かくして彼女は宴で語る ☆ | 幻冬舎 |
6編が収録された連作短編集です。 主人公の席に座るのは明治から昭和を生きた詩人であり、劇作家であり、医者でもあった木下杢太郎です。物語は、木下ら芸術家たちが結成した“牧神(パン)の会”が開かれる両国公園近くにある西洋館まがいの木造三階建ての西洋料理屋「第一やまと」で、彼らが、食事をし、酒を飲みながら、やがて自らが体験した謎や事件を語りはじめ、最後に傍らで話を聞いていた店の女中が「わたしからも一言よろしゅうございますか」と申し出て謎解きをする形式の話となっています。 この形式で頭に浮かぶのは、アイザック・アシモフの「黒後家蜘蛛の会」ですね。あちらも食事会に集まった会員たちが提示された謎をあれこれ推理するが、最後に謎を解くのは後ろで話を聞いていた給仕のヘンリーという形式になっており、作者の宮内さんがこの作品を念頭に置いて書いたのは間違いないですね。 “牧神(パン)の会”は実際に存在した会であり、各話に登場する人物たちも全員が実在の人物であり、当時の文壇や美術界でも知られた人物のようですが、残念ながら個人的に知っているのは主人公の木下杢太郎ほか、北原白秋や森鴎外、石川啄木だけです。そんな明治時代の芸術家たちが謎解きをするというのも面白い設定ですが、事件の舞台が浅草十二階、上野で開催された勧業博覧会といった当時の世相を想像できるところも興味深く読むことができました。各話の最期に覚書と参考文献が載っていますが、ものすごい量で、これだけの参考文献なら、謎解きの話はフィクションでも、彼らが集まって様々な話をしていたことは間違いないないsでしょう。。 ミステリの謎解きとして面白かったのは「さる華族の屋敷にて」と「観覧車とイルミネーション」です。前者のなぜ赤ん坊の臀部の肉が切り取られ、目玉がくり貫かれていたいたのかという謎解きには「そういう理由かぁ~」と衝撃を受けます。 いつも謎解きをする女中が最後の「未来からの鳥」で何者かが明らかにされますが、やっぱりただ者ではなかったですね。この「未来からの鳥」はSF作家でもある宮内さんらしいSF風味の作品となっています。士官学校の学生が見た夢というのは、あの世界的にも有名な人の演説ですね。 |
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