成瀬は天下を取りにいく ☆ | 新潮社 |
昨年雑誌「ダ・ヴインチ」1月号の「BOOK OF THE YEAR 2023」の小説ランキングで第1位になった作品です。私自身、そこで見るまではその作品自体の存在をまったく知りませんでした。”女による女のためのR-18文学賞”で大賞・読者賞。・友近賞の三冠を獲得した作品だそうです。1月に続編が発売されたということで、今回併せて読んでみました。これが、面白い。多くの読者を獲得しただけあって、読みだしたら止まらず、あっという間に読了しました。 内容は“成瀬あかり"という滋賀県大津市に住む女の子を巡る6編が収録された連作短編集です(第3話の「階段は走らない」は成瀬はちょっとしか登場しませんが。)。物語は成瀬が中学2年生のときから始まります。西武大津店が閉店することになり、「島崎、わたしはこの夏を西武に捧げようと思う」と宣言した成瀬が毎夕西武大津店に行き、地元のテレビ局が大津店閉店を伝えるカメラに映る様子を描きます。次には「島崎、わたしはお笑いの頂点を目指そうと思う」と宣言し、M-1グランプリに幼馴染の島崎を相方にして出場したり、高校入学時には坊主頭で新入生代表の挨拶を行ったりと、やることが普通ではありません。 とにかく、成瀬のキャラが強い印象を与えます。周りの人から見れば、“変わっている"というのが、彼女の第一印象ではないでしょうか。喜怒哀楽を表情に出さず、普段から話し方は「です。ます」調ではなく、ぶっきらぼうにおじさんみたいな話し方で、 勉強も何でもできてしまうので、何だか近寄り難く、皆からは避けられ、友人と呼べるのも島崎一人だけという孤高の人物です。でも、本人はそんなことまったく気にしていないのですから、凄い子だとしか言いようがありません。こんな話し方する女の子、いるわけないだろうと思いながらも、読みながらついつい笑いがこみあげてきてしまいます。 成瀬の唯一の友人というのが島崎みゆき。成瀬と同じマンションに住み、幼馴染で彼女のことを一番理解し、成瀬と違い自分は凡人だという彼女がいてこそ、成瀬が輝くのであり、そこにこの物語の面白さがあるといえます。普通、M-1に出るといっても、相方になることはなかなかできませんよねえ。 読んでいて本当に楽しい作品です。これはおススメです。 |
|
リストへ |
成瀬は信じた道をいく ☆ | 新潮社 |
シリーズ第2弾。高校生から大学生になった成瀬が様々な人の視点で語られます。 小学校の「総合学習の時間」で地区で活動する人を調べて発表するというテーマに、ゼゼカラをテーマにしようと班で提案し同意を得て調べ始めた北川みらいだったが、一緒に楽しく調べていると思った結芽ちゃんがみらいのいないところで成瀬を馬鹿にするようなことを言っているのを聞いて傷つく(「ときめきっ子タイム」)。 成瀬が家族共用のパソコンでアパートを探している形跡があったことから、父の慶彦は成瀬が京都大学に合格したら家を出て一人暮らしを始めるのではないかと心配する(「成瀬慶彦の憂鬱」)。 些細な出来事が気になり、ついスーパーの「お客様の声」にクレームを書くことが日常になっている呉間言実はアルバイトの成瀬から万引き犯を捕まえるのを手伝ってほしいと頼まれる(「やめたいクレーマー」)。 祖母、母に続き三代続けてびわ湖大津観光大使になった篠原かれん。観光大使に応募したのは「わたし以上の適任者はいないと思ったからだ」というと言い切るもう一人の観光大使となった成瀬に唖然とするが、彼女と「観光大使-1グランプリ」に出場したりするうちに、祖母や母の言うなりに生きてきたことに疑間を感じるようになっていく(「コンビーフはうまい」)。 大晦日の日、成瀬が「探さないでください」という書置きを残して失踪する。サプライズで東京から成瀬の家を訪ねた島崎は、成瀬の父やかれん、みらいとともに成瀬を探すことに。成瀬の部屋を見ると、けん玉がなくなっているということで、成瀬が行った先は・・。(「探さないでください」)。 最後の「探さないでください」は、もう大爆笑ですね。某場所でけん玉をしている成瀬の姿が頭の中に浮かびます。そして、成瀬と島崎の思いが語られるところが素敵です。やはり、島崎あっての成瀬でもあるわけですから ね。 成瀬の行動は周囲の人が見れば突飛で、空気を読むなんてことはまったく考えないし、また、年上にもため口ですし、逆に年下には一人の人間としてきちんと対応するという、成瀬に実際に会ったら「何だ、この人は!?」と思うかもしれませんが、行動に嫌味も裏表もない成瀬に不思議と惹かれていってしまうかもしれません。 |
|
リストへ |