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三上延の本棚

  1. ビブリア古書堂の事件手帖
  2. ビブリア古書堂の事件手帖2
  3. ビブリア古書堂の事件手帖3
  4. ビブリア古書堂の事件手帖4
  5. ビブリア古書堂の事件手帖5
  6. ビブリア古書堂の事件手帖6
  7. 江ノ島西浦写真館
  8. ビブリア古書堂の事件手帖7
  9. 同潤会代官山アパートメント

ビブリア古書堂の事件手帖  ☆ メディアワークス文庫
 今年3月に発売以来累計45万部が売れたそうです。出版不況といわれる中、失礼ながらあまり名前を知られていない作者の本としては凄いことです。
 内容は、北鎌倉の古書店ビブリアに持ち込まれる古書にまつわる謎を、うら若き古書店店主の栞子が解き明かす連作集です。
 極端に内気なのに、本のことになると立て板に水のように話し出すと止まらない栞子をホームズ役に、幼い頃祖母が大事にしていた本を見ていて祖母に平手打ちされたことが原因で物語を読むことが苦手になってしまった大輔をワトソン役にして、亡くなった大輔の祖母の蔵書に夏目漱石の署名が書かれた謎、せどり屋の自転車かごから落ちた文庫本を少女が持ち去った謎、本を売りに来た前科がある男とその本を取り戻しに来た男の妻の謎、栞子が大切している太宰治の晩年の初版本を売れとつきまとう男の謎がそれぞれの古書が持つ物語とともに明らかにされていきます。
 栞子さんも特徴あるキャラですが、彼女以外にもホームレスで“せどり屋"の志田、美少女でありながら態度が大きい小菅奈緒など個性豊かなキャラが登場します。古書店を舞台にしたミステリとしては、最近では乾くるみさんの「蒼林堂書店へようこそ」がありましたが、こちらの方がミステリとしておもしろいです。。
 新聞の書評によると、当初は表紙カバー絵の栞子の“萌えキャラ"で売れたそうですが、あのカバー絵ではおじさんには買いにくいですよね。
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ビブリア古書堂の事件手帖2  ☆ メディアワークス文庫
 ビブリア古書堂シリーズ第2弾です。栞子は退院しましたが、松葉杖が必要な栞子に頼まれ、大輔は再びビブリア古書堂を手伝うことになります。
 今回の第2弾には、小菅奈緒が持ち込んだ妹の読書感想文の謎、かつて大輔の恋人だった高坂晶穂の父親が亡くなった後の蔵書の売り払い先にビブリオ古書堂を指名した謎、かつて栞子の母親が売ったという稀少な漫画本に隠された謎を解き明かす3編が収録されています。
 今回取り上げられる本は、スタンリー・キューブリックの映画にもなったアントニイ・バージェスの「時計じかけのオレンジ」、福田定一「名言随筆 サラリーマン」、足塚不二雄「UTOPIA 最後の世界大戦」、そしてプロローグとエピローグで語られる坂口三千代「クラクラ日記」の4冊。残念ながら4冊とも未読です。というより、題名さえ知らない本ですが、そこは読者と同じ立場の大輔がいるので、読んでいても戸惑うことはありません。
 今回は最初の話では小菅奈緒の妹に関わる話であり、次の話では大輔の過去の恋人に関わる話であり、3話目では栞子の母に関わる話といったように、単に本を巡る謎解きだけでなく、メインの登場人物に関係する話が語られることによって、それぞれのキャラクターが深く掘り下げられて描かれていきます。
 相変わらず、本以外のことについては世間知らずの栞子ですが、3話目で語られた栞子と同様に本好きの栞子の母については、今後の展開が大いに気になります。
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ビブリア古書堂の事件手帖3  ☆ メディア・ワークス文庫
 ビブリア古書堂シリーズ第3弾です。今回も普段は極端に人見知りなのに、本のこととなると人が変わったように饒舌になる栞子さんが、本に関わる謎を解いていきます。
 第1話で描かれるのは、古書会館で開催された古書交換会において起こった万引き事件です。ビブリア古書堂が入札に参加したが、他の業者が落札した古書の中から1冊が消え、万引きの疑いが栞子さんにかけられるというもの。
 第2話は、第1作に登場し、ビブリア古書堂に顔を出すようになった坂口しのぶから、子どもの頃読んだ題名の分からない本を実家に探しに行くのに同行してほしいと頼まれることから始まります。ここでは本の謎というより、複雑に絡まってしまった親子関係を栞子さんが解きほぐしていきます。
 3話目は亡くなったビブリア古書堂のお得意さんの家から稀覯本がなくなり、娘から兄夫婦が盗ったに違いないとして取り返してもらいたいと栞子が頼まれるます。ここでも、本が持っていた思わぬ謎というだけでなく、家族の関係を栞子さんが解き明かしていきます。
 全体を通して行方不明の栞子の母・智恵子の存在が大きくストーリーに関わってきます。特に第1話には智恵子を嫌っているというより憎んでいる同業者のヒトリ書房の店主が登場し、娘の栞子を万引き犯だと糾弾します。ここで、五浦は店主から智恵子が五浦のことを知っているのを聞きます。果たして彼のことを智恵子に話しだのは誰か。いよいよ栞子の母の謎がメインの話になってきそうな予感がします。
 本の話になると我を忘れて無防備になってしまう栞子さんを前にして五浦さんも大変です。男として彼の気持ちがよく分かります。
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ビブリア古書堂の事件手帖4   メディアワークス文庫
 シリーズ4作目にして初の長編です。
 亡くなった江戸川乱歩のコレクションの持ち主の愛人だった女性から、江戸川乱歩の膨大なコレクションを買い取る条件として、持ち主が生前に大事なものを入れた金庫の鍵の行方探しと金庫を開けるための暗号の解読を依頼されます。
 今回話の中に登場する本は江戸川乱歩の作品です。今までがほとんど知らない作品だったのに比べ、小学生時代は江戸川乱歩の少年探偵団シリーズとコナン・ドイルの名探偵ホームズシリーズ、そしてモーリス・ルブランのアルセーヌ・ルパンシリーズに夢中だった僕にとっては物語の中にスッと入っていけました。古書店「ヒトリ書房」の井上が小学校の図書室から「少年探偵団」シリーズを借りて一気に読んでしまったことを「それが俺の江戸川乱歩の・・・いや、探偵小説、推理小説の原体験だ。あの頃、そういう子供は珍しくなかっただろう。そこから児童向けに翻訳されたホームズものやルパンものを読みあさって、十代で国内外の本格推理を手当たり次第に読むようになった。」と語りますが、まさしく僕もそのとおり、ウンウンと頷いてしまいました。ポプラ社版の「怪人二十面相」のことが語られていますが、懐かしいなあ。
 シリーズも佳境に入ってきたようです。今作品にはいよいよ10年間行方知らずだった栞子の母が登場。娘との推理合戦を繰り広げます。しかし、本の知識も母の方が一枚上手。本のこと以外では人見知りで口ごもってしまう栞子と違って、世間ずれした母にはかないそうにありません。
 栞子さんと大輔の恋の行方も今回、少しですが前に歩みだしたようで、次作が気になるところです。
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ビブリア古書堂の事件手帖5  ☆ メディアワークス文庫
 ビブリア古書堂シリーズ第5弾です。前作のラストで、ついに栞子さんに告白をした大輔。果たして結果はどうなるのか、興味津々の冒頭でしたが、とりあえず結論は後回し。いつものように本に関わる謎解きを栞子さんが行っていくというスタイルで話が進んでいきます。
 第1話は、雑誌を売りに来ては、しばらくすると買い戻しに来る女性の話。いったい彼女は何のためにそんなことをするのか。あるお馴染みの人物の過去が明らかとなる作品です。
 第2話は手塚治虫作品の収集家である父親の本棚から弟が持ち出していったブラックジャック作品の行方をその姉に頼まれ探す話。なぜ同じ巻が2冊あるのか、母親が危篤の時になぜ父親は古書店に立ち寄ってまでブラックジャックを買い求めたのか。マンガを収集する奥深さがわかる1編であり、厳格な父親の違う顔を明らかにする作品となっています。栞子の友人の滝野リュウが栞子を呼ぶあだ名にちょっとドキッとします。
 第3話は兄の死ぬ直前に兄から寺山修司の「われに五月を」を譲ると言われたという弟から、相続者である義姉を説得してほしいと依頼される話。弟であるこの男はかつて万引品をビブリア古書堂に持ち込んだため出入り禁止になっていたが、背後に母の智恵子の存在を感じた栞子は依頼を引き受けます。相変わらず、母親の智恵子は嫌な女であり、かつ強い女ですね。
 ラストは再び栞子の周辺に危険な匂いが立ちこめます。絶対剛力彩芽さんでドラマの続編を作らないでほしいと祈りつつ読了。
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ビブリア古書堂の事件手帖6  ☆   メディアワークス文庫
 「ビブリア古書堂事件手帖」シリーズ第6弾です。
 栞子に怪我をさせた田中敏雄が保釈され、同時期に栞子あてに脅迫状が届く。田中の仕業ではないかと疑った五浦大輔は田中の様子を探るが、逆に彼から祖父が持っていたという太宰治の別の「晩年」の初版本探しを依頼されてしまう。さらに調査の過程で、田中の祖父が若い頃、研究者である大学教授の富沢の家に入り浸っていたときに起こった、富沢の書庫からの稀覯本の盗難事件の真相を富沢の娘から明らかにしてほしいと依頼される。
 第1巻にも登場した太宰治の「晩年」の初版本が再び登場します。当初の「晩年」の初版本探しから、過去に起こった盗難事件の経緯を調べることとなった二人。田中に「晩年」の情報を与えたのは誰か。過去の盗難事件の犯人は誰なのか。関係ないと思った事実が複雑に絡み合って、二人の前に立ちはだかります。特に今回はいまだに杖をつく栞子の足の怪我の加害者である田中が登場、どう栞子と○○に関わるのかが読みどころとなっています。また、このシリーズは謎解きだけでなく、本に関わるいろいろな出来事が描かれているのも読書好きには楽しいところですが、今回も小説中で明らかにされる太宰に関わる事実を興味深く読むことができました。
 シリーズファンとして気になるのは、栞子と大輔の仲ですが、亀の歩みのようにゆっくりとですが順調に進んでいるようです。作者が言うにはシリーズも次かその次で終わりとのこと。さて、二人の仲はどこまで進むのでしょうか。
※それにしても大作家とされる太宰治ですが、僕自身も読んだことのあるのは小学生の頃に読んだ「走れメロス」と「人間失格」だけで、五浦と変わりありません。 
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江ノ島西浦写真館  光文社 
  江ノ島にある西浦写真館は100年もの歴史を持つ写真館だったが、経営者の西浦富士子の死により、幕を閉じることとなる。母から遺品整理を頼まれた富士子の孫、桂木繭は久しぶりに写真館を訪ねる。かつてはプロの写真家を目指していた繭だったが、ある事件をき
っかけに写真家への道を諦め、大学卒業後は小さな自動車部品メーカーに就職していた。写真館に注文していた写真を取りに来た青年、真島秋孝の協力を得て遺品整理をする中で繭は四角い缶の中に入った「未渡し写真」を見つける・・・。
 「ビブリア古書堂]シリーズでは本にまつわる謎が解かれましたが、この作品では写真にまつわる謎が解かれていきます。写真は写っている人の時間を切り取ったものですから、そこからはその人の人生をいろいろと想像できるので、本よりいっそうミステリの素材としては相応しいかもしれません。
 この作品では、時代も場所も異なるのに同じ青年が写っている四枚の写真、繭と仲違いして姿を消した幼馴染みの男性・琉衣が写った写真、銀の塊と借用書が写った写真、二人の男性が並んで写る写真から4つの話が紡ぎ出されます。その中で、インパクトの強い話が第2話とラストの第4話です。
 第2話の琉衣が写った写真からは繭が写真家を断念することとなった事件、SNSに繭がUPした琉衣の写真をネットに流出させた犯人は誰なのかが描かれていきます。表に現れている顔とは異なる人間が心の奥底に隠している顔の醜さを感じさせる話となっています。
 ラストに置かれた二人の男性が並ぶ写真の謎では、繭に協力をしてくれていた真島の秘密が明らかにされますが、その事実に唖然としてしまいます。子どもの、あるいは孫の存在を否定するような秋孝の父親と祖父の言動に嫌悪を感じざるを得ない、非常に後味の悪い話です。
 全体を通しては、繭自身が生きていくことの苦しみを乗り越えて前に進み始めていく物語となっているところが、全体のトーンが暗いことに対する救いとなっています。
 なお、「ビブリア古書堂」シリーズのファンには嬉しいエピソードが。第2話に登揚する繭の大学時代の先輩・高坂晶穂は「ビブリア古書堂」シリーズの第2巻に出てきた、主人公・五浦大輔のかつての恋人です。物語世界が広がっていくかなあと期待したいところですが、西浦写真館はもう閉店なので、無理かな。
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ビブリア古書堂の事件手帖7  ☆  メディアワークス文庫
 ビブリア古書堂の事件手帖シリーズ第7弾です。
 今回、登場する古書はシェイクスピアのファースト・フォリオ。ウィキペディアによると、ファースト・フォリオとはシェイクスピアの戯曲集をまとめて出版した最初の作品集だそうです。2016年4月時点で234冊が現存しており、今回は新たな発見ということで、この本を巡って篠川栞子、五浦大輔コンビと祖父、久我山尚大の店の店員であった吉原喜市や母である篠川智恵子との知恵比べが行われます。
 今回の作品で母が突然姿を消した理由も明らかとなり、母と栞子との間のわだかまりも、また、栞子と大輔との恋の行方も決着がつきます。
 これでシリーズ自体は終了ということで、最後を飾るように、シリーズの登場人物たちが顔を見せます。このシリーズの第1作から登場していた“せどり屋”でホームレスの志田が衣装も新たに登場したりもします。
 三上さん自身によるあとがきによると、スピンオフ作品を考えているとのこと。 どんな話になるのか、そちらも楽しみです。映画化の話もあるそうですが、栞子さん役が誰になるのかは大いに気になります。テレビ版の剛力彩芽さんはちょっとイメージが違ったかなあ。 
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同潤会代官山アパートメント  ☆  新潮社 
 ウィキペディアによると、この作品の舞台となる同潤会アパートは、「財団法人同潤会が大正時代末期から昭和時代初期にかけて東京・横浜の各地に建設した鉄筋コンクリート造(RC造)集合住宅の総称で」、「当時としては先進的な設計や装備がなされていた。」そうです。
 物語は、大正12年に起きた関東大震災によって嫁入り直前の妹を亡くした八重が、やがて妹が結婚する予定だった竹井光生と結婚し、同潤会代官山アパートに住み始めてから現在までの八重とその家族の歴史を描いていきます。
 「月の砂漠を 1927」では八重と竹井の出会い、そして関東大震災を経て心が通じ合った二人が結婚をし、竹井が地震で愛する人を再び失いたくないと、当時先進的な地震に強い鉄筋コンクリート造りの同潤会アパートに住み始めるまでが語られます。
 「恵みの露 1937」では、竹井と八重の間には愛子という娘が生まれており、その愛子のクリスマスプレゼントのために買ったぬいぐるみが盗まれた事件の顛末が語られます。
 「楽園 1947」では、終戦後の動乱期に愛子とかつて同潤会アパートに住んでいた杉岡俊平との出会いと俊平が戦争中に負った心の傷が語られます。
 「銀杏の下で 1958」では、アパートには八重夫婦と、俊平と結婚した愛子とその二人の間に生まれた浩太と進の二人の息子が同居しており、ある事件が起きた時の八重の奮闘が語られます。
 「ホワイト・アルバム 1968」では、進が主人公となり、進の高校生時代の学生運動とビートルズに熱中した世相、そして進の失恋が語られます。
 「この部屋に君と 1977」では、竹井が主人公となり、病に倒れ余命幾ばくもない竹井の望みを叶えようとする八重と進の姿が語られます。昔住んでいた3階に行きたいという竹井の気持ちは、年齢を重ねた今は何となくわかります。慣れ親しんだところには様々な思い出が詰まっているのですから。
 「森の家族 1988」では、愛子夫婦がアパートを出て神奈川の藤沢に移り、アパートには八重と進が住む中、神戸にいる浩太の娘・千夏が両親と喧嘩をして八重の元へとやってきて八重と進と暮らす様子が語られます。ひ孫との暮らしの中で、八重はある決断をします。
 「みんなのおうち 1997」では、1995年1月16日の深夜、八重が危篤状態に陥る中、神戸で震災が起こり、連絡が取れない両親を心配して、高校入学以来同潤会アパートに住んでいた千夏が神戸に向かう様子が描かれます。それから2年後、老朽化した代官山アパートは取り壊され、再開発が始まります。
 主人公である八重はもちろん、八重のことを想い地震に強い同潤会アパートに入居した竹井をはじめとする彼らの家族誰もが他人のことを思いやられる優しい人ばかりの物語です。家族っていいなあと思わせてくれる作品でした。 
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