッパーの陰謀があると語るが(「学生寮の幽霊」)。
 郷土料理研究会に所属する緑里先輩の友人・馬井にウミガメ料理を振る舞われた緑里と志亜だったが、彼女から「単身赴任中の父親が帰ってくる金曜日の夕食だけ母の炊くご飯が美味しくなくなる」という不可解な悩みを相談される(「ウミガメのごはん」)。
 熱海旅行の帰りに台風による途中停車中の電車の中で鉄道にまつわるエピソードを話す緑里と志亜に向かいのシートに座っていた青年が話しかけてくる。青年は、かつて高校受験の日に受験会場へ向かう電車から腹痛で途中下車したはずの親友が下車駅で自分と同じ電車から降りてきたと話し、親友のドッペルゲンガーではなかったのかと言う(「受験の朝のドッペルゲンガー」)。
 ミステリ研究会のサークル室に鉱物研究会の岩木が緑里を訪ねてくる。鉱物研究会で会員の女子学生が実験のために持ってきたダイヤモンドがなくなる事件が発生し、実験に立ち会った被害者も含む5人の誰かが犯人としか思えないが、犯人特定の決め手がなく、緑里に助けを求めに来たという(「きみはリービッヒ」)。
 やはり、一番面白かったのは表題作の「朝からブルマンの男」です。いったい、この客は何者かという点についてh、考える前にすぐ正体が明らかになってしまうのですが、それを割り引いても、なぜブルマンを美味しそうに飲んでいるわけでもないのに頼むのかという謎が秀逸です。「ウミガメのごはん」の謎の設定も面白かったのですが、これは論理的に謎を解いていくというより、理科的な知識を持っているか否かで謎が解けてしまいものでしたね。「受験の朝のドッペルゲンガー」は内容よりも時刻表が載っているという点が昔の鉄道ミステリのような懐かしさを感じてしまいました。
 葉山緑里ですが、女性なのに「ぼく」という話し方をしている理由の説明もなかったと思うし、サークル棟5階にサークル員一人なのにサークル室を有している理由も謎ですし、どうも大学側とも何らかの繋がりがあるような感じですが、このあたり、続編があるということなんでしょうか。
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