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三羽省吾の本棚

  1. 公園で逢いましょう
  2. 厭世フレーバー
  3. ニート・ニート・ニート
  4. 路地裏ビルヂング
  5. イレギュラー
  6. 刑事の血筋
  7. 共犯者

公園で逢いましょう 祥伝社
 初めて読んだ三羽さんの作品です。
 公園に集まる5人のママさんたち。自分の夫の会社が売っている浄水器を他のママさんたちに売りつけようとしているアキちゃんママ、そんなアキちゃんママに強く言えずに困っているユウマくんママ、40歳を過ぎてからの子どものため、ママさんたちの中では最年長でまとめ役、悪く言えば仕切り屋のサトルくんママ、子どもはほったらかしで携帯に夢中の最年少の羅々ママ、ほったらかされた他人の子どもの面倒までみているダイちゃんママ。公園で井戸端会議をしているママさんたちにも、それぞれ生きてきた人生があり、そんな彼女らの回想で描かれた連作短編集です(一つの話だけ、ママさんたちの中に偶然入ってきてしまったパパさんの話になっています。)。
 三羽さん、うまいですねえ。短いページ数の中でそれぞれのママさんたちの人となりを鮮やかに浮き彫りにしていきます。周りで見ているのとは異なるママさんたちの実像になるほどと思ったり、え!そうなんだとびっくりしたりしながら、楽しく読ませてもらいました。
羅々ママのように悲惨な少女時代もありましたが、今は皆それなりに前向きに生きており、読後感は非常にいいです。
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厭世フレーバー 文春文庫
(ちょっとネタばれ)
 失業とともに突然失踪した一家の主。物語は残された3人の子どもと妻、年老いた父の5人のモノローグでそれぞれの思いが描かれていきます。読み進めていくうちに、どこにでもあるようなバラバラになった家族と思われた須藤家の真実が次第に明らかになっていく過程に思わず引き込まれます。父親の失踪で高校進学を諦め、好きな陸上も辞めようとする二男、深夜まで家に帰ってこない長女、それまでは家族に無関心だったのに急に口うるさくなった長男、酒びたりの毎日を送る妻、認知症が進んできた父と、それだけ聞けば、暗く深刻なストーリーになるかと思いきや、意外に軽いタッチで語られていくのでどんどんページが進みます。前に読んだ「公園であいましょう」もそうでしたが、三羽さんの文章はとても読みやすいですね。
 妻と最後に置かれた父の章を読むと、この作品が須藤家の歴史を語っていたことがわかります。ラスト、家族で二男の出場する駅伝競走を見に行く場面が、この後の須藤家の未来を語っています。無事に「父帰る」でハッピーエンドという安易なラストになっていないところがいいです。でも、あの父親、どうして失踪してしまったのでしょう。
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ニート・ニート・ニート 角川書店
 父親の紹介でようやく入った会社を何となく辞めたタカシ、大学を退学して家に戻り、引き籠り生活を送っているキノブー、そして高校卒業後も定職に就かず女のヒモのような生活を送っているレンチ。題名どおりの、彼ら三人の"ニート"の物語です。
 やくざの女といい仲になってしまったため、やくざに追われたレンチが、高校の同級生だったタカシとキノブーを強引に道連れにして、北海道を目指します。仙台で出会い系で知り合った月子がひょんなことから合流し、今度は月子に引きずられるように北海道の観光地を巡ります。
 途中までは、レンチと月子のあまりに身勝手で非常識な言動に、嫌な奴らだなあと読みながら腹を立て、嫌と言えない優柔不断なタカシに、嫌と言えよ!と、これまた腹を立て、とにかくこんなに腹を立てるなら読むのを止めようかと思ったほどです。仕事で疲れて帰る身としては、ニートな彼らに共感などできず、まったく物語に入り込むことができません。
 ようやく中盤、彼らがタカシの叔父の家に落ち着いてからは、こちらも落ち着いて読めるようになりました。ニートな彼らが肉体労働をすることによって、お金を得るところが描かれます。やっぱり、ぐうたらだけの生活では生きていけませんよね。こういう場面を描くのですから、三羽さんもニートに共感しているわけでもないのでしょうか。これ以降は、月子の身勝手な行動の裏に隠されていたことも明らかになってくるなど、いっきにおもしろさが増してきます。
 さて、北海道での旅行を終えた彼らはニートから脱出できるのでしょうか。気になるところです。まあ、タカシとキノブーはともかく、レンチはまた元の生活に戻ってしまうのでしょう。
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路地裏ビルヂング 文藝春秋
 路地裏にある古びたビル「辻堂ビルヂング」に入居している企業等に働く人々を描いた6編からなる連作短編集です。
 ビルに入居しているのは、どこか怪しげな健康食品会社、広告制作会社、大手ではない学習塾、無認可保育園、不動産会社の分室。そして1階には、従業員は変わらないが(それもどこかわからぬ外国籍の男と年寄りの2人)、おでん屋、カレー屋、お好み焼屋等々とすぐに看板を変える店。路地裏にあるがゆえの雑居ビルです。
 寂れたビル故の店子の企業等であり、各編で語られる主人公たちも決して、人生を順調に生きてきた幸せな人ではありません。誰もが、人生で躓いたことがある人ばかりです。しかし、そんな彼らも、彼らなりに仕事に打ち込み、恋をし、人生を考える様子に胸打たれます。
 いつの間にか1階の何をやってもまずい店に彼らが集うようになるのも、群像劇の楽しいところです。べたべたとした関わりではなく、さらっとした付き合いであるところが、却って心地良いですね。
 贅沢を言えば、第1話で屋上で植物に水やりをしているところを第1話の主人公が見つけるところから登場した女性の存在が中途半端ではなかったかという点です。ミステリアスな存在かなと思ったら、あっけなく正体が割れてしまいましたし。彼女を主人公にした1編があれば、紙飛行機にいろいろな文字を書いた理由も深く掘り下げられて、なおよかったのにという気がします。
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イレギュラー 角川文庫
 村が水害にあい、離れた市で避難所生活をしているコーキら蜷谷高校通称ニナ高野球部の面々。監督同士がかつての師弟だったことから、甲子園出場校の私立圭真高校通称K高で合同練習を行うことになる。避難所生活が長引き、生活のめども立たず、村人たちにイライラが募る中、野球部は村の希望の星だった。お互いにライバル心をむき出しにしながら夏の甲子園を目指すが・・・。
 同じように才能がありながら、今の生活のことを考えなければならない被災者の村の高校生と野球のことだけ考えていればいい町の高校生を主人公に、野球にかける彼らと、彼らの周囲で彼らを支える村や町の人々を描いていきます。
 監督の結城と大木、バッテリーを組む狭間、矢中とコーキ、モウのコンビ、そしてマネージャーの春菜と琴子という両校の同じ立場にある人物を対比させながら物語は進みます。三羽省吾さんには珍しくわかりやすい青春小説です。野球の場面も読み応えがあり、単なる熱血野球小説というわけでなく、笑いもあり(狭間が新しい球種を獲得した場面や公式戦で替え玉を使う場面では大笑いです。)、少年漫画を読んでいるようなおもしろさです。
 題名の“イレギュラー”の意味については、ニナ高の監督・大木とK高の監督・結城との会話で語られます。「最も忘れてはならないことは、イレギュラーではボールデッドにならないということ」 なるほど含蓄ありますね。
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刑事の血筋  小学館 
(ちょっとネタバレ)
 今までの三羽作品とは違うジャンルに挑戦するんだなぁと思ったら、三羽さん自身、刑事の息子だったそうです。当然、ここで描かれる警察官舎住まいの生活も経験しているだろうし、三羽さんの様々な思いが込められた作品といっていいのでは。
 刑事の息子として生まれた兄の高岡剣はキャリアの警察官僚、弟の守はノン・キャリアの所轄署の刑事という高岡兄弟。ある日、守の管内で刺し傷のある水死体があがる。死体は守と同僚の久隅が1月前公務執行妨害容疑で逮捕したが、送検を見送り釈放した男だった。一方、銃器、薬物の押収量が全国トップと優秀な反面、他県で見られる裏金作りの様子もまったくないという県警の状況に、逆に不審を感じた警察庁は薬物銃器対策課にいた剣に県警の内情を探るよう故郷に出向させる。しかし、剣には隠している別の目的があった・・・。
 2人のそりの合わない兄弟が、やがて力を合わせて悪に立ち向かっていくという、ある意味予定どおりの話です。優秀な兄とできの悪い弟というパターンも使い古されています。とはいえ、やはりそんな兄弟が協力し合って父親の汚名を雪いでいくのは、読んでいてワクワクします。2人がアミューズメント施設でゲームをするシーンは、事件の行方には関係ありませんが、ちょっといいシーンです。
 それぞれの相棒である久隅と小谷野のキャラが立っています。抵抗する相手に公然と暴力を振るうことができるからという理由で警官という職業を選んだ久隅はともかく、小谷野のようなキャラの女性刑事は他に思い浮かびません。 
 
共犯者  角川書店 
  「刑事の血筋」を読んだときに今までの三羽さんが書かれてきたものとは異なるジャンルに挑戦するんだなあと思いましたが、この作品も系統としては「刑事の血筋」に近い作品です。
 岐阜県の山中で男性の絞殺死体が発見される。遺体は歯を含む顔から首にかけてと手指が著しく損壊されていたが、やがて1週間後に、男が佐合という、金を借りても返さない、いちゃもんをつけて金を脅し取る、働けないと偽って生活保護費を不正に受給する等々様々な悪事を働いてきた人物であることが判明する。雑誌記者である宮治和貴は、警察が遺体損壊の手段を公表しないこと、岐阜県警が石川、富山県警の応援要請をしている等から、警察が何かを隠しているのでは、それは警察が違法に収集したDNAをデータベース化しているのではないかと疑い取材を開始する。宮治家と交流のある富山県警の刑事から宮治は布村留美という重要参考人が任意の事情聴取を受けた後、行方不明となっていることを聞く。一方、宮治は取材の傍ら、石川県で非常勤の高校教師として働く弟の夏樹と会い、独り者の弟の部屋に女性の存在があることに気づく・・・。
 事件を追う雑誌記者の弟が事件に関わっているなんて、あまりにできすぎ感がありますし、また、事件の真相は途中でだいたいわかってしまうのですが、三羽さんが描きたかったのは、ミステリーというより家族の話だったのでしょう。ミステリーとしては、あれで警察の違法なDNAのデータベース化を疑うのはあまりに飛躍し過ぎという感じがします。
 作品に登場する家族の形態は、血縁関係の家族、養子縁組の家族、そして戸籍上の家族であっても実は血縁関係がない家族等様々な家族。血縁であっても子どもを子どもと思わない親もいるし、養子であっても実の子同様に慈しんで育てる親もいるし、養家の家族として永い間暮らしても、血縁の家族を優先してしまう場合もあるなど、家族の在り方は単に血縁か血縁ではないかで簡単に分けることはできません。最後には思わぬ事実も明らかにされて、家族の在り方は本当に難しいなと思います。
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