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黒野伸一の本棚

  1. 万寿子さんの庭
  2. あさ美さんの家さがし
  3. 国会議員基礎テスト

万寿子さんの庭 小学館文庫
 よく行く本屋さんで、店員さんのおすすめの本としてポップを立て、販売に力を入れていた作品です。作者の黒野伸一さんの名前はその時まったく知らず、ポップが立てられていなくては、たぶん手に取ることもなかった作品です。
 幼い頃から斜視であることにコンプレックスを持っている京子と、彼女が就職を機に引っ越した近所に住む変わり者のおばあさん、万寿子との交流を描いた作品です。
 万寿子は、京子が通りかかると、「寄り目!」と言ったり、小学生の悪戯っ子のように背中に悪口を書いた紙を張り付けたりと、典型的な"いじわるばあさん"。男性との付き合いが苦手な京子が、なぜかそんないじわるばあさんとは友達関係になっていきます。単なる年寄りと孫娘という関係でなく、年齢を超えた対等の付き合いです。二人でデパートにワンピースを買いに行く場面での二人の様子は最高に素敵です。しかし、その歳の差はしだいに老いという残酷な事実に二人を直面させるのですが・・・。
 京子が心魅かれる男性二人のどちらを選ぶのだろうという、京子の恋物語もまた楽しませてくれます。
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あさ美さんの家さがし  ☆   河出書房新社 
 両親と住む家を出てマンションの購入を考える元銀行員で場末のキャバクラの32歳のbPキャバ嬢・あさ美の話を冒頭とラストにおいて、その間に高級住宅地の“あさ美野”に1年前に居を構えた邦彦、真面目一辺倒だった夫が女装に目覚め、同じく真面目一辺倒だった銀行勤務の娘はキャバ嬢に転身し、家の中がすっかり冷えている主婦の洋子、自動車整備工の譲二と彼が住むシェアハウスに新たに入居することとなったデパートの総菜売り場に勤める唯、古くなった家を修繕しようと夫に話を切り出したら、家を売ってキャンピングカーで日本全国を旅しようと提案する夫に呆れる亮子をそれぞれ主人公に、彼らが一生懸命に生きる姿が描かれていきます。
 どの話も家族と家をモチーフに話が進んでいきます。自分を愛していると思っていた男に騙されたり、夫が定年間近にして女装趣味に走ってしまったり、高級住宅地に引っ越したら妻が周囲に見栄を張るようになって家庭が崩壊したり、結婚をし子どももでき家を購入したとたんに夫がリストラにあったり、年金生活の夫がキャンピングカーで日本全国旅をしようなんて馬鹿げたことを言い出したりと主人公たちはそれぞれ様々な問題を抱えています。でも、主人公たちはいろいろ悩みながらも、最終的にみんな後ろ向きにならずに前を見て進んでいこうとする明るいストーリー展開になっており、読了感は最高です。
 「終の棲家」では最近現実に問題となっている住宅地の保育園建設問題が取り上げられていますが、この結末はちょっとスカッとします。 
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国会議員基礎テスト  ☆  小学館 
 黒部優太カは栃木で三世代続く国会議員。イケメンで女性にもてる優太カは議員の仕事を政策秘書の橋本にまかせて遊びほうけてばかり。橋本はキャリアの官僚だったが、東大出身ではないことから傍流であることに嫌気がさし、大物議員の世話で優太カの父、そして優太カが後を継いでからは優太カの政策秘書となった。しかし国会そっちのけで女性と遊び回る優太カを見て、橋本は彼を追い落とし、自分がその地盤を引き継いで国会議員となろうと画策する。
 物語は、橋本の画策によって議員を辞職することになり、普通の人となった優太カが、介護や貧困、更には過疎の現場に身を置くことによって、再び国会議員を目指す姿を、国会議員には議員に相応しい知識が必要だと国会議員になるための試験制度を導入しようとする橋本の姿を絡めながら描いていきます。
 各章が問題形式になっており(例えば「国会議員の歳費について述べよ」といった具合)、章の中でその回答が具体的に描かれるので、なるほどこういうことかと、非常にわかりやすく政治のことが頭に入ってきます。
 また、初当選の時「高級料亭で接待受けたい」とアホなことを言っていた議員や政務活動費で追及されて号泣した県議、不倫をする若手議員等々、どこかで聞いたことのあるような議員の話もでてくるので、読んでいて飽きません。首相のお友達が犬学を作るという話は、ついこの前にも現実にありましたよねえ。
 この作品を楽しく読みながら国会議員の在り方と現在の政治の状況がわかるという、希有な作品です。ラストはちょっと楽天的すぎるかなという嫌いはありますが、少しは未来に期待をしたいですね。 
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