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麻耶雄嵩の本棚

  1. 名探偵 木更津悠也
  2. 貴族探偵
  3. メルカトルかく語りき
  4. 神様ゲーム
  5. さよなら神様
  6. あぶない叔父さん
  7. 化石少女

名探偵 木更津悠也 カッパ・ノベルス

 「翼ある闇」「木製の王子」に登場している木更津悠也と作家の香月実朝を主人公とする4編からなる短編集です(「木製の王子」に木更津悠也が登場していたことは憶えていたのですが、「翼ある闇」に出ていたことは全然憶えていませんでした。あの作品は何といってもメルカトル鮎の印象が強すぎましたからね)。題名が「名探偵」と謳っているように、名探偵とは何なのかをテーマにしています。
 名探偵の木更津に対して、記録者の香月実朝という関係からは当然ホームズとワトソンが思い起こされます。しかし、ワトソンがホームズの引き立て役だったのに対し、香月は単なる記録者に止まらず、名探偵木更津悠也が名探偵であるために、解決へのヒント等を与えています。それも木更津悠也が意識しないように気を付けながら。香月は名探偵木更津悠也が名探偵であるための演出家といえるのではないでしょうか。そして、香月は最後に木更津悠也が真相を解明する様子を見て、これでこそ名探偵だと満足しているのです。不思議な二人の関係です。
 作品の中では「交換殺人」がひねりがきいていて一番楽しめました。
 ところで、4編をとおしてあるものが登場するのですが、真相は一体何だったのでしょうか。

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幻冬舎
 10年前に6人が惨殺された事件のあった山荘「ファイアフライ館」で合宿することになったオカルトスポット探検サークルの6人の大学生と山荘の所有者でもあるサークルのOB。肝試しが行われた翌朝、OBが殺されているのが発見される。携帯電話も通話不能のなか、奇しくも麓への道は豪雨のため橋が通行不能となったうえに、山荘内の電話はいつの間にか取り外されていた。
 これは、もう嵐の山荘そのものということで、ミステリ好きの僕にはたまらず、一気に読んでしまいました。犯人捜しと“ジョージ”と呼ばれる連続殺人鬼探しも加わって飽きさせません。
 読んでいると、たぶん誰もが、最初からなんかおかしいなと感じます。鋭い人なら重要なトリックに気がつくかもしれません。一度読み終えて、再度読んでいくと、ああ、そうかあと気がつきます。作者が注意深く書いていることがよくわかります。どこかおかしいと思いながらも、ねじれた糸を解きほぐすことができない自分にもどかしさを感じてしまいました。とにかく騙されてしまいました。やられたなあ。

※帯には殺人鬼“ジョニー”とありますが、誤植ですね、幻冬舎さん!
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貴族探偵 集英社
 麻耶雄嵩さんの作品にはデビュー作等に登場したメルカトル鮎というちょっと変わった名探偵がいるのですが、今作にはそれ以上の変わった名探偵(?)が登場します。それが、題名にもなっている"貴族探偵"です。
 やんごとなき身分のようなのですが、出自や名前は最後まで明らかにされません。現場の刑事は、彼に対し、一般人が口を出すなと言うのですが(それが当たり前です)、なぜか上司からは彼に協力するよう指示されてしまいます。それならそれでいいのですが、実際に謎解きに奔走するのは彼の執事や運転手、メイドであって、本人は雑用は執事たちにさせればいいと、のんびりお茶など飲んでいるだけ。最後に関係者を集めての謎解きも、執事たちがするという始末。
 かつて、新本格派が台頭してきた際に、それまでのミステリ作家からは、人間が描かれていないなどと批判があったのですが、過去はともかく、この作品も人間を描くことはさておいて、トリックに重心が置かれた作品です。
 執事たちに謎解きを任せる貴族探偵という設定も、それだけでは、これといっておもしろさは感じられません。コミカルな雰囲気を狙ったとしたら中途半端です。久しぶりの麻耶さんの作品に期待したのですが、若き頃のようにトリックの解明に特化した作品を読むのは辛い年齢となったようです。
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メルカトルかく語りき 講談社ノベルス
 “銘”探偵、メルカトル鮎を主人公とする5編が収録された短編集です。
 20年前、デビュー作の「翼ある闇 メルカトル鮎最後の事件」を読んだ時には、これはおもしろいと思った記憶があるのですが、若い頃とは感性が変わったのかもしれません。メルカトル鮎の傲慢な態度、「九州旅行」で美袋が窮地に落ちようとも何とも思わないその態度、論理的な解決と思いきや読者が連れて行かれるのはどこか歪んだ解決で終わる世界、これでこそ、メルカトル鮎の真骨頂なのでしょうが、どうも、こういう作品は好みではありません。
 ただ、あまりに尋常ではない(?)解決は強烈なインパクトを与えます。特に「答えのない絵本」です。理科準備室で教師が殺害され、容疑者は同じ階にいた20人の高校生。彼らの行動を調べ、犯行をなしえない人物を一人一人論理的に除外していき、犯人を名指しするかと思ったら・・・。これはその前とは異なる本格ミステリだなと期待したら肩透かしでしたが、こういうラストとはびっくりです。読者を選ぶ作品ですね。
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神様ゲーム  ☆ 講談社
 刑事の父を持つ黒沢芳雄は小学4年生。芳雄の住む神降市(「神が降りる市」とは、何とも象徴的な名前です。)で連続猫殺害事件が発生し、彼は同級生と結成した探偵団で犯人捜しを始める。そんなある日、彼らは探偵団の本部として使用していた廃屋の井戸で同級生の死体を発見する。現場が密室状態の場所だったため、事件は事故として処理されるが、納得がいかない芳雄は、“神様”を自称する同級生の鈴木に犯人に天誅を下してほしいと頼む・・・。
 この作品、講談社の子ども向けの「ミステリーランド」の中の1冊です。ただ、小学生たちの少年探偵団を気取った冒険ものかと恩ったら、書かれている内容は子ども向けとも思えません。何と言っても同級生が殺されてしまうのですから。さらには神様の天誅のあまりの残虐さ(血が飛び散るスプラッター映画の―場面を思い浮かべてしまいます。)、そしてラストの出来事。これは子どもには読ませられないでしょう。
 ミステリとしても難しいです。だいたい、驚きの謎解きがなされた後のラストにどうしてああいう結果になるのか、最初はポカーンとしてしまいました。改めて振り返ってみて、ようやくこういうことなのかと納得しましたが。
 題名は神様を自称する鈴木くんが、単に自分が神様だとするゲームを行っていると芳雄が考えることからつけられたと思いますが、本当に鈴木くんは神様だったのでしょうか。そこが明らかとならずに終了するのはいささか消化不良です。

※文中に長崎で起きた事件を思い起こさせるような一文があります。『猫殺しは往々にして人殺しにエスカレートするもんだ。今のうちに捕まえておかなければ大変なことになるかもしれない。(略)』実際にこの通りのことが長崎で起こってしまったのですから、怖いですよ。
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さよなら神様  ☆ 文藝春秋
 「神様ゲーム」の続編です。6編からなる連作短編集です。
 自分を“神様”と自称する鈴木太郎くん。久遠小学校に転校してくるが、そこにも少年探偵団を結成する桑町淳ら4人の少年たちがいた。
 前作と同様、今回もまず冒頭で鈴木くんが「犯人は誰々だよ」と、驚きの犯人の名前を挙げるところから始まります。鈴木くんは“神様”なので、犯人は当然その人だということで、なぜその人なのかという理由は語りません。あとは探偵団が鈴木くんが正しいとの前提の元に事件を捜査します。探偵団は現場を調べたり、アリバイを確認したりと、論理的に推理を展開していきます。読みながら、小学5年生とは思えない言動に違和感を覚える部分が多々あるのですが、そもそも“神”が前提の物語に、「小学生らしくない」という感想は問題外なんでしょう。
 冒頭の「少年探偵団と神様」では鈴木くんが指摘した犯人は警察が内定捜査していたということであっけなく逮捕され、「アリバイくずし」では指摘した人物とは異なる人物が逮捕されて事件は終わり、「ダムからの遠い道」では指摘した犯人は逮捕されないという、かなり消化不良の状態で話が進みます。
 ところが、次の「バレンタイン昔語り」の驚きの結末からいっきに様相が変わります。ここでは、1年前に池でおぼれ事故死として処理されたクラスメイトの川合くんの事件について、鈴木くんの指摘した犯人は誰も知らない人でしたが、その後転校してきた男の子の母親だということが明らかになります。事件当時に町にいない人が犯人ではあり得ない、とうとう鈴木くんが間違えたのかと思ったら、ラストで驚愕の事実が明らかになります。こんな捻りがあったのかという結末です。
 この「バレンタイン昔語り」の驚愕の事実から、いよいよ淳の物語が語られていくことになります。冒頭からひっかかっていた違和感の正体については、途中であれっと思う記述がいくつもあるので、すぐに気づくことができるのですが、これが全体の話に繋がることになるとは・・・。
 淳のことを常に気にかけてくれていたクラスーの美少女新堂小夜子の殺害事件を描く「比土との対決」から“神様”である鈴木が転校した後を描く「さよなら神様」を読むに至って物語全体を通しての大きな仕掛けが現れてきます。結末がわかってから読み返すと、ある人の行動の裏にはある思惑が隠されていたということがわかります。
 前半3話の消化不良感をいっきに覆す「バレンタイン昔語り」からの圧倒的な展開に脱帽です。
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あぶない叔父さん  新潮社 
(ちょっとネタバレ)
 四方を山と海に囲まれ、霧深い田舎町、霧ヶ町の寺の次男坊である高校生の斯峨優斗。彼には真紀という恋人もいて、高校生活を謳歌していたが、図らずも町で次々と発生する奇妙な殺人事件に巻き込まれていく。彼の相談相手は、寺の離れで何でも屋を営む叔父さん。叔父さんの口から語られる事件の犯人とは・・・。
 6話からなる連作短編集です。本の帯に「探偵のいない」本格ミステリとありますが、「最後の海」を除けばまさしくそのとおりです。「最後の海」は叔父さんが事件の真相を解き明かし犯人を指摘しますが、それ以外は推理をしているわけではなく、単に起こった事実を述べているだけに過ぎません。「そんなの誰だってわかるだろう。それより、どうしてそんなにのんびり構えていられるんだ!」と言いたくなりますが、これが麻耶さんの作品の登場人物らしいところなんでしょう。どうして「あぶない叔父さん」という題名なのかがよくわかりました。
 「失くした御守」の部屋からの消失トリックと屋敷からの脱出方法、「最後の海」の犯人がアリバイづくりのために使ったトリック、「旧友」の密室トリックの成立方法、「あかずの扉」で風呂場に隠れていた方法等々、謎が明らかになると脱力してしまうようなトリッ
クばかりです。ひとつ間違えば事件はすぐ解決です。
 連作短編集であるなら最後の「藁をも掴む」で何らかの収束が図られるのかと思ったら、その前と同じ流れで拍子抜け。それに優斗が真紀と明美のどちらを選ぶのかもわからず仕舞いで消化不良です。もしかしたら続編があるのかも。
 表紙の絵に描かれているように、叔父さんの身なりが金田一耕肋のイメージを彷彿させるのも作者の狙いでしょうか。 
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化石少女  徳間書店 
  良家の子弟が集まる私立ペルム学園。神舞まりあは2年生で古生物部の部長。桑島彰は二人しかいない古生物部の唯一の部員の1年生。まりあの父親の会社の社員である父からお嬢様であるまりあの守り役を頼まれて、興味もないのに古生物部に入部している。その古生物部は部員数の減少で、生徒会から廃部を求められている。そんなペルム学園で次々と殺人事件が起こり、まりあが迷探偵としてワトソン役の彰とともに事件の真相を追う・・・。
 女子高校生探偵といえば美少女で頭脳明晰というイメージがあるのですが、まりあといえば、美少女ではあるが、化石オタクの頭の方はいまひとつ。テストでは赤点ばかりで校内順位も下から数えた方が早いという女子高校生というところが同種の作品と異なるユニークな設定です。
 ストーリーは学園で起きる殺人事件(第4章の「自動車墓場」だけは合宿先の事件ですが)をまりあが推理するという形で進みますが、古生物部の廃部を求める生徒会憎さで、まりあが推理する事件の犯人は常に生徒会役員。強引なまでの推理を披露するまりあを彰は押しとどめます。
 どの章もまりあの推理が正しいのか検証もなされずに、また、警察による解決もなされずに、次の章へと進んでいきます。このあたり、読者としてかなり消化不良になります。
 エピローグで、謎解きがなされますが、犯人の動機まできちんと明らかにされるのはラストの「赤と黒」における古生物部の新入部員馬場広道が被害者となった事件だけです。その事件におけるまりあの推理から振り返ってすべての事件の犯人が明らかになるのですが、動機の説明もなにもなしで、「え!?そうなの?」で終わってしまった感じです。
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