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宮下奈都の本棚

  1. 誰かが足りない
  2. 静かな雨

誰かが足りない 双葉社
 文庫化されてハードカバーで刊行時に本屋大賞にノミネートされていたと知って、図書館で借りてきました。初めて読む宮下作品です。6編からなる連作短編集となっています。
 冒頭、予約を取ることも難しいと評判のレストラン“ハライ”で、ある人物がテーブルについて店内を見渡すと、予約されているはずの席に空席があるという状況が語られます。ここから、各編は、それぞれの主人公がハライに予約をするまでのことが語られていくという体裁になっています。
 6編の主人公は、内定していた会社が倒産し、今はコンビニでアルバイトをする青年、認知症の症状が出始めた一人暮らしの老女、係長になったが部下に仕事を命令できずに自分が土日も出勤して処理をするOL、母の死から引き寵もりとなりビデオカメラを通してしか人と向き合えない青年、ホテルのレストランでオムレツを作る係の青年、人から発する失敗の匂いを嗅ぎ取ることができるという不思議な能力を持つ女性です。
 それぞれ様々な悩みを持つ6人が、これから一歩を踏み出そうとするためにハライの予約から始めますが、果たして空いている席に相手は来るのか、読者にいろいろ考えさせるラストも余韻が残っていいですね。
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静かな雨  文藝春秋 
  宮下奈都さんのデビュー作にして第98回文学界新人賞佳作に入選した作品です。
 2004年に雑誌に発表された作品だそうですが、「羊と鋼の森」が本屋大賞を受賞したせいもあってか、ようやくハードカバーでの刊行です。 「羊と鋼の森」が未だに図書館で予約が多くて読むことができない中で、宮下作品2作目です。
 主人公の行助は生まれながらに足が不自由で松葉杖を使用している青年。会社をリストラになった日、彼は近所のたいやき屋で出会った店主のこよみに恋心を抱くようになる。ようやく言葉を交わすようになったのもつかの間、こよみは交通事故に遭い高次機能障害で新しい記憶が保持できなくなってしまう。1日だつと前日の記憶がなくなってしまうこよみを行助は静かに見守っていく。
 こよみのように記憶を保持できない人を扱った作品はほかにもあったと思いますが、この作品は、ただひたすら献身的にこよみのことを思う行助が描かれていくだけです。107ページの物語なので、あっという間に読み終えることができます。何となく温かな気持ちで読み終えることができる作品です。