ぼくらは回収しない | 東京創元社 |
5編が収録された短編集です。 テレビの街頭インタビューに応えたクラスメートの藤原さんの姉の言動がネットで炎上する。周囲からその観察眼が名物となっていた伊達は藤原さんに頼まれて炎上した理由を探っていくと、街頭インタビューの動画に意図的に順序の変更があったことに気づく。姉に加えられていた批判が的外れのものであったことが明らかになり、一件落着かと思われたが、話はこれにとどまらず、もう一つのある事実を浮かび上がらせる。藤原さんの観察眼も伊達に引けを取りません(「街頭インタビュー」)。 お笑いの大会で優勝した升岡のお祝いに集まった事務所の仲間たち。お祝いの最中、席を外した升岡が路上に倒れて死んでいるのが見つかる。ベランダでタバコを吸っているときに何者かによって落とされたらしいことがわかる。容疑者はお祝いに参加していた6人。先輩芸人のビッグ杉下は、升岡がタバコに火をつけるものを持っていなかったこと、死体の近くで車に轢かれたらしいカエルの死骸があったことなどから、ある人物を犯人として指摘する。この作品は、カエルの色によって犯行時間を推理する点が面白く、また、なぜ犯行に至ったのかの動機が明らかになったと思ったら実は本当の動機は別にあったという驚きがあります(「カエル殺し」)。 祖父が亡くなり祖父の家に片付けに行った啓は以前本棚がいっばいだったのに、祖父が本を買い足しているにも関わらず、本棚からはみ出た本がないことに気づく。買い足した本はいったいどこに消えたのか。その謎を解き明かすことにより、祖父が亡くなる前に啓に発した言葉が理解できるようになる。祖父に近い年齢の私としてはここで語られる空間と時間のことはよくわかります(「追想の家」)。 サッカー部の部室からボールやビぐスが紛失する。窓ガラスが割れていたため、犯人はここから侵入したと思われた。サッカー部の一ノ瀬は以前見事な推理で自分の窮地を救ってくれた速水に犯人探しを依頼する。落としどころは、人とうまく関わることのできないクラスメートとの友情の話です(「速水士郎を追いかけて」)。 大学生ながら既に小説家としてデビューしていた吉田遥香が学生寮の物置で一酸化炭素中毒で死亡する。物置は中からドアに目張りがしてあり、七輪で練炭を焚いていた形跡が発見されたため、自殺と思われたが、圭介は吉田さんの性格から自殺はあり得ないと事件を推理する。米澤穂信さんら選考委員が賞賛し、第19回ミステリーズ!新人賞を受賞した作品ですが、吉田さんが物置に入って目張りをする理由の説明を頭の中で素直に思い描くことができず、納得できなかったので、個人的にはいまひとつ(「ルナティック・レトリーバー」)。 どれもが解決の後にもうひとひねりがあるのが特徴の作品集でした。個人的に一番印象深かったのは冒頭の「街頭インタビュー」です。謎解きの後に伊達や藤原さんの周りの景色が反転します。 |
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