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三上幸四郎の本棚

  1. 蒼天の鳥

蒼天の鳥  講談社 
 今年の第69回江戸川乱歩賞受賞作です。
 舞台となるのは関東大震災から1年ほどが経った大正13年の鳥取。女流作家である田中古代子は娘の千烏を連れて、活動写真の「探偵奇譚ジゴマ」を観に行く。ところが、前半が終わる頃、劇場内で火災が起き、観客が逃げ惑う中、映画の中のジゴマが現れ、古代子らの隣に座っていた男を刺し殺す。古代子らはどうにか逃れ、家に帰り着くが、その日以降、古代子の周囲に不審な男たちが現れるようになり、ある夜、会合から帰る途中で男たちに襲われる。たまたま居合わせた内縁の夫・湧島によって、暴漢たちを追い払うことができたが・・・。
 探偵役を務めるのは、田中古代子とその娘の7歳の千鳥。田中古代子はまだまだ女性の権利など考慮もされていない時代に、女性の地位向上を訴えた実在の女流作家であり、その娘・千鳥は7歳で夭折した天才詩人だったそうです。「終局」で、二人のこの後の現実が語られますが、あまりに切ない現実です。物語の終盤、活動写真の弁士を見事に勤めあげた田中古代子が睡眠薬の大量服用で38歳という若さで亡くなっているという事実は想像できません。確かに、この物語の中でも、偏頭痛のため鎮痛剤に頼ってはいましたが。
 正直のところ、注意深く読んでいると、早い段階で犯人も動機も想像がついてしまいますし、奇抜なトリックというものもありません。そういう点では個人的にはミステリという評価としては、いまひとつという気がします。ただ、関東大震災後の社会主義の風が吹いたり、女性の作家の台頭など当時の大正という世の中の雰囲気を感じ取ることができ、そこが読みどころでしょうか。
 作者の三上幸四郎さんは「名探偵コナン」や「特捜9」など数多くのテレビドラマ・アニメの脚本を書いてきた人だそうです。 
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