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万城目学の本棚

  1. 鹿男あをによし
  2. 鴨川ホルモー
  3. ホルモー六景
  4. プリンセス・トヨトミ
  5. かのこちゃんとマドレーヌ夫人
  6. 偉大なる、しゅららぼん
  7. とっぴんぱらりの風太郎
  8. バベル九朔
  9. パーマネント神喜劇
  10. ヒトコブラクダ層ぜっと 上・下
  11. あの子とQ
  12. 八月の御所グラウンド
  13. 六月のぶりぶりぎっちょう

鹿男あをによし  ☆ 幻冬舎
 昨年第4回ボイルドエッグス新人賞受賞作品「鴨川ホルモー」が大絶賛された万城目(マキメと読むそうです。)学さんのデビュー第2作です。
 「鴨川ホルモー」は読んでいなかったのですが、帯を見ると女子高に赴任する先生の話らしい、これは青春ものだなっと思って(青春ものには弱いのです。)手に取りました。ところがいい意味で裏切られましたね。確かに最初は、生徒と上手くいかなくて悩む主人公を描いていました。ところが神無月となって(ここがミソです。)、突然鹿が人間の言葉を話し始めたところから話はおかしな方向へ・・・。鹿が話すし、人間が鹿へと変身を始めてしまう(これを鹿化と言うそうです。)など、一歩間違えば“トンデモ本”になってしまいそうな破天荒な話へとなっていくのですが、不思議とぐいぐい引き込まれてページを繰る手が止まりませんでした。最初の“おれ”と堀田との出会いのときの“マイシカ”論争から、もうすっかり物語に嵌ってしまいました。とにかく、おもしろい。

 主人公の“おれ”は、鹿から、日本を救うために“サンカク”と呼ばれる神の宝を鹿のもとに持ってくる使命を与えられます。その“サンカク”が姉妹校三校のスポーツ対抗戦で剣道部が優勝した際授与されるプレートだと知った“おれ”は剣道部の顧問として優勝を目指しますが、部員は三人だけ。そこに“おれ”を嫌っている堀田という女生徒が入部をしてきて・・・

 少人数の部員で他校の強豪相手に優勝を目指すところは、青春ものの雰囲気もたっぷりあって、対抗戦の部分では思わず手に汗握ってしまう感じです。このあたり、わくわくドキドキで青春もの好きの僕としては堪能しました。
 ラストは顔が赤くなるようなベタな終わり方ですが、これがまたいいんですよね。オススメです。
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鴨川ホルモー  ☆ 産業編集センター
 第4回ボイルドエッグス新人賞受賞作品で「産業編集センター」という僕からすればマイナーな出版社から発売されたのにもかかわらず、多くの書評家から絶賛された作品です。発売当時、不思議な題名でなんだこの作品はと思いながら手に取ったことはあったのですが、“ホルモー”を“ホルモン焼き”か“男同士が仲がよくなること(でも、あれってルはなかったでしたね(^^;)”かと思い込んで棚に戻した覚えがあります。まさかこんなに売れるとは思いもしませんでした。 第2作の「鹿男あをによし」があまりにおもしろかったので、これはデビュー作を読まなくてはと、「鹿男あをによし」を読了して直ぐ購入してきました。

 二浪して京都大学に入学した安部は、今さらサークル活動をしようとも思わず、タダ酒を飲むためだけに出た「京大青竜会」という得体の知れないサークルのコンパで、同じ新入生の早良京子の鼻に一目惚れしてしまい、「京大青竜会」に入ってしまう。しかし、「京大青竜会」の本当の活動は、“ホルモー”を戦うことにあった。

 これまた破天荒な物語です。京都大学、立命館大学、京都産業大学、そして龍谷大学の学生たちが「オニ」を使って戦いをするというのですから。とにかく、ハチャメチャで、読んでいて思わず笑いが込み上げてきてしまいます。オニの“使い人”としてオニたちに認めてもらうために全裸でレナウンのCMソングで踊るところは、最高です。
 主人公の安部の周囲のキャラクターがいいですねえ。帰国子女で、ある事件がきっかけでチョンマゲを結い始めた高村のキャラは際だっています。そしてもう一人。容貌が大木凡人に似ていることから高村に“凡ちゃん”と名付けられた楠木ふみ。彼女のそっけなさが実は・・・というところがミソです。この主人公安部、高村、楠木を巡る物語は、“ホルモー”なんていうものを題材にしていますが、青春物語そのものですね。特にラストの戦いに至る過程は“これが青春だ”と言いたくなる感じです。あまりに荒唐無稽な物語であるのに、ここまで惹きつけられたのは、友情や恋(そして失恋)といった青春時代そのものの中にいる彼らが生き生きと描かれていたせいかもしれません。
 「鹿男あをによし」同様、最高におもしろかったです。オススメです。
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ホルモー六景  ☆ 角川書店
 「鴨川ホルモー」の続編、6編からなる短編集です。これは、オススメです。「鴨川ホルモー」は京都大学に入学した安部がホルモーなる奇想天外な競技に巻き込まれていく様子を描いたものですが、今回はホルモーそのものの競技とは関係なく、ホルモーに関わる様々な人物たちの人間模様を描いていきます。

 第1景の「鴨川(小)ホルモー」は、二人静と呼ばれる京都産業大学の恋に縁のない彰子と定子の仲のいい二人の女の子の話。定子に恋する男ができたことから、ホルモーを行うことに。これは、最後がホルモーらしいよかったと思わせておいて、ひっくり返すお話。かわいそうで笑ってしまうラスト。そのうえ、この二人のホルモーの結果があとの第4景で生きてくるというのだから、万城さんうまい!
 第2景の「ローマ風の休日」は、ご存じ京大青竜会のメンバー楠木ふみさんの話。といっても、彼女が主人公ではなく、語り手は高校生の男。彼がアルバイトをしているイタリア料理店にふみさんがアルバイトとして入ってきます。「鴨川ホルモー」の中に、夏休みにふみさんがイタリア料理店でアルバイトをしているという記述がありますが、この物語は、「鴨川ホルモー」では語られなかったそのときのふみさんの様子が描かれます。コミュニケーションが苦手なふみさんがどんな風にアルバイトをしていたのか興味津々でしたが、やはりふみさんらしい。ここではふみさんの恋心など普通の女の子らしい様子が見られます。
 第3景の「もっちゃん」はこの短編集の中で一番好きな話です。電車の中で会った女子学生に恋した男の話です。一念発起してラブレターを書きますが・・・。ホルモーとはまったく関係のない話でしたが、「檸檬」を読んでみたくなりますね。とっても素敵な作品です。途中から、あれれと読者をビックリさせる仕掛けもあります。ここにも第4景と関係ある話がちょっと出てきて楽しい。ラスト、安部が歌おうとしたさだまさしの「檸檬」は、みんなが「うわ」と引くほどの歌なのかなあ。僕にとっても、大学生時代、お茶の水の聖橋辺りを歩いたときの思い出の歌なんですが。
 第4景「同志社大学黄竜陣」は、京大青竜会の一員、嫌なやつだった芦屋満の元カノが主人公。今現在、京大、立命館大、京産大、龍谷大で行われているホルモーにかつては同志社大も参加していた?という話。相変わらず芦屋の嫌なところ満載。
 第5景の「丸の内サミット」は、ホルモーが京都だけではなく、東京にも?という話。龍谷大学だけがなぜ「フェニックス」というカタカナ名なのかが明らかにされます。
 第6景の「長持の恋」は、SFファンタジーの趣のある作品。これも「もっちゃん」と並んで好きな作品です。アルバイト先の旅館の蔵の中にあった長持ちの中の木片を手紙代わりに過去の人物と文通をすることとなった立命館大学白虎隊の細川さん。過去の人物に危険を知らせるが・・・。この結末は、話としてはよくあるパターンですが、いいですね。せつない話でしたが、ラストの1行にグッときてしまいました。
 ちなみに、「長持の恋」に出てくる料理旅館の「狐のは」は、「鹿男あをによし」で、校長のお姉さんが女将をやっている旅館ということで登場しています。
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プリンセス・トヨトミ   文藝春秋
(ちょっとネタバレ)
 前作までのように鬼も出てこないし、シカも話さない、普通の人間だけの話です。しかし、これがまた破天荒なドラマになっていて、大いに楽しませてくれました。
 今回の舞台となるのは、京都、奈良に続いてやはり関西の大阪です。主人公は3人の会計検査院の検査官と大阪の中学校に通う女の子と男の子。
 3人の検査官のキャラがあまりに個性的です。国家公務員採用Ⅰ種試験をトップで合格しながら、普通だったら大蔵省や通産省に入るところを、なぜか会計検査院に入った松平元、フランス人とのハーフでスタイル抜群、抜きんでた美人の上に頭も切れる女優のような名前の旭・ゲーンズブール、見た感じは短躯小太りの中学生だが、検査に際し特異な能力を持っている鳥居。彼ら3人のこのキャラだけでこの先おもしろくなりそうだと思わせる出だしです。
 一方、中学生も負けていません。幼い頃から女の子になりた<て、ついにセーラー服を着て登校することを決意した真田大輔という真面目ではあるけれど想像すると笑いたくなってしまう男の子と幼い頃からそんな彼を守っている橋場茶子という女の子が登場します。
 「プリンセス・トヨトミ」という題名からわかるように、江戸時代前から大阪の町に運綿と続いているある事実が会計検査院の3人の検査官の行動によつて表面へと浮かび上がってきます。そしてついには会計検査院、そしてその後ろにいる日本という国と大阪との戦いが始まります。
 「ホルモー」も「鹿男」もそうですが、万城目さん、どうしてこんな不思議な物語を考えることができるんでしょうか。現実としては、絶対にこのような事態になることはあり得ないのですが、読んでいるうちにすっかり物語の中にのめり込んでしまうおもしろさです。会計検査院が行う会計検査と女の子になりたい男子中学生というまったく関係のない話から、こんな荒唐無稽な話を組み立ててしまうのですから、びっくりです。
 大阪の男の話と思ったら、実は大阪の女の話でもあったこの作品。さて、大阪の人がこの小説をどう読むのか興味のあるところです。
※前作「鹿男、あをによし」の大阪女学館の南場先生も顔を出しているところは、万城目ファンにとっては嬉しいですね。
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かのこちゃんとマドレーヌ夫人 ちくまプリマー新書
 小学校へ入学した“かのこちやん"と彼女の家に住む猫の“マドレーヌ婦人"の物語です。最初にサラッと語られるのは、かのこちゃんの父親のエピソード。鹿と話ができる父親となれば、「鹿男あをによし」の主人公の先生を思い浮かべてしまうのは僕だけではないのでは。万城目ファンとしては、ちょっと嬉しい話ですね。
 物語は、かのこちゃんの小学校生活、特にクラスメートのすずちやんとの交流が微笑ましく描かれます。それと平行して犬の言葉を解するマドレーヌ婦人とかのこちゃんの家の老犬“玄三郎"との種を超えた愛情物語もあります。今までの「鴨川ホルモー」を始めとする関西三部作(勝手に名付けています)ほどのインパクトはありませんが、万城目さんらしい不可思議な変身譚もあり、子どもから大人まで楽しめる作品となっています。こんな娘がいたなら楽しいだろうなと思わせる素敵なかのこちゃんでした。
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偉大なる、しゅららぼん   集英社
 「鴨川ホルモー」ではオニが登場してホルモーなる戦いを、「鹿男あをによし」では、言葉を話す鹿と“鹿化“する男を、「プリンセス・トヨトミ」では、日本国と大阪との戦いを描くなど、とにかく荒唐無稽な作品をものしてきた万城目さんですが、今回は不思議な力を代々受け継いできた少年に起こる思わぬ出来事を描きます。これまた期待に違わぬ万城目さんらしい作品です。これまでの万城目ワールドを楽しむことができた人なら、この作品もページを繰る手がきっと止まりません。
 琵琶湖の西岸の町“石走”では、遥か昔から、他人の心に入り込み相手の精神を操る力を持つ日出家と、他人の心に入り込み相手の肉体を操る力を持つ棗家という二つの一族が反目していた。力の修行のために日出本家にやってきた主人公の日出涼介は、同じ歳の本家の跡取り、淡十郎と石走高校に入学するが、同じクラスには棗家の跡取りの棗広海がいた。さらには、かつてのその土地の領主の子孫の校長と彼の娘であり、クラスメートとなった速瀬を巻き込んでのとんでもない事件が起こる・・・。
 登場人物のキャラクターを思い浮かべるだけで楽しい作品です。主人公の涼介は、一族に伝わる力を嫌い、なくなればいいと思っている、作品中では一番まともな人物。淡十郎は、赤が好きだからという理由で赤い詰襟服で学校に通い、自分がどう思われようと関係ないというナチュラルボーンの殿様、ただし、デブと言われると変貌する本家の跡取り。そして、白い馬に乗り城内を散歩する引き籠もりの淡十郎の姉・グレート清子こと清子。パタパタと歩きまわることからパタ子さんとあだ名された濤子さん。これらのユニークなキャラたちが万城目さんのほら話の中で縦横無尽に活躍します。
 ミステリっぽい展開もあり、おもしろくて、夜を徹して読んでしまいました。贅沢を言えば二つ。一つは、ラストに意外な人物の意外な正体にはびっくりさせられたのですが、結局“しゅららぼん”の偉大さがいまひとつわからなかったということ。当然、“しゅららぼん”で終わるのかと思ったのですが(“しゅららぼん”が何を意味するのかは読んでのお楽しみです。)。
 もう一つは、冒頭で描かれた涼介の兄、浩介の活躍がなかったことです。清子の同級生ですし、能力も涼介を遥かに凌ぐのですから涼介たちを助けるために姿を現してもよかったのに。
 青春ものらしい終わり方も大好きです。ドアを開けて入ってくるのは・・・もちろん・・・。
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とっぴんぱらりの風太郎  ☆ 文藝春秋
 「鴨川ホルモー」では鬼たちが戦い、「鹿男あをによし」では鹿がしゃべり、「プリンセストヨトミ」では、豊臣家の末裔を担いで大阪が独立を謀るといった、突拍子もない設定で楽しませてくれる万城目さんの新作は、忍者が主人公の物語です。
 これまでの突拍子もない設定が前面に出ていた万城目作品と違って、今回はストレートな物語です(この物語の端緒となる不思議なひょうたんは出てきたりはしますが)。
 戦国時代が終わって豊臣の世から徳川へと時代が移ろうとしている時代。殿様の不興を買って伊賀の里から追放された忍者の風太郎。京都へと出てきたが、まともな定職に就けず、今で言うニートの生活を送っていた。そんな風太郎が1個の不思議なひょうたんと出会った(?)ことから、彼の運命は思わぬ方向に転がり始める。
 商売人としての才を持ち、風太郎と違ってしっかり商売をして儲けているマカオ出身の忍者・黒弓や大阪城の奥に仕える風太郎と同じ柘植屋敷で修行をした美貌の忍者・常世、柘植屋敷が火災になったとき、風太郎とともに生き残った百市、風太郎と犬猿の仲の泥鰌髭の蝉、ひょうたん屋の芥下など風太郎の周囲の者も、それぞれが重い現実を背負っていることが次第にわかってきます。
 そのほか、風太郎が戦うこととなる凄腕のかぶき者・残菊や秀吉の妻・ねね(高台院)、さらには高台院が風太郎に祇園会のお供を頼んだひさご様など、個性的なキャラが次々と登場して、目が離せません。
 戦の中で、命を失う者もあり、そして自分の命を守るために子どもでさえ手にかけてしまうという現実もあり、忍者としての運命に苦悩する風太郎。ラストは大阪夏の陣。果たして風太郎の運命はどうなるのかとページを繰る手が止まりません。ラスト近くでお馴染みの名前が登場してきますが、あれはどういうことなのか、大いに気になります。万城目さんの作品の中で個人的には1、2位を争う作品です。 700ページ以上の大部ですが、飽きさせません。おすすめです。

※「とっぴんぱらりのぷぅ」という言葉は、民話では「これでおしまい」とか「めでたしめでたし」という話の終わりに使われるそうですが、関係あるのでしょうか。
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バベル九朔  角川書店 
  「とっぴんぱらりの風太郎」から2年半、久しぶりの万城目さんの長編作品です。
 物語は、高いビルと線路の高架に挟まれて日当たりも悪いビルとなっている“バベル”と名付けられた賃貸ビルを舞台に、ビルの亡持主の孫で、会社を辞めてバベルの管理人をしながら作家を目指している27歳の九朔に起こった摩訶不思議な出来事を描いていきます。
 ある日、ビルの店舗に泥棒が入る。警察から容疑者として見せられた写真には、盗難が起こった日の三日前に九朔がビルの階段ですれ違ったサングラスをかけた黒づくめの“カラス女”が写っていた。その女が再び九朔の前に現れたときから、九朔は想像もできない世界の中に突き落とされていく・・・。
 万城目さんは、大学を出て就いた仕事を2年で辞めてから「プリンセス・トヨトミ」の連載を始めるまで雑居ビルの管理人をしていたそうです。それからすると、この作品は「自伝的小説」かと思いきや、万城目さんがそんなストレートな作品を書くわけがありません。主人公のみならず、読者も振り回す万城目ワールド全開の摩訶不思議なストーリーが展開されます。
 “バベル”といえば思い浮かぶのは、旧約聖書の「創世記」中に登場する(らしいです。)“バベルの塔”。あれは天にも届く塔を建てようとした神をも恐れぬ人間に対し、神が罰を与えたのですが、主人公の九朔もカラス女に追われて5階建てのビルだったはずの“バベル”がなぜか塔のように高層階になった世界に迷い込みます。全身黒ずくめでサングラスの下の目がカラスの目玉の女というのは怖すぎです。
 果たして、九朔が陥った世界は何なのか。“カラス女”はいったいどういう存在なのか。九朔が迷い込んだ世界に九朔同様読者も翻弄されます。老化で機能がだいぶ低下した頭では、この世界が何なのか理解不能です。まあ、主人公の九朔自身が自分が陥った事態を理解していないのに、読者がわかるはずがありませんが。ラストは結局どういうことだったのか。九朔は元いた世界に戻れるのか。そもそも万城目作品にはっきりとした答えを求めてはいけないのかもしれませんが、消化不良です。誰か明確な答えを示して欲しい!
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パーマネント神喜劇   ☆ 新潮社 
 神様というのも大変なようです。この作品に登場する神様は神様の階級でいうとかなりの下の段階にいる縁結びの神様で、厳しいノルマも課されるし、期末には収支報告書を求められ(縁結びに収支なんてあるのでしょうか?)、果ては別の神社の神様の手伝いにも駆り出されるという、人間社会と同様下っ端の立場は辛いです。そんな神様の仕事ぶりを描く4編が収録された連作短編集です。
 物語は奇抜な柄のシャツを着た太った縁結びの神様とスーツ姿に眼鏡の真面目そうなオブザーバーの神様の会話で進みますが、実際には一人芝居のように縁結びの神様だけが相手の話した言葉を繰り返すという形になっています。
 冒頭の「はじめの一歩」は、交際を始めて5年が経つ同期入社のカップルの話です。男性は「まず、はじめに」が口癖の一歩一歩慎重に段階を踏まないと先に進めない性格の男。縁結びの神様は、彼から「まず、はじめに」という言葉を奪います。なぜ、縁結びの神がこんなことを?  
  「当たり屋」は、縁結びの神様がストックしておいた言霊の源が何者かによって持ち去られ、それが打ち込まれた当たり屋の話です。それ以降当たり屋は何をやってもつき始め、競馬場で当たり馬券を買いますが・・・。
  「トシ&シュン」は、他の神社の学問の神様の手伝いに行った縁結びの神様の話です。学問ではなく芸能の方を見てくれと言われた縁結びの神様は、作家志望の男性と女優志望の女性のカップルにあることをします。題名の「トシ&シュン」が二人の名前からだけではなく実は「杜子春」をもじっているらしく、「杜子春」のストーリーを元にした話となっていますが、そこは万城目さんですから、単になぞっているわけではありません。
 ラストの表題作では地震によって神社が倒壊、神木も倒れて、神様が絶体絶命のピンチに陥ります。神様の命は風前の灯火。果たして神様はどうなるのか(神様に命という概念はあるのかとも思いますが。)というストーリーです。
 神様があまりに人間らしく、サラリーマンのように自分の人生の悲哀を嘆くところに思わず笑ってしまいます。これまでの万城目作品に登場したビルや主人公の女の子も顔を出しているのがファンには嬉しいところ。
 装丁も洒落ています。 
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ヒトコブラクダ層ぜっと  ☆  幻冬舎 
  榎戸梵天、梵地、梵人は三つ子の兄弟。3歳の時に隕石が家に落下し、両親が死去し、伯父に引き取られたが、中学卒業後は梵天が働いて2人の弟を学校にやっていた。彼ら3人はそれぞれ不思議な特殊能力を持っていた。3秒という制限はあるものの、梵天は意識を飛ばして遮蔽物の向こう側を透視でき、梵地はどんな言語でも聞き取ることができ、梵人は未来を予知できるというもの。彼らはこの特殊能力を使い、泥棒をしていたが、ある日彼らの前に現れたライオンを連れた女性から彼らのしてきたことを明らかにされたくなければ言うことを聞くように脅される。彼女によってなぜか自衛隊に入隊させられた3人はやがてPKOでイラクに派遣される。更には拉致されるような形で“ヒトコブラクダ層”探しの旅に行かされることになる・・・・・。
 題名からはいったいどういう話なのかまったく想像もつきませんでした。読み進めていくと、SFであり、ファンタジーであり、冒険小説であって、そして何といっても“奇想天外”ということばがふさわしい作品でした。それぞれ異なる不思議な能力を持った三つ子が、正体不明の女性によって自衛隊に入隊させられたばかりかあれよあれよという間にイラクに派兵され、挙句の果てはメソポタミア文明の世界の中で大立ち回りを演じます。映画の「ハムナプトラ」みたいです。
 三つ子の3人が性格も趣味も異なっていて、それぞれが他にない部分を補い合って、それぞれがキャラ立ちしています。彼らの上官だからといって危険な旅についてきた銀亀のキャラも凛々しくて半面かわいいです。特技が凄いです。
 難しいことは考えることなく、理屈抜きに楽しむ作品です(読む人を選ぶかもしれませんが)。題名にある「ぜっと」が、あれ(ネタバレになるので伏せます。)のことを言っているとは。言われてみれば確かにねえ。
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あの子とQ  ☆  新潮社 
 これまで、人間の言葉を話す鹿や鬼、神様などが登場する破天荒な物語が多い万城目さんですが、今回は“吸血鬼”の登場です。
 嵐野弓子は17歳の誕生日目前の高校2年生の女の子。実は彼女の一族は吸血鬼の一族。人より夜目が利くし、身体能力も少々高いが、ただ、長い歴史の中で日光に対する耐性もあり、人間の血への欲求もなく人間の社会に溶け込んで生活していた。彼らには、17歳の誕生日に「脱・吸血鬼化」の儀式があり、それが終わると、吸血鬼のランクでは松竹梅の“梅”となって、普通の人間と同じように子どもも産むことができ不死ではなくなる。その儀式は17歳の誕生日前の10日間、人間の血を吸うことがなく生活すること。それが達成できたか否かを見るため、監視役として直径60センチほどの、ウニのように長いトゲトゲに全体を覆われた得体の知れぬ物体「Q」が派遣されてくる。儀式の前日、弓子は親友のヨッちゃんに頼まれて彼女が好きな宮藤豪太とその友人の蓮田律人とのダブルデートで海に行く。楽しい一日を過ごした彼らだったが、その帰り道、彼らが乗ったバスに崖から巨岩が落ちてきてバスは崖下に転落してしまう。バスから投げ出され、倒れている宮藤から流れ出る血を見た弓子は欲望に負けて首筋に牙を立ててしまう・・・。
 前半100ページほどまでの事故が起きるまでは、ラブコメあるいは青春小説という感じで親友のヨッちゃんの恋をかなえるために尽力する弓子が描かれます。ところが、事故後、物語は一転、冒険活劇風の物語へ。血を吸ったはずなの宮藤豪太は吸血鬼化しておらず、また、なぜか以前と変わらぬままの弓子は、姿を消したQを探し、その過程で日本初の吸血鬼・佐久や吸血鬼一族の総帥であるブラドに会うなど猪突猛進の行動を見せます。果たして、血を吸ったはずの弓子はなぜ「脱・吸血鬼化」ができたのか、「Q」の正体は何者で、いったいどこへ行ったのか、ミステリ的な謎を抱えながら、弓子の闘いが始まります。後半はワクワクドキドキの展開です。その中でヨッちゃんがいい味出しています。緊迫感の中に彼女の登場でふっと力が抜けます。
 「Q」は「吸血鬼」の「きゅう」。「弓子」の「弓」も「佐久」の「久」も「きゅう」と読むことからすると、「宮藤くん」の「宮」も「きゅう」と読むから、彼も実は吸血鬼一族で、だから弓子は人間の血を吸っていないことになるから「脱・吸血鬼化」できたんだろうと推理したのですけど、これはハズレでした。
 「偉大なる、しゅららぼん」に登場する白馬に乗って庭を散歩する清子さんのことが話の中に出てくるのは、万城目ファンとして嬉しいですね。 続編がありそうで、期待したいです。
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八月の御所グラウンド  ☆  文藝春秋 
 「ホルモー六景」以来、16年ぶりに京都を舞台にした万城目作品です。2編が収録されています。
 「十二月の都大路上下ル」は、毎年12月に京都で行われる全国高校駅伝に出場することになった高校の駅伝部の補欠部員・坂東が主人公。選手である先輩の体調不良のため、急遠駅伝に、それもアンカーとして出場することになった坂東。タスキを受けてスタートした坂東の横の歩道をなぜか誠の旗を持った侍姿の集団が並走する姿を見ながら超絶方向青痴の坂東が左に曲がろうとすると、後方から「右だよ、右!」という声が聞こえてくる。・・。
 歴史ある京都という地らしいファンタジーです。自分より記録の良い同級生が選手に選ばれなかったことを嘆く坂東に対し、同じ区間を走った他校の選手・荒垣が坂東にいう言葉がカッコいいですね。これぞ、青春です。
 表題作の「八月の御所グラウンド」は、金を借りている先輩の多門から借金のカタに早朝の草野球大会「たまひで杯」に出場させられることになった大学生の朽木が主人公。先輩もチームの監督である教授から優勝を条件に卒論の材料をプレゼントされることになっているため必死です。初戦は勝利したものの、次の試合は選手の都合がつかず、やむを得ず相手チームの応援に来ていた同じゼミの野球経験のない中国人留学生のシャオと、近くで見ていた男・え―ちゃんに助っ人を頼む。次の試合では更に選手が足りなくなったが、前回助っ人を頼んだえ―ちゃんが後輩だという二人の男を連れてきており、彼らに助っ人を依頼して試合は勝利する。試合後、朽木はシャオからえ―ちゃんに似たある男の写真を見せられる。・・。
 ネタバレになるのであまり詳細は語れませんが、夏という季節故の話であり、そして8月15日終戦ということが色濃く反映された作品になっています。どういうことかわかると、切なさがこみあげてきます。 
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六月のぶりぶりぎっちょう  ☆  文藝春秋 
 第170回直木賞を受賞した「八月の御所グラウンド」に続く、京都を舞台にした現代と過去が交錯する摩訶不思議な2編の物語が収録されています。
 こんな摩訶不思議なことがなぜ起きるのかなどという野暮なことは今回も描いていません。京都だからそんなこともあるのかもという感じでストーリーは進みます。
 大学入学のために京都にやってきた賢木若菜。京都の大学に通う女子学生たちが住む北白川女子寮マンションとは名ばかりの古い外観の寮に住むことになる。そこでは、住人の女子学生を“女御(にょご)"、部屋を“局(つぼね)"、棟を“壺"という時代錯誤の言い方がされていた。3回生になったとき、若菜はキヨと呼ばれるこの寮に一番長く住むという謎の女子学生と同室になる。そんなある日、若葉はキヨから初めて声を掛けられる。「どうして、書くことをやめたの」・・・「三月の局騒ぎ」。
 キヨはいったい何者なのか。キヨの口から「私ほど、その篇首を知られている者は他に存在しない」という言葉が発せられましたが、正体を知ってみれば「なるほどなぁ」と納得です。“篇首”とはそういうことだったのですね。ラストでこの話が「八月の御所グラウンド」に収録されていた「十二月の都大路上下ル」との繋がりがあったことが明らかにされるのは、前作を読んでいる人には嬉しいです。
 続く表題作である「六月のぶりぶりぎっちょう」は本能寺の変を題材にした作品です。研究大会での発表を行うために京都にやってきた教師の滝川はフランス人教師のソフィーに京都を案内しているとき、道端にいた占い師に会った後意識を失い、気が付くと
そこはホテルの中。突然聞こえた銃声で、向かった先の部屋には男が倒れていた。男は周りからボスと呼ばれ名前は織田らしい。部下たちはそれぞれ、徳川、柴田、羽柴、明智、丹羽という名前だった。いったい、織田を殺したのは誰なのか、そして織田が部ドたちに交換すると言っていた「天下」とは何なのか。本能寺の変を題材にするとあったので、主人公が戦国時代にタイムトラベルするのかと思いましたが、違いました。題名にある“ぶりぶりぎっちょう"とは何なのかは、冒頭に主人公の滝川から説明されますが、果たして、この“ぶりぶりぎっちょう"がこの物語でどんな役目を果たすのか・・・。本能寺の変の登場人物たちのもとで起こる密室殺人に、怪しげなエレベーターボーイにホテルの支配人とホテルマン。 ミステリ的な要素を入れながら、摩訶不思議な万城目ワールドが展開します。個人的には冒頭の「三月の局騒ぎ」の方が面白かったかな。 
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