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前川裕の本棚

  1. クリーピー

クリーピー  光文社
 6月に西島秀俊さん、香川照之さんのコンビで映画化される作品の第15回日本ミステリー文学大賞新入賞受賞作です。
 主人公・高倉は46歳の犯罪心理学の大学教授。ある日、高倉の家に高校時代の同級生で刑事の野上が8年前に発生した一家3人失踪事件の犯罪心理学者としての意見を聞きたいと訪ねてくるが、その日を境に野上は行方不明となる。それからしばらくして、向かいの家で火災が発生し、焼け跡から3人の死体が発見され、一人が野上だったことが判明する。野上にはサラ金に莫大な借金があったことから、強盗に入って家人を撃ち殺してしまい、罪の意識から自殺したのではないかと警察は考える。一方、4人家族といいながら妻や息子の姿が見えない隣の西野家の様子が気になっていた高倉だったが、ある真夜中に西野家の娘が高倉家に助けを求めてくる。娘が言うこは西野は父親ではないという・・・。
 昔は近所に住む人がどういう人であるかは、それぞれが知っていましたが、今では近所づきあいも薄くなり、「隣は何をする人ぞ?」と、都会ではもちろん、地方であっても隣りにどんな人が往んでいるかも知らないという状況になっています。
 こうした状況では、この作品で描かれる事件が起こっても不思議ではありません。先日、2年前に失踪した少女が監禁していた男のもとから逃げて保護されるという事件がありましたが、近所ではやはり女の子が住んでいたとは知らなかったそうですから、実際に起こりうる事件だということを実感してしまいました。
 西野という男が、実は西野という人物ではなく、肉体的、精神的に他人を支配するとんでもない人物だったことが明らかになってきます。こんな人物が隣にいたら恐いですよねえ。映画では香川照之さんが演じるようですが、雰囲気的に香川照之さんの西野役はぴったり
です。題名の“クリーピー”とは、“虫が這いずり回るような”という意味が転じて“気味が悪い”という意味になったそうですが、まさにこの西野という男の感じがまさに“クリーピー”です。
 読んでいて思ったのは、主人公・高倉が、いい歳してゼミの女子大生・影山燐子に心惹かれる中年男の典型だということ。犯罪心理学者のくせに考えが浅はかでイライラしてしまいます。映画では西島秀俊さんが演じますが、彼だと原作のような男ではなく、切れ者のかっこいい男を演じそうです。
 ストーリーは先を想像させない展開に、ページを繰る手が止まらずいっき読み。まさか、こういう落としどころになるとは予想外でした。 
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