茶道の家元「坂東巴流」の跡継ぎの主人公遊馬は、自分らしく生きたいと、跡を継ぐのを嫌い家出をする。ひょんなことから「巴流」宗家のある京都にきた遊馬は東京から一緒に来たバンド仲間の翠の家に居候することになる。
茶道にたしなみのない僕としては、お茶の世界の用語が多く出てきて(そのうえ、ふりがながつかないと読めない用語)、読みにくいかなと最初は思ったのですが、あにはからんや、すらすらと読み進めることができました。お茶を点てるときの状況もなんとなく頭の中に浮かんできます。松村さんの筆力のなせるところでしょうか。
京都嫌いの遊馬が京女翠の京ことばに酔ってしまったり、バス乗り場で東京からきたらしい学生の話し言葉を聞いて、石川啄木のかの有名な短歌を思い出したりと、とにかく最初京生活になじめない遊馬の様子が愉快です。家宝の茶杓を持ち出して金に換えようとしたり、托鉢僧に扮してお布施をもらおうとしたりと、かなりいい加減なところのある遊馬が周囲の人とふれあうことによって次第に成長していく姿がユーモラスに描かれていきます。
主人公以外の登場人物もみんな個性的でおもしろいです。その中でも一番は遊馬の弟、行馬でしょう。出番は少ないですが物語の鍵を握る重要人物(!)です。兄よりしっかりしていて中学生とは思えません。「大事なものは目に見えないんだよ」と兄に説教するところは、どちらが兄だという感じです。醒めた口調がなんとも言えません。そして、最後に明らかとなるあの遠大な計画には思わず笑ってしまいました。
とにかく、楽しめるエンターテイメント作品です。おすすめです。 |