帝都一の下宿屋 | 東京創元社 |
物語の舞台は明治の日本。銀座の南紺屋町にある「静修館」という下宿屋に住む小説家の仙道湧水が遭遇する四つの事件を巡るミステリ短編集です。 「静修館」は高い志があっても裕福ではない若者の力になりたいという大家さんのあたたかい心遣いで開かれた下宿屋で、今は孫で無類の世話好きで家事万端を見事にこなす梨木桃介が経営しているが、この桃介の食事が絶品で、湧水は小説家として名を成した後も、桃介の料理を食べたいがために居座っているという設定です。 冒頭の設定から湧水と桃介がコンビで事件を解決していくのかと思っていましたが、謎解きに頑張るのは湧水のみというのがちょっと予想外。事件は桃介とも縁の深い醤油屋が粗悪品の醤油を売っているという噂の真相を探る「永遠の市」、莫大な特許料が約束された技術が描かれた書類が鍵の掛かった金庫からなくなった謎を解く「障子張り替えの名手」、何人も借りたいという人が見に来るが、入居した人を見たことはない貸家に隠された謎を明らかにする「怪しの家」、江戸中の銭湯で頻発する高額な持ち物が盗まれる事件の犯人を暴く「妖怪白湯気」の4つ。事件の謎解きだけではなく明治情緒も楽しめる作品となっています。 三木笙子さんの作品は初めて読みます。この作品に登場する大家の梨木桃介は三木さんの「人魚は空に還る」から始まる「帝都探偵絵図」シリーズにも登場するキャラクターだそうです。そもそも、その主人公の一人である雑誌記者の里見高広の下宿先が、「静修館」ということで、この作品にも第三話に里見高広が顔を覗かせています。ちょっと、そちらのシリーズも気になるところですね。 |
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