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舞城王太郎の本棚

  1. 世界は密室でできている。
  2. 煙か土か食い物
  3. みんな元気。
  4. 阿修羅ガール
  5. 熊の場所
  6. 深夜百太郎 入口・出口
  7. 私はあなたの瞳の林檎
  8. 短篇七芒星

世界は密室でできている。 講談社文庫
 初めて読み切った舞城王太郎さんの作品です(買ったのは「みんな元気。」の方が先でしたが、読み始めてすぐ断念。今では積読本になっています。)。
 舞城さんの文章といえば、改行が少なく、一つの文章がやたら長い。そのため、ページに空白があまりありません。今までは、どうもあの文章を見ただけで引いてしまって読まず嫌いになっていました。今回、文庫化に際し、サイトでも絶賛(「銀河通信オンライン」の安田ママさんをはじめ多数)されている舞城さんを今度こそ読もうと挑戦しました。ページ数も少なかったことが、その気にさせた一因でもありましたが。
 とにかく、最初はあの独特な文体に圧倒されたのですが、意外にスラスラと読み進めることができました。しかしながら、物語にはぶっ飛びましたね(こんな表現が適当です)。不倫相手を病院送りにするほどの暴力的な女、妊婦の腹を切り裂いて胎児を取り出す人物、未解決事件を端から解決する主人公の同級生(これがルンババ12という変なニックネームの名探偵)等々と、個性的なというより人格壊れているんじゃないかと思われる人物たちが登場します(ネタばれになるので、詳しくは言えませんが)。
 作品中では密室殺人事件、それもかなり奇妙な密室殺人事件が起こり、それをルンババが鮮やかに解決していきますが、明らかになる事実には唖然としてしまいます。本格ミステリとして真剣に考えない方がいいですね。
 この作品は、みなさん言っているように、ミステリというよりは、主人公とルンババの成長物語といった方が正解ですね。予想に反してとてもおもしろく読むことができました。
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煙か土か食い物 講談社文庫
 舞城王太郎さんのデビュー作にして第19回メフィスト賞受賞作です。舞城さんの作品の中では一番読みやすいといわれている「世界は密室でできている」を読んだあとなので、割とすっきりとあの舞城さん独特の文体に入っていくことができました。相変わらず(というより、これが最初なのですが)読点が少なく、改行が少ない文章で、見ただけで読むのが嫌になってしまいそうですが、読み始めると、不思議なリズム感があって、どんどん読み進むことができます。
 アメリカ、サンディエゴ病院の外科医・奈津川四郎は、母親が殴打され負傷したという連絡で、故郷福井に戻ってきます。そこでは主婦ばかりを狙った連続殴打事件が発生しており、母親はその犠牲者の一人になっていたのです。被害者は殴打されたあと頭にビニールを被せられ、自宅近くに埋められるという異様な事件でした。
 四郎は、学友の警察官僚や検事を利用しながら自分自身で事件を解決しようと奔走します。そして、「世界は~」を先に読んでいる人は「おお!」と思うのですが、あの番場潤二郎が登場し、あっと驚く結末へと一気に突っ走ります。
 被害者、そしてその埋め方による変な暗示、密室からの人物消失等があり、ミステリかと思いきや、四郎が解き明かす事実には「え!」と思ってしまいます。まあ、謎の解決なんてこの人にとっては、この程度で良いのかもしれません。そんなことより、この人の魅力は、あのリズム感溢れる文体で暴力や非常識の世界を一気に読ませてしまうことなのでしょう。特に、最後の血のバトルなんて、舞城さんの文章でなければ閉口していたかもしれません。
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みんな元気。 新潮社
 表題作を含む5編からなる作品集です。表題作は不思議な話です。主人公は同学年の姉(双子ではないのに7ヶ月で生まれてしまったために、姉と同学年になってしまったという愉快な設定。まあ全くあり得ないという話ではないけれど)と、弟妹がいる6人家族。姉と妹は寝ているときに宙に浮かぶことができるというとんでもない能力を持っています。ある日、空飛ぶ家族が突然侵入し、女の子が欲しいからと、妹を連れ去り、代わりに男の子を置いていきます。
 この話、いったい何なんだ、空飛ぶ家族に子供の交換なんて、とんでもない理不尽な話で始まります。「世界は密室でできている」、「煙か土か食い物」と読んできましたが、一番よくわからない話でした。あの改行の少ない、独特のリズム感を持った文体には慣れてきましたが、展開がスピーディなうえに話が突拍子もなくて、ついていくのがやっとです、というより何がなんだかわからないというのが正直なところでした。特にラストの空飛ぶ家族の家での相変わらずの血の流れる場面、そしてよくわからない人物関係(Aさんが突然Bさんになるというような)には参りました。
 他の作品も理解が難しいです。この中では一番わかりやすかったのは「我が家のトトロ」でした。
 舞城作品をこの作品集から読んだら、読まず嫌いになるおそれがあるのではないかと思ってしまいます。僕の場合は、舞城作品中で最初に購入した本ですが、読み始めて2、3ページですぐに断念して積読本のままでした。その後「世界は~」を読んでから再度挑戦したのがよかったみたいです。

 「ふすかーふすかーと寝ていて」「ぶぶすと笑って」「くしししひとしきり笑って」「ぶふうと笑う」「どへどへどへどへと廊下をこっちにやってくる足音」 これは、この作品の中にある擬声語です。ちょっと抜き出しただけでも、これだけあるのですが、この人の擬声語は、どこか変わっています。舞城さんの感覚ではこんな感じなんでしょうか。これに慣れるだけでも大変です。
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阿修羅ガール 新潮文庫
 舞城作品を読んだのはこれで4作目。三島由紀夫賞受賞作です。
 正直のところ、三島由紀夫賞といえば文芸春秋社の芥川賞の向こうを張って新潮社が創設したものなので、いわゆる純文学というお堅いイメージの作品に贈られるのではないかという思いこみがあったのですが、この作品にですからねえ。すっかり、イメージ変わりました。
 ハードカバーの発売当時、表紙を開いて読み始めてびっくりしてしまいました。“顔射”ですものねえ。まあ最近の女子高校生を描いているとすれば、これもありかなと思ったのですが、ぱらぱらとページを開いていったら、目に飛び込んできたのが、通常の文章のポイントよりはるかに大きなポイントの文字。こりゃ、いったいなんだと、それだけで、三島賞受賞作品と聞いても、読む気持ちになりませんでした。読まず嫌いだったのですねえ。
 今では、あの独特のリズムの、句読点の少ない文章には慣れました。やはり舞城さんの魅力は文章のリズムでしょうか。今回の作品でも、書き出しの文章から惹きつけられてしまいます。「減るもんではねーだろとか言われたのでとりあえずやってみたらちゃんと減った。私の自尊心。」この一文だけで、続きを読みたくなってしまいます。
 主人公の女の子の片思いの話かと思えば、三つ子を殺すグルグル魔人、調布で起こるアルマゲドン、キッチン狩りという中学生狩りの話から、突然童話のような話が始まったりして、相変わらずの舞城ワールドです。なんだか、話の中身がよくわからないままに一気に読んでしまいました。結局この話は、何だったのでしょうか。
 それにしても、最初から“顔射”では、娘にはこの本は見せられないなあ。
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熊の場所 講談社文庫
 表題作の「熊の場所」、「バット男」、「ピコーン!」の3作品からなる短編集です。今まで読んだ「煙か土か食い物」、「世界は密室でできている」らの、一つの文がやたらと長いという特徴的な文体に比べると表題作の「熊の場所」は、文章は割と簡潔で読みやすくなっているという印象を受けます。舞城さんにしては、割とおとなしい文体です。物語は、同級生まーくんの鞄の中から出てきた猫の尻尾を見た主人公が、その意味のわからぬ恐怖にどう対峙していくかという話です。恐怖を消し去るには、その源の場所に、すぐに戻らねばならないという主人公の父親の言葉には思わず納得させられますね。的を射た言葉です。3作品の中では一番の好みでした。「バット男」はすれ違う愛と暴力を描いた作品。最後の「ピコーン」は今までの舞城さんどおりの作品です。一つの文章が長く読みにくいかと思えば、たたみかけるような文章が意外と頭の中にすんなり入ってきます。性的な言葉が羅列されるところも同じです。ちょっと子供には読ませられない作品ですけどね。
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深夜百太郎 入口・出口  ナナクロ社 
 舞城さんがツイッター上で毎晩一話ずつ発表した百話のホラー、怪異譚を五十話ずつ「入口」、「出口」の2巻に分けて刊行したものです。物語の舞台として東京の調布市と福井県西暁町(ウィキペディアで見ると、舞城作品によく登場する架空の町だそうです。)が交互に登場します。
 もちろん、作品の体裁は、夜に数人が集まって100本のろうそくに火をつけ、怖い話を1話語るごとにろうそくの火を1本づつ消していき、最後の100本目が消えたときに妖怪や幽霊が現れると言われる“百物語”を模したものですから、基本的に怖いお話ですが、実は読んでいくと内容は様々だということがわかります。幽霊あり、妖怪あり、おどろおどろしい怪物あり、更には異世界ありと色々な方面から読者を怖がらせてくれますし、怖いというより不可思議な世界の話といったものもあります。また、中には泣かせる話やちょっと笑いの要素の入った話もあります。ただ、どれも舞城流というか、以前舞城さんの「煙か土か食い物」や「世界は密室でできている」を読んだときに感じた「これが、舞城さんの文章か」という独特な雰囲気が各話に流れています。怖い話のジャンルも、主人公がラストはなぜか納得しているというような終わり方で、実はそれほど怖くはありません。
 その中でも、正統派のホラーである三太郎「地獄の子」、二十三太郎「隣の豚」、三十六太郎「横内さん」、四十七太郎「客が一人のバス」、六十一太郎「カラスの神」、七十三太郎「出戻りの家」、八十二太郎「電車停車中」は怖いです。泣かせる話としては五十一太郎「ベランダの彼氏」、七十太郎「保留中の黒電話」が印象的です。九十八太郎「寝ずの番」は、収録作の中で一番長い映画のような大スペクタル巨編という感じの1編です。
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私はあなたの瞳の林檎  講談社 
 久しぶりの舞城王太郎さん、2カ月連続刊行の1作目、「恋編」だそうです。雑誌発表の2編と、今回書下ろしの1編、計3編が収録された中(短?)編集です。舞城さんの作品にしてはおとなしい文章で、割と読み易い作品になっています。「恋編」ということで、収録されている3編とも若い男女の恋を描いていきます。
 冒頭に置かれた表題作の題名は「あなたは僕にとってかけがえのない(大切な)人だ」というような意味の「you are the apple of my eye」という英文の慣用句をもじったものでしょうか。女性目線にひっくり返した割には、語り手は男の子です。内容をひとことで言えば、戸ヶ崎直紀という男の子が小学校5年生の時に遭遇したある出来事をきっかけに好きになった同級生の鹿野林檎を一途に想い続ける話です。名前が「林檎」だから、この慣用句というのが、ちょっといいですね。彼女と同じ高校に入るために試験の結果を調整したりまでするのだから、この一途な思いは凄いなあと感心します。衒いもなく林檎に好きだと言うし、振られても関係なしに好きだと想い続けるし、一歩間違えばストーカーと思われても仕方ないところですが、彼女の方もそこはあまり気にしないという不思議な関係が続きます。ラスト、あれほど直紀の好きだという想いをはぐらかしていたのに、直紀がほかの女性と交際すると告げたときの林檎の反応は恋とは不思議なものとしか言いようがありませんが。
 3編の中では、この表題作が個人的には一番ですが、そのほかの2編、「ほにゃららサラダ」は何をしたいかはっきりしない美大生の松原さんが才能ある男子学生に恋する物語、「僕が乗るべき遠くの列車」は自分が生きることに価値があるのかと考える中学生にしては理屈っぽい主人公・倉本くんの恋の物語です。「ほにゃららサラダ」の“ほにゃらら”の部分は題名でははっきり書くことができなかったのでしょう。ちょっと連呼されたら具合が悪いですし。「僕が乗るべき遠くの列車」では倉本くんを巡る鵜飼夏央、菊池鴨の関係性が何とも言えません。こんな好きなのかどうなのかはっきりしない男女関係が今の高校生にあるのでしょうか。それにしても、“鵜”に“鴨”とはねえ。なんて名前をつけることやら。 
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短篇七芒星  講談社 
 題名が漢字二文字で統一された7編が収録された短編集です。ミステリタッチのもの、ホラータッチのものと内容は様々です。
 相変わらず、舞城作品は分かりにくいです。その中では一番わかりやすかったのは冒頭の「奏雨」でしょうか。生きたまま足を切断された殺害事件、1件目は足を切断された後助けを求めて逃げるが、人家にたどり着く前に出血多量で死亡、2件目は止血しようと足をベルトやシャツで縛ったが、その場で死亡、3件目は切断面を焼いて止血しようとしたが火事になって焼死という3件の意見が発生する。
名探偵は登場しますが犯人捜しのミステリではありません。なぜそんな事件が起こったのかを解き明かすストーリーとなっています。映画の「ソー」を知っているが故に起こる事件で、名探偵からの説明を読んで、なるほどと思ってしまいました。
 「狙撃」は狙撃手の撃った弾が突然行方を消し、後日遥か離れたところで死んだ悪人の身体から発見されるという摩訶不思議な話。これまた、原因が明らかになる訳ではありません。
 「落下」はある団地に引っ越してきた家族の話。団地から飛び降り自殺があってから、同じ時間に「ドーン」と人が飛び降りる音がするようになる。更には廊下に黒い影が・・・。ホラーテイストの作品ですが、最後に父親による一応の謎解きがなされます。
 「雷撃」は幼い頃河原から拾ってきた石に懐かれる男の話。男のあとを犬のようについていくだけならともかく、男がいじわるされたりすると、相手を成敗しに行くのだから始末が悪いです。
 「代替」は神の視点からある犯罪者を見ていた“もの”が、あることをきっかけにその男に成り代わるという、これまた摩訶不思議な話です。結局、その存在はなんだったのでしょうか。
 「春嵐」はカノジョの弟が変な集団に拉致されたのを助けに行って大けがをした兄に代わっていなくなった犬を探しに行く妹の話。これはいったい何を言おうとしているのか。
 「縁起」は娘から生まれてくるときに豚に邪魔されて弟を連れてこれなかったと話された父親が、豚に対峙する話です。これまた、いったい豚って何と思ってしまいます。
 ここまで書いてきましたが、やはり振り返っても舞城さんは理解しがたいです。 
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