第141回芥川賞候補作となった表題作と第107回文学界新人賞を受賞した「廃車」の2編からなります。
表題作は、読む前には弱小サッカー部がしだいに強力チームを打ち破っていく過程を描く青春物語かなと思っていました。でも、それだとエンターテイメント性が高くて直木賞の方でしょうね。確かに3年生最後の試合が描かれるのですが、その途中にサッカー部の女性監督のサッカーに関する卒業論文が唐突に挿入されたりして、そういう点でストレートにエンターテイメント性を追求しているわけではありません。この卒業論文、毛沢東の著作まで出てきてユニークなのですが、唐突に挿入される理由が読みが浅いせいか、いまひとつわかりません。
試合自体は感動的に描かれているのですが、短編(中編?)なので、それぞれの部員のキャラも深く掘り下げていなくて(意図的かな?)、ちょっと物足りない感も。
「廃車」は、故障しがちな車の維持が面倒くさくなってタダで譲渡した中国人留学生との間でのトラブルを描いた作品です。
とにかく主人公のキャラが好きになれません。大学生の彼女にご飯代を出してもらい、彼女が横浜に就職したらノコノコとついていくなんてね。主人公が好きになれないから作品自体も好きになれなかったかもしれません。廃車手続きでトラブルになった中国人に対して長々と中国人差別に関して自分の主張を述べるシーンでのあの知識の羅列は読む気にもなれませんでした。また、突然挿入される、主人公が4万人以上の聴衆を前に講演をしているシーンはいったい何なのかまったくわかりませんでしたし。 |