▲トップへ   ▲MY本棚へ

松村栄子の本棚

  1. 雨にも負けず粗茶一服
  2. 風にも負けず粗茶一服
  3. 花のお江戸で粗茶一服

雨にも負けず粗茶一服  ☆ マガジンハウス
 茶道の家元「坂東巴流」の跡継ぎの主人公遊馬は、自分らしく生きたいと、跡を継ぐのを嫌い家出をする。ひょんなことから「巴流」宗家のある京都にきた遊馬は東京から一緒に来たバンド仲間の翠の家に居候することになる。 
 茶道にたしなみのない僕としては、お茶の世界の用語が多く出てきて(そのうえ、ふりがながつかないと読めない用語)、読みにくいかなと最初は思ったのですが、あにはからんや、すらすらと読み進めることができました。お茶を点てるときの状況もなんとなく頭の中に浮かんできます。松村さんの筆力のなせるところでしょうか。
 京都嫌いの遊馬が京女翠の京ことばに酔ってしまったり、バス乗り場で東京からきたらしい学生の話し言葉を聞いて、石川啄木のかの有名な短歌を思い出したりと、とにかく最初京生活になじめない遊馬の様子が愉快です。家宝の茶杓を持ち出して金に換えようとしたり、托鉢僧に扮してお布施をもらおうとしたりと、かなりいい加減なところのある遊馬が周囲の人とふれあうことによって次第に成長していく姿がユーモラスに描かれていきます。
 主人公以外の登場人物もみんな個性的でおもしろいです。その中でも一番は遊馬の弟、行馬でしょう。出番は少ないですが物語の鍵を握る重要人物(!)です。兄よりしっかりしていて中学生とは思えません。「大事なものは目に見えないんだよ」と兄に説教するところは、どちらが兄だという感じです。醒めた口調がなんとも言えません。そして、最後に明らかとなるあの遠大な計画には思わず笑ってしまいました。
 とにかく、楽しめるエンターテイメント作品です。おすすめです。
リストへ
風にも負けず粗茶一服  ☆ マガジンハウス
 自分らしく生きたいと家出をした茶道の家元「坂東巴流」の跡継ぎの友衛遊馬を描いた「雨にも負けず粗茶一服」の続編です。今回は、修行のため延暦寺の末寺である天鏡院の門を叩いた友衛遊馬の成長を描きます。
 ユニークな住職のもとで、現代っ子が味わえない不便な生活を送る遊馬の様子を読んでいると、思わず笑みがこぼれてしまいます。とにかく、住職である柴門老師と遊馬の漫才のような修行期間が最高のおもしろさです。遊馬が不便な生活や紫門の理不尽な言動に文句を言いながらも、逃げ出さずに自分なりの修行を行うのは前作より大人になったせいでしょうね。
 遊馬を取り巻く人々のキャラクターも相変わらずユニークです。今回の一番は相当の歳でありながら暗い山道を駆け回ってしまう、ものすごい体力の柴門老師。今作のおもしろさは紫門老師の存在があってこそです。
 遊馬の弟の行馬も相変わらず負けてはいません。名門に婿入りを狙うという遊馬など足下にも及ばない大きな計画も着々と進んでいるようです。大人びたしっかりした少年ですが、ときにかわいい少年らしい顔も覗かせるところが何とも得難いキャラです。
リストへ
花のお江戸で粗茶一服  ポプラ社 
 シリーズ第3弾です。京都から東京の実家に戻ってきた遊馬。しかし、“板東巴流”家元を継ぐ決心はできず、大学にも行かずにバイト生活を送っている。果たして、遊馬は家元になる決意を固めるのか。
 いつもの友衛家一家に京都からやってきて内弟子になった遊馬のガールフレンドの桂木佐保、遊馬不在中に板東巴流に入門したセルビア人のミラン・トマシェビッチ、華道・水川流の家元の娘で、初対面では、ヤンキーかという格好で現れた女子高生・水川珠樹、更には遊馬を慕って京都から出てきた少年・伊織とその祖母などの新たなキャラを加えて、遊馬の成長が語られて行きます。
 弓、剣、茶の三道を伝える板東巴流ですが、今作で語られる多くは茶道のことであり、茶道のことを何も知らない僕にとっては、その描写は正直のところ退屈で、読み進めるのに辛い部分がありました。しかし、青く染めた髪を問題視されてなかなか弓道の昇段ができなかったり、母の公子に釘を刺されて佐保との仲がいっこうに進まなかったり、更には本家の後継者問題に巻き込まれたり、嗣子として「本返し十段」という茶事を行うことになったり等々次々と描かれるエピソードが楽しくて、いっき読みでした。カンナの出生の秘密や遊馬の両親のなれそめが語られているのもシリーズファンとしては楽しいです。
 第1作では10代だった遊馬がここでは20代半ばとなりました。次作ではいよいよ家元となりシリーズ完結となるのか・・・。 
 リストへ