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増島拓哉の本棚

  1. 闇夜の底で踊れ

闇夜の底で踊れ  集英社 
 元やくざの伊達は、ときどき日雇いの仕事で日銭を稼ぎながら、パチンコに狂う毎日。ソープ嬢の詩織に入れ込み金のなくなった伊達は、身分を偽って闇金業者から金を借り、それを踏み倒すことを繰り返す。やがて、身元がバレ、窮地に陥った伊達の前に、かつての兄貴分の関川組の若頭である山本が現れる。闇金業者から伊達の債権を買い取ったという山本に命令され、伊達は、山本のアブナイ仕事を手伝うようになるが、やがて、組長引退を巡る暴力団の争いに巻き込まれていく・・・。
 いわゆる、悪漢小説、ノアール小説ということになるのでしょうが、主人公の伊達が35歳なのに、やたらと軽口を叩いたり、笑えぬユーモアを言ったりで、とても35歳とは思えぬ感じの男なので、ちょっと悪漢小説としては調子が狂います。そんな伊達の人となりで的を得ているのが、ラスト近くで山本が彼を評した「ひねくれ者の天邪鬼、そのくせ楽観主義的で妙にピュア、いつも冷めているくせにパチンコみたいなしょうもないもんに熱中する、底抜けにアホで間抜けで、中身のないことばっかりぺらぺらよう喋る、無教養で無節操なちゃらんぽらんや」という言葉です。妙にピュアがゆえに人を信じ、しかし、いざとなれば甘さを見せず冷静に行動するという伊達の本性を見事に言い当てています。
 そんな伊達のキャラと伊達と山本との軽妙なやり取りで、どんどん読み進むことができましたが、ラストはやっぱりノアール小説らしい情け容赦のない部分を見せてくれました。伊達が、なぜ中学時代にクラスメートの頭をレンガで殴ったのか、なぜやくざになってから同じ組の男を殴り殺したのかの理由が明らかになったときには唖然。そこまで読んできても、その理由はまったく予測もつきませんでした。
 第31回小説すばる新人賞受賞作です。作者は大学生でまだ20歳ということですが、パチンコもしたことはなく、その知識はネットで得たそうです。これからに期待です。 
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