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水生大海の本棚

  1. 少女たちの羅針盤
  2. 夢玄館へようこそ
  3. てのひらの記憶
  4. 教室の灯りは謎の色
  5. 最後のページをめくるまで

少女たちの羅針盤 原書房
 第1回ばらのまち福山ミステリー文学新人賞優秀作。
 ある短編映画の撮影現場。主演女優としてやってきたマリアに次々と嫌がらせと思われることが起こり、ついには、「殺人の証拠は残っている」とのメモが・・・
 物語は、短編映画の撮影現場での出来事を描く現在のパートと、女子高校生4人が演劇に打ち込む姿を描く過去のパートが交互に描かれていきます。
 過去のパートは、4人のそれぞれ個性の異なる女子高校生が、羅針盤という劇団を結成し、演劇に打ち込む姿を描いていきますが、やがて彼女らに悪意が降りかかっていき、悲惨な事件が起きます。現在のパートでマリアが過去のパートで起きる殺人事件の犯人であると明かされていますが、過去のパートでなかなか事件が起きないため、マリアは果たして誰なのかだけでなく、誰が殺されるのかという謎でも読者は最後まで引っ張られます。
 青春小説のような過去のパートで張り巡らされた伏線が、現在のラストできっちりと回収され、犯人が明らかとなりますが、ものの見事に作者に騙されました。今年映画化されましたが、この作品の設定だと映画化は難しいと思うのですが、どう描かれたのか、観てみたい作品です。
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夢玄館へようこそ 双葉社
 昭和40年代に建てられた学生向けに建てられたアパートを改装して店舗とした夢玄館。この物語は、その店舗のオーナーたちと家主である伯母の病気で管理人を代行することとなった花純との関わりを描いていきます。。
 個人の住居用だったアパートをどう改装したら店舗になるのか想像がつかないのですが、どう考えてもショッピングモールなどというシャレたものには到底ならないと思うのですが。それはともかく、各話、それぞれのショップのオーナーたちに関わる事件に翻弄される花純が描かれます。。
 作者の水生さんは、「少女たちの羅針盤」で第1回ばらのまち福山ミステリー文学新人賞優秀作を受賞した方なので、この作品もミステリーだと思って読んだのですが、ミステリーの要素はもちろんあったものの、それよりは、ひと癖ふた癖もあるショップオーナーとすったもんだしながら管理人となった花純が成長していく様子を描いた物語として読んだ方が正解です。他人の夢に振り回されるのを嫌だと思っていた花純が、自分が夢を持つようになっていくラストに拍手です。それにしても、ショップオーナーたち、色々あり過ぎです。
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てのひらの記憶 PHP研究所
 物に残る記憶を感じることができるいわゆる“サイコメトラー”の能力を持つ、少しおせっかいな女の子・円(まどか)が主人公です。彼女が質屋の娘というところがミソ。いかにも質屋に持ち込まれる物には、様々な人の思いが詰まっていそうです。
 両親が亡<なり今は祖母と二人で質屋を営んでいますが、この祖母がそこら辺の年寄りとはちょっと違います。パソコンなどお手のもの。ネットに出店したり、メルマガまで出しているというスーパーおばあちゃんなのです。さらに円の持つ能力は遺伝なので、おばあちゃん自身にも同じ能力があるようなのです(おばあちゃんははっきり言いませんが)。円が怒ると言動がこのおばあちゃん化してしまうのが笑えます。
 そんな円の透視能力により、物に残る記憶が解き明かされ、それぞれのエピソードは一応の決着を見るのですが、幕間に書かれた刑事の独白によって、まだ何かがあるのではないかということが示唆されます。最後はそれぞれのエピソードで語られていたことがつなぎ合わさって、思わぬ事実が浮かび上がってきます。ただ、この話の流れだと最後に登場するのはこの人だろうなあと何となく予測できてしまったのは残念。
 それにしても、円のようにいちいち物に残る記憶を気にしていたら心をやすめる間もなく大変でしょうね。
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教室の灯りは謎の色  角川書店 
 5編が収録された連作短編集です。
 自分がいじめの対象にならないために、いじめの主犯者の命令に逆らえずに悪いと思いながらも、自らも虐める側に回った遥。転校したことでその現実から逃れることができたと思った遥だったが、高校に入学するとそこで思わぬ人物と再会し、登校ができなくなる。不登校を続けながら、中学時代から通っていた塾に足を運んでいた遥だったが・・・。
 5編は、塾の近くのレンタルショップで起きた、レンタル品の返却口にジュースが入れられるという事件の犯人として遥が疑われる話(「水中トーチライト」)、塾でウォーキングクラブの行事の案内が燃やされるぼや騒ぎが起こる話(「消せない火」)、塾の講師の財布から!万円がなくなる事件が起き、遥と以前その講師が家庭教師をしていた塾生が疑われる話(「彼の憂鬱、彼の選択」)、講師が鍵をかけたはずの教室に何者かによって呼び出された塾生が教室に閉じ込められる話(「罪のにおいは」)、遥と同じ塾に通うようになった中学時代の同級生でいじめの被害者であった女生徒が、何者かに怯え、逃げる際に事故にあってしまう話(「この手に灯りを」)といった具合に、塾へ通う遥の身の回りで起きる事件を描きながら、ラストで全体を通して描かれていたいじめ問題が大団円を迎えるという形になっています。
 各編で事件の謎を解く探偵役は、塾の講師の黒澤。彼によって、遥の心は少しずつ解きほぐされていきますが、黒澤は好意を寄せる遥に適当な距離感を持ちながら事件を解き明かしていきます。ただ、名探偵役にしては、キャラがいまひとつはっきりしません。クールな感じが逆に特徴がないように思えて、強い印象が残らないところが残念。 
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最後のページをめくるまで  双葉社 
 題名から推測できるように、ラストでどんでん返しが起こるという形式のストーリーが5編収録されています。
 5編の中では、個人的には『ベスト本格ミステリ2018』(講談社)にも選出された冒頭の「使い勝手のいい女」が一番好みです。
 何年も前に別れた元カレの智哉が突然葉月を訪ねてくる。しばらくしてから今度は葉月から智哉を奪った加奈が智哉がいないかと訪ねてきてなかなか帰ろうとしないという状況が語られます。読者はその状況に当然あることを想像してドキドキしながらページを繰ることになります。そして、警察がやってきてジ・エンドと思ったのですが、見事に予想をひっくり返されました。更には主人公の思いも一気にひっくり返す最終ページに脱帽です。うまいですよねえ。読者の頭の中では作者のミスリーディングで、こういう展開になるだろうというストーリーが組み立てられてしまっているので、ふたを開けた時の驚きが大きかったです。
 「骨になったら」は、妻を殺した美容整形医・花沢公人が通夜・告別式の中で、早く遺体が焼かれないかとじりじりする様子が描かれていきます。最初の時点ですでに公人は妻を殺したと独白しているので、ラストでそれがどう明らかになるのかと思ったら、捻りがありましたねえ。やはり、これも最初に読者をミスリーディングしていました。
 「わずかばかりの犠牲」は、オレオレ詐欺に手を染めた大学生・諒が主人公。仲良くなった老人がオレオレ詐欺に引っ掛かるのを防いだことから、諒自身が詐欺集団に追われることとなります。この題名の“わずかばかりの犠牲”の意味が明らかになるラストが恐ろしいです。自業自得ですけど。
 「監督不行き届き」は、夫の不倫相手の女性から夫と別れてくれと突然言われた玩具メーカーで係長を務める満智が主人公。煮え切らない夫の態度に腹を立てた満智だったが、その後満智の出張中に夫が失踪します。果たして夫の行方は・・・。夫の失踪事件の謎が明らかとなったことよりも、ラストの文章に「結局、そういうことだったのかぁ」と驚きました。
 最後に収録された「復讐は神に任せよ」は、書下ろしの1編。新里夏帆は息子を轢き逃げで亡くすが、出頭してきた国会議員の運転手ではなく、本当の犯人は車の所有者である国会議員の娘ではないかと疑い調べ始めます・・・。途中に置かれた彼女の看護師としてのあるエピソードが、最後の展開へと繋がっていきます。 
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