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深木章子の本棚

  1. 欺瞞の殺意

欺瞞の殺意  ☆   原書房 
 昭和41年7月、Q県福水市の楡家では親族たちが集まって先代当主・伊一郎の35日法要が営まれていたが、その席で伊一郎の長女の澤子と亡長男の息子であり澤子と婿の治重との養子となっていた芳雄が亜ヒ酸によって殺害されるという事件が発生する。澤子が飲んだコーヒーに亜ヒ酸を入れる機会があり、芳雄が食べた亜ヒ酸入りのチョコレートの包み紙が着ていた喪服のポケットから出てきたことから、治重が容疑者として浮かび上がる。最初は犯行を否認していた治重だったが、やがて犯行を認めて無期懲役の判決が下される。それから42年が過ぎ、治重は仮釈放となり刑務所を出てくる。やがて、楡家で存命している伊一郎の二女の橙子の元に治重から自分は無実だったという手紙が届く・・・。
 実は治重と橙子は事件当時いわゆる不倫関係にあったことが治重から橙子にあてた最初の書簡で明らかにされます。愛し合う男女の書簡で構成される作品としてはミステリではありませんが、宮本輝さんの「錦?」を思い浮かべることができるのですが、ここでの手紙のやりとりは愛のやりとりというより、事件の真実を推理し合うという、そういう意味では何とも味気ない内容になっています。橙子が若い頃からミステリ好きだったという事実がこの書簡のやりとりに活かされているということでしょう。お互いに事件の推理をして、犯人はああだこうだと指摘し合うのですが、その中で思いもかけない事実が明らかとされていきます。二転、三転だけでなく、更に書簡の後に描かれる出来事が驚愕の真実を明らかにすると思いきや、更にそれから一ひねりがあり、読者を翻弄します。まさか、書簡にこんな意味が込められていたとは想像もつきませんでした。
 深木作品は初めて読みましたが、「このミス」「本格ミステリ・ベスト10」の両方で今年のベスト10の第7位にランクインするのもなるほどと納得の作品でした。 
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