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真梨幸子の本棚

  1. お引っ越し
  2. 5人のジュンコ
  3. 人生相談。
  4. アルテーミスの采配
  5. 6月31日の同窓会
  6. 私が失敗した理由は
  7. 祝言島
  8. ご用命とあらば、ゆりかごから墓場まで
  9. 向こう側の、ヨーコ
  10. 初恋さがし
  11. 三匹の子豚
  12. 聖女か悪女
  13. フシギ
  14. さっちゃんは、なぜ死んだのか?
  15. 4月1日のマイホーム

お引っ越し  ☆  角川書店 
 『引っ越し』をモチーフにした連作短編集です。
 殺人犯が住んでいた部屋から引っ越そうと、マンションの内見に訪れた女性が、気になった非常扉を開けてしまったことから、恐ろしい状況に陥ってしまう・・・(「扉」)。完璧を期すにもほどほどにした方がいいと思わせる怖さです。
 引っ越しの荷造りが終わったと思った女性が、玄関の棚に前回引っ越してきたときの荷物をそのまま置いてあることに気付き、整理を始めたが、その中身は、ある過去の出来事の思い出の品で・・・(「棚」)。どこがイヤミスなんだ、単なる優柔不断な女のドタバタを
描いたものだと思ったのですが。
 引っ越し業者でパートで働き始めた主婦が、机の引き出しの中から、前任者が書いた警告の手紙を発見し、これはまずいと退職をしようとするが・・・(「机」)。これは怖いですねぇ。伏線が張ってあったのですが、こういう着地をするとは予想できませんでした。作者のミスリードにしてやられました。
 社内の引っ越しで、お局さんや契約社員に疎まれている女性社員の荷物が行方不明になり、意外な場所で発見されたのだが・・・(「箱」)。人をイライラさせてしまう人ってどこにもいますが、それにしてもこの女性社員があまりにかわいそうな1編。
 隣の夫婦の部屋の騒音が原因で、極度の寝不足になっている職場の同僚が、その騒音が、夫のDVではないかと警察に通報したのだが・・・(「璧」)。見事に先入観に騙されましたねぇ。
 ネットのストリートビューで、自分が住んでいるマンションの中まで見ることができることを発見した女性が、自分の部屋の非常扉から、黒い紐のようなものが這い出ているのを見てしまい・・・(「紐」)。冒頭の「扉」に繋がる1編です。
 本作品が連作であるのは、次の「解説」ゆえです。「解説」や「あとがき」があると、ついそちらから読んでしまいたくなります。この作品にも「解説」があったので、それから読み出したのですが、この「解説]は最後に読まないといけません。なんとこの「解説」は「解説」という題名のひとつの話でした。各話の“解説”という形をとりながら、それぞれの話の繋がりを明らかにしていくという、この構成が絶妙です。それぞれの話を読んで怖いなあと思ったのが、この「解説」によってその怖さが増幅されます。
 どの話にも“アオシマ”という人物が登場してきますが、「解説」で、実は・・・というところが明らかになりますが、なるほどねぇ。 
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5人のジュンコ  ☆  徳間書店 
  先に読んだ「お引っ越し」は、ホラー風味が強かった作品でしたが、この作品は、“真梨幸子さんといえばイヤミス”らしい、読み続けるのが嫌になるほどのイヤミス感たっぷりの作品でした。
 そもそものストーリーの発端となる事件は、大勢の男性に結婚を餌に金を貢がせ、挙げ句の果ては殺害してしまうという、実際に起こったあの女性の事件がモデルでしょう。ワイドショーで報道された犯人の女性の写真に、どうしてこの女性に何人もの男が騙されるんだと驚きを禁じ得なかった事件です。
 ただ、物語は、この事件をなぞっていくわけではありません。事件の犯人、佐竹純子と彼女と同じ名前を持つ3人の“ジュンコ”、更に“ジュンコ”という名前の母を持った女性を描きながら物語は進んでいきます。
 登場人物で、佐竹純子に直接関係のあるのはエピソード1に登場する中学時代のクラスメート、篠田淳子だけ。あとは彼女の事件を追うジャーナリストのアシスタントだったり、彼女に似ていると言われた主婦だったり、被害者の男性の姉だったりと、佐竹純子と直接関わったわけではありません。そんな人たちが作中に述べられているバタフライ効果のように、佐竹淳子の悪意の影響を受けていくというストーリーになっています。
 登場してくる人物が誰もが心の中では周囲に悪感情を持つ人物ばかり。特に冒頭に登場する篠田淳子は、佐竹純子がいかに嫌な女であるかを語っていくのですが、読んでいて投げ出したくなるほど嫌な感じになります。それは他の登場人物も同じで、誰にも感情移入ができません。でも、彼女らが他人に抱く悪意は誰もがどこかで他人に抱いてしまうものかもしれません。
 それぞれの章で読者をミスリードして、読者にあっと言わせるどんでん返しの展開もうまいです。特に最後が“エピソードO”になっているところは、こうきたかと、一段とイヤミス度がアップです。
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人生相談。  ☆  講談社 
 ほとんどの章が冒頭に大洋新聞に連載されている「よろず相談室」欄に寄せられた読者からの相談があり、それに関係した出来事が描かれ、最後に相談への回答があるという体裁になっています。読者の相談に対する回答は通り一遍のありきたりなものであり、その間で語られるストーリーは回答の通りには進んでいかないという皮肉な作りになっています。
 ある話の主人公が別の話では脇役として登場しており、連作短編集かなと思いましたが、彼らが複雑に絡み合って実は一つの長編となっています。
 とにかく登場人物が多くて、そのうえ同一人物でありながら名前が違っている人もおり、更には読者をミスリードするためか、現在と1994年という二つの時代を背景としており、全然頭の中で話の整理ができませんでした。「この人、前にも登場したよなあ・・・」
と、何度も前のページに戻りました。これだけの登場人物にうまく関わりを持たせて描いていくとは真梨さん、なかなかのものです。すべてが普通の人ばかりでなく、一癖も二癖もある人や、これはもう性格破綻しているなと思う人物も出てくるので、ことは複雑化してきます。その中で物語の各所で語られている行方不明事件や横領事件、更には大金を拾った事件がひとつの話へと繋がっていくところは見事です。
 とはいえ、構成が複雑すぎて、老年に差し掛かる僕の頭では到底理解できませんでした。サイトに登場人物相関図を作成した方がいて、その相関図を見て、ようやくストーリーの全体像がわかった次第です。
 さすがイヤミスの女王というだけあって、冒頭の「居候している女性が出て行かない」1編だけとっても、イヤミス感たっぷりの作品です。その後に少女の相談で語られていた風景が180度反転するところにはやられました。 
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アルテーミスの采配  幻冬舎 
(ちょっとネタバレ)
 冒頭、二人の女性のエピソードが語られます。物語はすぐにワイドショーにも登場するようになった元女性AV監督・西園寺ミヤビが書く「アルテーミスの采配」という本の話となるので、このエピソードを忘れてしまうのですが、すべてはここが始まりです。
 西園寺の本のネタを提供するため、フリーライターの名賀尻がAV女優たちにインタビューをするが、インタビューをしたAV女優たちが次々と行方不明になったり、不審死を遂げる。出版社の編集者から、容疑がかけられていると聞いた名賀尻は、編集者の助けで姿を隠すが・・・
 “アルテーミス”とは「ギリシャ神話に登場する狩猟の女神あるいは純血を司る処女神。男女の性愛を嫌悪し、特に男性の性的な欲望に対して激しい怒りを持つ残虐の女神」だそうです。この題名が意味する“アルテーミス”とは誰なのか、“采配”とは何なのかが、最
後に明らかにされるのですが、さすがイヤミスの真梨さんの作品らしく、読後感はよくありません。
 登場人物の人間関係が複雑に絡み合っており、「まさか、この人がそんな重要な役どころで登場してくるとは!」という驚きもあって、頭の中で人間関係を整理するのがやっかいです。「この人とこの人はこういう関係で」と、人物相関図を自分で作りながら読み進みました。
 事件はある人物たちの“采配”によって起こされたものですが、“采配”というにはあまりにその計画は複雑で、手がかかりすぎているという気がします。最終目的のために、こんなところから始めるのかと、現実であれば恐ろしくなります。
 AV女優の世界の描写が非常に具体的です。真柴さん、相当な取材をしたのではないでしょうか。 
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6月31日の同窓会  実業之日本社 
(ネタバレあり)
 神奈川県にある幼稚園から短期大学まである蘭聖学園には「6月31日の同窓会」の案内が届いた卒業生は「お仕置き」がされるという噂があった。蘭聖学園の卒業生である漫画家の柏木陽奈子は、ニュースで同級生だった大崎多香美が死んだことを知るが、直後自らも歩道橋から突き落とされて命を落とす。蘭聖学園の卒業生である弁護士の松川凜子は、陽奈子を突き落とした犯人である同じ蘭聖学園の卒業生の弁護を依頼され、異様な事件の中に巻き込まれていく・・・。
 登場人物が多く、時間が行ったり戻ったりするので、非常に話がわかりにくいです。更に、「6月31日の同窓会」の案内状をもらった人はお仕置きされるという都市伝説、高等部の学業発表会で披露された演劇のストーリーと同じ順番に演劇に出演した89期卒業生が死んでいくこと、エスカレータ一式の学園でなぜか時々途中からの入学を認めているときがあること、松川弁護士の元に様々な蘭聖学園卒業生からの相談や依頼がある等々様々な話がごちゃ混ぜになっているので、ストーリーを頭の中で整理するのが大変です。
 真梨幸子さんらしいイヤミス作品です。女性たちが持つ嫉妬や憎しみを前面に押し出したストーリー展開になっていますが、それにしても、こんな妖怪の集まりのような学校があるのかなあ。あまりにどろどろとした関係ばかりで、勘弁して欲しいと思ってしまいます。
 冒頭に置かれた町の合併話で口論になった姉が弟二人をナタで殴って怪我をさせたという話が、本編にどう関係してくるのかと思いながら読み進みましたが、こういう繋がりだったとは。いやぁ~真梨さん、ラストは想像もしなかったどんでん返しに次ぐどんでん返しを見せてくれました。
 
(ここからネタバレ)
 読み終わって振り返ると、強烈な痛みを件うフッ化水素酸を使っての自殺をした理由が他人に「死ぬ」という暗示をかけるためというそもそもの大崎多香美の動機が理解できませんし、陽奈子のアシスタントや松川の事務所の事務員になぜか蘭聖学園の同窓生がいて、その同窓生がまた事件に関わりがある等々ご都合主義といってもいいところが目につきます。「6月31日の同窓会」の案内が届いた人は自らお仕置きしなくてはならないと考える人は、もうサイコパスですよね。なんだかなあ~です。 
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私が失敗した理由は 講談社 
 落合美緒は、大企業に勤める夫を持ち、都心のタワーマンションに住み順風満帆な人生を送っていたが、死産をきっかけに鬱病となり、勤めていた会社を退社。夫婦の収入で賄っていたマンションの賃貸料を払えなくなり、東京近郊の田喜沢市に移り住み、スーパーでパート勤めを始めていた。鬱々とした気分が抜けないまま毎日を過ごしていたとき、パート仲間のムラカミから同じパート仲間のイチハラの起こした殺人事件の話を聞いて、美緒の心に“ときめき”が復活。出版社の編集者をしているかつて捨てた男・土谷謙也に電話をかける・・・。
 物語は、人生に失敗した人にインタビューをして「私が失敗した理由は」という本を出す企画を思いついた美緒と、経営不振の会社を見限って退職金をはたいて会社を立ち上げてしまった謙也が“失敗してしまった”人たちを取材する様子を描いていきます。
 かつては数千万円の年収だったのに、なぜか自己破産をしてしまった作家や、高級住宅地のマンションに住み、市会議員選挙まで出たのにホームレスとなった主婦に取材をしていきますが、これがとんでもないどんでん返しになってしまうという、やっぱり真梨さんらしいストーリーです。更にはイチハラの起こした一家4人殺害事件には別の犯人がいるのではないかという疑惑が周囲の人々の運命を変えていきます。もちろん、真梨さんの作品ですから悪い方向にですが・・・。
 作中では真梨幸子さん自身や彼女の作品「孤虫症」のことがくそみそに貶されるなど、イヤミスの女王らしい自虐的な部分もいたる所に登場します(それが単なる自虐的なネタにとどまらないところが怖いです。)。あまりに予想を超える展開に唖然とするばかり。途中で、一家4人殺害事件の謎が明らかとなるミステリかなと思ってしまった僕がバカでした。真柴さんが、そんなスッキリとした終わり方を考えているわけないですね。相変わらず読了感最悪の話でした。
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祝言島  小学館 
  九重皐月はスタイリストの母と二人暮らしのデザイン学科の大学生。ある日、突然母がしばらく出かけると行ったまま失踪する。皐月は母が残したメモに名前があった大倉悟志を頼って母の行方を捜そうとするが・・・。
 母の失踪が冒頭で書かれた祝言島の都市伝説や2006年の殺人事件と、どう結び付いていくのかと読み始めると、母はあっけなく帰還で最初から肩すかし。
 結局、物語は皐月が帰ってきた母から紹介されたアルバイト先の映像製作会社でのテープチェックをする中で見たテレビ番組での2006年の連続殺人事件のことがメインとなります。
 とにかく、話が複雑です。殺人事件のことだけでなく、「祝言島」がいつの間にか都市伝説の島とされ存在がなかったこととされたのはなぜかとか、都市伝説と化した「祝言島」を撮影したドキュメンタリー映画が存在し、それはいわゆる「スナッフフィルム」であるという噂の真相は本当なのか等々、話がいろいろありすぎて頭がついていきません。
 その上、登場人物も多いので、読み進みながら何度も最初に掲載されている登場人物一覧のページに戻って再確認しなければなりませんでした。ネタバレになるので詳細は語れませんが、読み終わった後に再度自分なりに、あの人がこうで、この人がああでと整理してようやく話の全体図がわかりました。いやぁ~わかりにくいです。
 ストーリーは真梨さんらしいイヤミスに仕上がっており、読後感はまったくよくありません。
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ご用命とあらば、ゆりかごから墓場まで  幻冬舎 
 8編が収録された連作短編集です。
 冒頭に置かれた「外商」の説明と「タニマチ」を読んだときには、いつものイヤミスとは異なる老舗百貨店の外商を舞台にしたお仕事小説かと思ったのですが、やっぱり真柴さんがそんなストレートな話ですませるわけがありません。次の「トイチ」と「インゴ」では、派遣会社から万両百貨店の食品売り場に派遣される売り子を描くという変化球を投げておいて、その次の「イッピン」から外商で働く者を描きながら、いつもの真柴さんのイヤミス感が次第に出てくる作品構成となっています。
 中心となる登場人物は、外商部員である大塚佐恵子、森本歌穂、小日向淑子、そして唯一の男性の根津剛平ですが、加えて売り子の派遣会社の社長や派遣された店員など登場人物が多いので、ちょっと読みにくいところもあるかもしれません。
 また、他店の外商や伝説の外商と呼ばれる老女も話の中で登場し、お客の言うことにはノーと言わないという外商の仕事が、よりいっそうクローズアップされ、最後の「マネキン」と「コドク」で、これぞいつもの真柴作品というラストで締めくくられます。
 連作とはいえ、8編はそれぞれが完結していますが、その中で「ゾンビ」がミステリ的な要素を含んだあっと言わせる作品となっていて、一番おもしろいです。 
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向こう側の、ヨーコ  光文社 
 A面、B面と二つに分かれた話が交互に描かれます。どちらの話にも陽子という主人公がいますが、A面の陽子は作家、B面の陽子はパート勤めの主婦。そして二人の陽子の周囲には裕子、真由美、久美子、純子という女性たちがいます。その5人の名前は彼女らが生まれた1974年生まれの女の子の名前ランキング1番から5番までの名前。物語は、A面の陽子たちが女子会ランチをしていたときに、欠席していた裕子が切断された遺体として発見されたというニュースが入ることから始まります。
 いやぁ~真梨さんに騙されました。ここはネタバレになりますが、A面の陽子が中学生の頃、朝礼の三分間スピーチで話した「向こう側の、ヨーコ」という話にものの見事にミスリーディングさせられます。
 A面になったり、突然B面になったりで、わかりにくい部分もあって、前に戻ってストーリーの流れを再確認しなければならなかったのですが、これも真梨さんの作戦だったのかもしれません。結末は、やっぱりイヤミスの真梨さんらしい救いようのないラストです。
 最後に主な登場人物の紹介が掲載されていましたが、これは真梨さんの親切ということでしょうか。ここで改めて頭の中が整理できました。 
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初恋さがし  新潮社 
 物語の舞台となるのは、山之内光子が所長を務める「ミツコ調査事務所」。スタッフが全員女性で依頼された身元調査をするのが主な業務の、いわゆる興信所です。物語は、この事務所に持ち込まれる依頼を描く7編が収録された連作短編集です。1話1話が真梨さんらしく、これで終わりかと思ったらもうひとひねりがあるという一筋縄ではいかないストーリー展開になっており、更には連作短編集らしく、全体を通してある事実が明らかになるという構成にもなっています。
 冒頭の「エンゼル様」ではガンで余命短い女性による長い間会っていなかった友人探しの依頼、「トムクラブ」では自分が売却したマンションの買主が犯罪者らしいので調べてほしいという依頼、「サークルクラッシャー」では別れた恋人との間に生まれた子どもを認知するために、恋人だった女性を探して欲しいという依頼に応えますが、どれもラストはダークな展開へとなります。そして、「エンサイクロペディア」では自分の未来をネットに書き込んでいる人物がいると訴えてきた女性の話から、そこまでは脇役だった光子が表舞台に登場し、それ以降、ストーリーは予想外の結末へと向かいます。
 「初恋さがし」という題名から、初恋の相手を探すことによって様々な物語が繰り広げられる作品かと思いましたが、冒頭の話も初恋さがしではなく、次の話で初恋さがしの企画は評判を呼び、事務所は盛況だったが、ストーカーの問題もあり“初恋さがし”の看板は下ろしたとあるので、「あれあれ、予想外の展開だなあ。」というのが読み始めての印象でした。更に読み進めると、途中で主人公ともいうべき山之内光子が退場してしまうのですから、唖然としてしまいました。
 最後の「センセイ」ですべてが明らかとなります。“初恋さがし”という言葉がもたらす甘ったるいイメージとはかけ離れた、やはりイヤミスの真梨幸子さんらしい読後感最悪の作品でした。 
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三匹の子豚  講談社 
(ネタバレあり)
 このところ干されていた脚本家の斉川亜樹だったが、アメリカのネット配信ドラマに採用された脚本がアメリカで有名な賞にノミネートされたことにより注目され、更にその脚本が日本でも朝ドラで「三匹の子豚」として製作されたことで、再び脚光を浴びることになる。そんな亜樹のもとに、武蔵野市役所から、会ったこともない叔母の赤松三代子なる人物の扶養が可能かどうかという照会の文書が届く。それを放置していた亜樹だったが、「NPO法人 ありがとうの里」の菊村藍子という女性から赤松美代子のことで会って話がしたいという電話が入る。言葉巧みな藍子に仕方なく会う約束をした亜樹だったのだが・・・。
 物語は、亜樹の一族を巡る話と祖母が何者かによって首を絞められ、病院に運び込まれた那津貴(どうして名字が出てこないだろうと思ったら、出すとネタバレになるからなんですね。)を巡る話が語られていきます。この二つの話の関連が明らかになることによって、事件の様相がわかってくるのですが、ミステリとしてありがちなあるトリックが仕掛けられており、注意しないと作者に翻弄されます。
 302ページに掲載されている家系図を見ると、いくら性に奔放な男でも、ここまでやるかというほどの乱れよう。更に、ここに描かれていない関係が事件の動機に繋がっていくというのですから、いくら何でもあまりに都合がよすぎです。結局、回想の中でしか登場しなかった人がこの遠大な計画を立てた人だとはねえ。 
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聖女か悪女  小学館 
 イヤミスの書き手の真梨さんだと分かって読んだのですが、それでも嫌なものを読んでしまったなあというのが正直な感想です。
 カリスマブロガーの月村樹里亜が結婚式のパーティーで倒れ、意識不明となって病院に運び込まれる。そこにテレビで有名な心理カウンセラーの麻乃紀和が見舞いに訪れる。実は紀和は息子を陥れ自殺に追い込んだ樹里亜へ復讐しようとしていたが、樹里亜の母親に追い出される。そんな折、四谷の高層マンションの一室で8人の女性の惨殺死体が発見されるが、犯人と思われたマンションの管理人はマンションから飛び降り自殺をしてしまう。一方、紀和は樹里亜の身辺を探る過程で、彼女が17年前に起きたモンキャット事件―8人の少女が六本木のマンションに監禁され、被害者の少女たちはみな死亡しているか行方不明とされている事件―の被害者のひとりであったことを知り、四谷のマンションの事件がこの事件に類似していることに気づく。そこで浮かび上がってきた不審な人物は“オザワ”を名乗る女性・・・
 巻末の参考文献にマルキ・ド・サドの「美徳の不幸」や「悪徳の栄え」が挙げられているように、それらの作品のオマージュとのことのようですが、そもそも読んだことがないので、そう言われてもなあという感じです。とにかく、登場人物は多いうえに、視点人物があっちにいったりこっちにいったりで、更に物語は錯綜し、幼女趣味やグロシーンも登場。これは参ったなあと思いながらどうにか読了しました。結局題名の「聖女か悪女」とは誰のこと、あるいは何のことを言っているのかも理解できませんでした。「悪女」はともかく、「聖女」っていたの? 
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フシギ  角川書店 
 前作「聖女か悪女」と比べると、イヤミス感はそれほどありません。これは読み易くていっき読みできました。
 作家の“私”のもとに今まで付き合いのなかった出版社“ヨドバシ書店”から会いたいとの連絡が入る。編集者である尾上まひるから話されたのは、“私”が学生時代に住んでいた八王子のマンションⅯの一室のこと。尾上は学生時代に“私”と同じ部屋に住み、そこで奇怪な出来事に出会ったという。やがて、その部屋を調べに行った尾上が部屋の窓から転落して亡くなったという連絡が出版社から“私”に入る・・・。
 冒頭、こんな話から始まる本作は、作家の“私”を語り手にして、犬神や生霊、人毛醤油などの不思議な出来事が語られていきます。そして、恐ろしいのは冒頭の作品で死んだはずの尾上から、“私”にメールが届くということ。更にそのメールに「三人目の女が、先生のところに現れませんように」と書いてあったこと。果たして、「三人目の女」とは何なのか。
 ある大きな読者への騙しが最後に明かされますが、見事に真梨さんにやられましたねえ。完全に騙されました。読了後にページを戻ってみると、そういえばこれはおかしいなあと今更ながら気づきましたが、読んでいる時には素通りでした。 
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さっちゃんは、なぜ死んだのか?  講談社 
 冒頭、小説家の私の元に、叔父から叔母の「さっちゃん」が死んだという連絡が入るところから物語が始まります。
 57歳のホームレスだった公賀沙知という女性が公園で頭を殴られて殺害される。沙知が毎日立ち寄って紅茶1杯で半日はねばっているカフェでバイトをしている関口祐子は、自分が通うマッサージ店のマッサージ師が沙知の温泉旅館の中居だった頃の仲間であったこと、さらにはひょんなことから自分の住むアパートの部屋にかつて沙知が住んでいたことを知る。不動産屋を通してアパートの元大家から沙知が熱海にいたことを聞いた祐子は「私、なにやってんだ」と思いながらも熱海に沙知の足跡を辿りに行き、そこで沙知が「さっちゃん」と呼ばれていたことを聞く・・・。
 第2章では関口祐子を語り手に、彼女によって今はホームレスの公賀沙知の過去が次第に明らかとされていきます。第3章では沙知の娘・つぐみが訪ねた沙知の熱海時代の同僚であり、今では新興宗教に生きる香川順子、第4章ではかつて沙知が働いていた広告代理店の契約社員・柴田朱美、第5章では事件を追う新聞記者の高崎千佳子の口を通して沙知という女性の姿が語られていきます。
 ところが、一転第6章ではパニック障害で仕事を辞めた元新聞記者の板野光昭が保護猫の元の飼い主を探す中で、飼い主が沙知を殺害した犯人・西岡政夫であることを知り、記者の「性」が目覚めて事件のことを調べ始めます。板野が調べたのは犯人の西岡側から。これにより、事件の新たな面が現れてきます。そして事件が解決したと思ったら、読者は作者に見事にミスリードされてきたことに気づきます。そのために冒頭のイントロダクションがあったんですね。 
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4月1日のマイホーム  実業之日本社 
 「6月31日の同窓会」に続く“日付シリーズ”第2弾だそうです。
 かつて大量殺人事件があったと噂される往年のスター女優の邸宅であった家が取り壊され、建売分譲地として売りに出される。物語はこの分譲地に引っ越してきた家族を語り手にして、驚きのストーリーが展開していきます。
最初は引っ越しの挨拶品を巡って、C区画に引っ越してきた米本家が、1万円以上もするエルメスの付箋を配ったことから、千円程度のものでいいと考えていた他の家の人たちのドタバタぶりを描きますが、やがて異臭騒ぎやお金持ちであるはずの米本家の息子のごみ箱あさり、更にはE区画の家での死体発見など、ストーリーは不穏な方向に向かっていきます。
 冒頭に女優の賃貸物件で大量殺人があったという噂があるというSNSの投稿を載せて、読者にここは呪いの場所なのか、更には、サィコパスな殺人者がいるのか、はたまた悪徳政治家の企みかと想像させておいて、最終的には、見栄張りの引越挨拶品騒ぎがなければ、ここまでの事件にはならなかったのにと、高いところから落とされた感じです。 
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