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黒武洋の本棚

  1. そして粛清の扉を
  2. パンドラの火花

そして粛清の扉を 新潮社
 「バトルロワイヤル」という小説が、中学生が殺し合いをするという内容が問題となって、確か某社のホラー小説大賞の選考から漏れたことがあったが、こちらは衝撃的ということでは「バトル・ロワイヤル」に引けはとっていないが、見事に新潮社の第1回ホラーサスペンス大賞を受賞した。
とにかく、衝撃的な内容だ。なんと、ある高校で担任の女教師が生徒を教室に閉じ込め、殺していくという話なのだから。それぞれの生徒には女教師が殺そうとする理由がある。もちろん、今の法治国家のなかで、私人が自ら手を下すことは殺人であり、許されることではないが、実際この女教師の立場に立てば、そう思うことは止められないかもしれない、もちろん、実際に行動に移すかどうかは別問題である。そのために、法があり、最終的には加害者には死刑という刑罰が待っているのだから。ただ、最近は死刑廃止論もあり、裁判所も死刑判決を出すことに慎重になりすぎている嫌いがあり、加害者側の人権ばかりが過大に養護されている気がするのは、僕だけだろうか。
 それにしても、いくら復讐といっても、一介の教師であった女性が、あんなに拳銃やナイフを使えるようになるのだろうか。ちょっとそのあたりは無理があると思うが。
いろいろ考えさせる小説ではあるが、一気に読み終えることができた。
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パンドラの火花 新潮社
 かつて凶悪犯罪を犯し死刑を宣告された者が、タイムトラベルにより、自分が犯罪を犯した過去に遡り、説得して犯罪を犯すのを思いとどまらせようとする。期限は3日、うまくいけば釈放、駄目な場合は死刑が執行される。
 僕の好きなタイムトラベルとミステリーの融合した作品です。果たして過去に戻って自分自身を説得できるのか、自分に置き換えて考えてみると、とてもそんな自信がありません。そもそも目の前に現れた男が未来の自分だ、おまえはこれから凶悪事件を起こすと言われても、信じられそうにありません。それに死刑囚で過ごしている間に自分の罪を悔い、人を説得できるほどの人間になることができるのかも大いに疑問です。きっと、死刑になりたくなくて、徒に若き自分に懇願したり脅したりと、みっともないところを晒してしまいそうな気がします。
 タイム・トラベルといえば、タイム・パラドックスをどうするかということですが、この作品ではあまりそのことには重きを置いていないようで、えっ?と思ってしまうところがありましたが、そのあたりの説明は細かくされていません。ストーリーとしては重要でないと作者は考えたのでしょうか。
 話は若き頃の自分自身に対峙した一人の死刑囚の人間ドラマかなと最初は思って読んでいましたが、最後の方では○○が自己の存在意義に悩むという話になってしまいました。結局テーマは何だったのでしょうか。 いったい主人公は誰だったのでしょうか。

※未読ですが、物語の世界が作者の別の作品との繋がりもあるようですね。
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