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京橋史織の本棚

  1. 午前0時の身代金

午前0時の身代金  新潮社 
 小柳大樹は新倉美里法律事務所の若手弁護士。ボスの美里千春から依頼人・本條菜子の相談を任されたが、彼女の相談というのが、友人の恋人である川崎に頼まれ、知らぬ間にオレオレ詐欺の受け子をしてしまったというもの。更にそれを咎めた友人を川崎は暴力をふるって死なせてしまったことから、復讐を誓った菜子は、ある会社の社長の鞄を盗むという川崎が請け負った仕事を妨害しようと、自分が鞄を奪い、川崎たちに追われているところをタクシーで通りかかった美里に救われたと話す。相談の結果、警察に自首することとなったが、菜子はその夜、大樹が目を離したわずかな間に姿を消してしまう。翌朝、菜子の身代金を要求する脅迫状がIT企業サイバーアンドインフィニティ社(CI社)に届く。身代金の額は10億円。それを同社が運営するクラウドファンディングのサイトで、一般から募集しろという要求だった。奇しくもCI社は美里の顧問先であり、その対応に美里とともに大樹も加わるが・・・。
 第8回新潮ミステリー大賞受賞作です。近年、資金集めにクラウドファンディングの手法が取られることが多く見られますが、この作品では誘拐の身代金をクラウドファンディングで調達しろと犯人が要求するという、ある意味非常に現代的な事柄を扱った作品です。また、菜子の父親が有名なテレビ・キャスターだったことから、ネットにクラウドファンディングをする必要がないと否定的な意見が出て申し込みが鈍ったりするなど、情報の伝達が即時なのも、今らしいです。
 フリーの記者が誘拐事件の目的はCI社にあると言ってきたり、なぜか美里が隠しごとをしていたりと、単純な誘拐事件にとどまらない謎があって、飽きさせません。最後は驚きの展開で、想像もしていませんでした。 
 わずかな出番ですが、人を疑うことをせず投資詐欺事件に巻き込まれて刑務所生活を送った大樹の兄が登場しますが、現在の様子が何だか闇の世界に精通している人物になっていて、そのキャラがちょっと予想外でした。 
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