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倉知淳の本棚

  1. 過ぎ行く風はみどり色
  2. 日曜の夜は出たくない
  3. 星降り山荘の殺人
  4. 猫丸先輩の空論
  5. なぎなた
  6. 壺中の天国 上・下
  7. 皇帝と拳銃と
  8. 豆腐の角に頭ぶつけて死んでしまえ事件
  9. ドッペルゲンガーの銃
  10. 月下美人を待つ庭で
  11. 世界の望む静謐
  12. 恋する殺人者

過ぎ行く風はみどり色 東京創元社
 傍若無人の名探偵猫丸が活躍する最初の長編作品である。名探偵といえば、最近では島田荘司の御手洗潔、有栖川有栖の火村英生、笠井潔の矢吹駆、それに森博嗣の犀川創平など、とにかくかっこいいという印象が強いのであるが、この猫丸は、見た目は小柄で童顔、ぶかぶかの服、猫の目のように動く大きな丸い目といった、「かっこいい」という印象にはほど遠い名探偵である。
容姿端麗の名探偵が鮮やかに事件を解決するなんて当たり前すぎる。こんなユニークなキャラの探偵がいてもいいんじゃないかなあ。
 事件は引退した不動産業者が離れの一室で殺害されることから始まる。その後その主人の霊を呼び出そうとした霊媒が降霊会の最中に殺されるという事件が起きる。ここにいたって、主人の孫の大学の先輩である猫丸がいよいよ事件に顔をつっこんでくる。
 この作品は単行本で読み、今回文庫化に際して改めて読んでみたが、二度目だったため初めて読んだときには分からなかった著者が読者をミスリードしていく記述がよく分かり、楽しく読むことができた。読者は著者にゆめゆめ騙されることなかれ!
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日曜の夜は出たくない 創元推理文庫
 倉知さんのデビュー作にて、猫丸先輩シリーズ第1弾です。小柄で童顔、仔猫みたいなまん丸い目をした小男で学生時代からの伝説の奇人変人。その興味の赴くところ何にでも首を突っ込みたがる。やることがまるで首尾一貫していない無茶苦茶な人で、おまけに口達者で人を煙に巻くのが大好き。こんなおよそ名探偵というイメージとはほど遠い人物が、事件の謎を推理します。 本作品は7編からなる連作短編集ですが、7編の後の「誰にも解析できないであろうメッセージ」により7編に隠されている謎が明らかにされたと思ったら最後に「蛇足―あるいは真夜中の電話」によりまた違う謎が明らかにされるという体裁をとっています。でも、2編もあるというのはちょっとしつこすぎかなという感じがします。ミステリの連作短編集では、最後の作品で「あ!今までの物語はこんな関係があったんだ。」と納得して終わりというのがスマートだと思うのです。せめて1編だけで良かったのでは。
 とはいえ、愛すべき名探偵の登場です。
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星降り山荘の殺人 講談社文庫
 上司を殴ってしまった杉下は左遷され、スターウォッチャー(なんだこれ?)である星園のマネージャーとなります。仕事で山奥のさびれたコテージ村に行きますが、そこで殺人事件が起きます。杉下は星園とともに犯人を捜そうとしますが・・・。
 いわゆる嵐の山荘(この場合雪の山荘ですが)ものです。各章の始めに作者の言葉が入ります。作者から読者に対する挑戦です。きちんと読んでいけば犯人がわかるということですね。登場人物がそれほど多くないので、犯人を指摘することができるかと思いましたが、残念ながら僕にはわかりませんでした。最後はそうきたかという感じです。動機は「へぇ~、そんなことで人を殺すの?」と思ってしまいますが、結局この作品は、動機は関係なく示された手がかりだけで読者が犯人を指摘することを目指したものなのでしょう。
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猫丸先輩の空論 講談社ノベルス
 猫丸先輩がさまざまな謎を解決する6編からなる短編集です。今回も前作の「猫丸先輩の推測」と同じように各短編の題名は、他のミステリー作品の題名をもじっています。
 今回、猫丸先輩が解き明かす謎は、ベランダに毎日置かれるペットボトル、いたずら電話で続々と呼び出されるタクシー、浜辺の密室状況のテントの中で割られたスイカ割り用のスイカ、大食いチャレンジの焼き肉を前に姿を消した挑戦者、一人残業する会社で鳴る電話と、すべていわゆる“日常の謎”といわれるものです。ここでは殺人事件が起きるわけではありません。日常のちょっとした不思議を猫丸が解き明かす話です。ただし、猫丸先輩の推理が果たして真実かどうかは明らかとされません。それも1つの解決だと提示されるだけです。この点、第1話の「水のそとの何か」を読むとよくわかります。「ふ~ん、そうかあ、そういうことだったのかあ」と思ったら・・・。
 このシリーズの魅力は、なんといっても探偵役を勤める個性的な猫丸先輩にあります。30過ぎらしいのに、定職は持たず、小柄でいつも体に合わないダブッとした上着を着ていて、仔猫じみたまん丸の大きな目。長い前髪が眉の下までふっさりと垂れた年齢不詳の男。ところが、見た目からは想像できないくらい口は悪く、後輩の八木沢などはいつもぼろくそに言われています。このギャップがなんともいえません。また、そんな猫丸にいつもバカにされている八木沢たち後輩のキャラクターも愉快です。
 あまり肩肘張らずに、のんびり寝ころんで楽しむことができる1冊です。

 ちなみに、「水のそとの何か」は 若竹七海「心の中の冷たい何か」を、「とむらい自動車」は大阪圭吉「とむらい機関車」を、「な、なつのこ」は加納朋子「ななつのこ」を、「魚か肉か食い物」は舞城王太郎「煙か土か食い物」を、「夜の猫丸」は北村薫「夜の蝉」(これはちょっと自信ありません)をもじった題名と思うのですが、3話目の「小ねこを救え」は何をもじったものでしょうか。
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なぎなた 東京創元社
 2冊同時刊行された倉知淳さんの短編集の1冊です。倉知さんといえば、猫丸先輩シリーズですが、これはすべてノン・シリーズの7編を収録した作品集です。「なぎなた」という題名は内容とは何ら関係のないようです。
 正直「これは!」と思う作品はなかったのですが、中では「闇ニ笑フ」が一番です。誰もが顔をしかめる残虐シーンが続く映画を観て微笑んでいる女性がいる。彼女はなぜ、そんな残酷なシーンを観て微笑むのか。ラスト1行で、その理由を明らかにされますが、なるほど!と唸らされた作品です。
 「見られていたもの」も意外に楽しめた作品です。作者がミステリ入門編として書いたものだけあって、ミステリにはよくあるパターンの作品です。
 あとは、倒叙ものの「運命の銀輪」に猫好きの人に「眠り猫、眠れ」と「猫と死の街」など。「眠り猫、眠れ」のラストは、主人公の思うように、それは主人公の妄想ですと思わざるを得ない謎解きです。ちょっと勘弁してよと言いたくなってしまいます。
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壺中の天国 上・下 創元推理文庫
 第1回本格ミステリ大賞受賞作です。
 架空の地方都市・稲岡市。そこに住むシングルマザーの牧村知子は、父と10歳になる娘との三人家族。クリーニングの配達のパートをしながら盆栽というその歳の女性としてはちょっと変わった趣味を楽しみながら平和な日々を過ごしていた。そんな稲岡市内で連続して殺人事件が起き、知子も事件の騒動の中に巻き込まれていく。
 犯行のあとに必ず出される犯人と称する者からの「電波の受信を妨害された」という怪文書。さらに、ときどき挿入されるオタクらしき人物のひとりごと。いったい、この怪文書は何なのか、ひとりごとを言っているのは誰なのか。犯人はもしかしたらあの人か?と読者に考えさせながら物語は進んでいきます。
 それにしても、この怪文書、句読点もないうえにどこか頭のねじが緩んでしまったような人が書いたと思われる文章で、読みにくいことといったらありません。ラストで名探偵役のある人物が犯人を推理します。その過程は非常に論理的ではあるのですが(そのあたりが本格ミステリ大賞を受賞した理由だと思うのですが)、それがこの読みにくい怪文書を読み解くことにあるのですから、これは倉知さん、勘弁してくださいと言いたくなります。
 犯人についても、驚きというものはありません。「え!この人だったの」というラストを期待していたのですが、拍子抜け。そのうえ、一番の謎といえる、女子高生、家事手伝い、主婦、老人という、―見ばらばらな被害者たちをつなぐ犯行動機ときたら、これには開いた口がふさがりません。
 謎解きよりは、事件の中での主人公の知子を始め、父親の嘉臣、娘の実歩、実歩の絵の先生である正太郎らの特色あるキャラでおもしろく読むことができた作品です。
 題名の「壺中の天国」は、中国の故事からとったもので、俗世を忘れさせる理想郷、別天地、別世界とかのことだそうです。
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皇帝と拳銃と  東京創元社
(ちょっとネタバレ)
 ひょろりとした長身、痩せすぎの体躯、削ぎ取ったように痩せた頬、鋭角的に鋭い顎、悪魔を思わせる鉤鼻、尖った大きな耳、虚無の深淵を覗き込むがごとく陰気で表情の感じられない瞳、黒いスーツに黒っぽいネクタイという見れば見るほど“死神”と形容するのがぴったりでありながら乙姫というアンバランスな名前を持つ警部と二枚目のイケメンながら鈴木というありふれた名前の刑事のコンビが犯人の犯行を暴いていく4編が収録された作品集です。
 形式としては倒叙ミステリーという形を取っていますが、読者には犯人は明らかにされていても犯行方法等が隠されている部分があり、乙姫刑事が徐々に犯人を追い詰めて最後にその犯行を明らかにするというパターンとなっています。
 冒頭の「運命の銀輪」は、既刊の短編集「なぎなた」に収録されていた作品です。小説の共作者の一方が他方を強盗に見せかけて殺してしまう話ですが、内容をすっかり忘れていたとおり、あまり印象的な作品ではありません。犯行現場に行くために使用した自転車が鍵となるのですが、決め手となるある数字は、あまりにできすぎです。
 表題作の「皇帝と拳銃と」は、大学内での権力者で皇帝と称される主任教授が犯人。大学の事務員が工事のために校舎と校舎の間に渡してある仮説の橋から転落死する。犯人はどうやって橋を渡らせることができたのかが読者にも伏せられた謎となっています。
 「恋人たちの汀」は、は小劇団の主宰者が犯人。金貸しの叔父から恋人である女優を愛人として差し出さなければ貸した金を返してもらうといわれ、殺害してしまう。消臭スプレー好きの叔父というところが発覚の鍵となりますが、論理的に犯人を追い詰めていく過程が秀逸です。個人的に収録作の中ではこれが一番です。
 「吊られた男と語らぬ女」は、カメラマンの女性が犯人(犯人と言っていいのか。)。首吊りに使用したロープがなぜ取り替えられていたのか。それにより自殺ではなく他殺ということが判明してしまったのに、犯人はなぜそうしたのかがメインの謎です。犯人の行動は僕にとっては理解の及ばぬところですね。
 それぞれの題名は、どうもタロットカードに由来するようであり、であれば、まだまだ死神警部のシリーズは続きそうです。 
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豆腐の角に頭ぶつけて死んでしまえ事件  実業之日本社 
  6編が収録された短編集です。内容は倉知さんのシリーズ作品の主人公である猫丸先輩の活躍を描く作品からアガサ・クリスティー作品を彷彿させるものやSF的要素の入った作品まで種々雑多です。  
 冒頭のクリスティの「ABC殺人事件」を下敷きにした「変奏曲・ABCの殺人」は、Aで始まる名前の町でAで始まる名前の人物が殺され、更にBで始まる町でBで始まる名前の人が殺されるという奇妙な一致に気付いた男が、それを利用して殺人を犯そうとする話です。予想外の展開からあることに男が気づくラスト1行が怖いです。
 「社内偏愛」は、人事管理をコンピューターに委ねている近未来が舞台のミステリではない作品です。コンピューターにひいきされた男の毅然とした行動に対し、ラストのオチがちょっとかわいそうな1編です。。
 「薬味と甘味の殺人現場」は、パティシエの専門学校に行っていた女性が殺害された事件を推理する刑事コンビが描かれます。殺害された女性は、口には長ネギが突っ込まれており、顔の周りにはケーキが置かれていたという奇妙な状況で殺害されています。推理した動機の異様さには恐ろしさを感じます。ストーカーの心の内はまったく理解できません。
 「夜を見る猫」は、祖母の家に休暇を取ってやってきた孫娘が真夜中の飼い猫のミーコの様子からある事件に気付く話です。実はこのミーコ、事件の解決だけでなく孫娘にとっても重要な役割を果たしていたことが明らかにされます。事件よりもそちらの方をより描きたかったのかな。
 表題作である「豆腐の角に頭ぶつけて死んでしまえ事件」は、戦時中の陸軍の研究所が舞台。研究室で死んでいた兵士の頭の周りに豆腐が無残にも形を留めず飛び散っているという、まさしく“豆腐の角に頭をぶつけたかのように”死んでいた事件を描きます。とんでもない強引な推理に唖然。
 ラストの「猫丸先輩の出張」は、企業の研究所を舞台に、研究室の室長が、密室状況下でバケツで頭を殴られた事件の謎に猫丸先輩が挑みます。相変わらず、遠慮ということがなく、どこにでも顔を突っ込もうとする猫丸先輩が愉快。この作品はコチコチのミステリです。
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ドッペルゲンガーの銃  文藝春秋 
 表題作をはじめ3編が収録された(最後の「それから」はエピローグ的な位置づけです。)ユーモアミステリ連作集です。
 水折灯里はミステリ作家を目指す17歳の女子高校生。老舗出版社の主催するミステリ短編賞の佳作に選ばれ、編集者から新作を求められているが、なかなかプロットが浮かばない。そのため、警察庁から警視庁捜査一課に出向している兄・大介から実際に起こった事件の話を聞いて、自分の作品のネタにしようとするが・・・。
 収録されているのは、密室となっていた蔵から殺害死体が発見される話(「文豪の蔵」)、東京の北と南でほぼ同時刻に同じ拳銃を使用した事件が起きる話(「ドッペルゲンガーの銃」)、雪が降り止んだ朝、ある資産家の離れの茶室で首を吊った資産家の死体が発見される話(「翼の生えた殺意」)の3話。
 行動力抜群で頭の回転が速い灯里と勉強はできて国家公務員総合職試験に合格してキャリア警察官となったものの、野のたんぽぽのようにボケーとしていて、警察官としての能力には疑問符がついてしまう兄の大介のコンビが事件を解決するのかと思いきや、びっくりの展開です。なんと大介の守護霊となっている7代前の祖先の霊が、大介に手柄を立てさせて、有力な上司の娘を嫁にもらって、ひいては水折家の繁栄を図ろうと、守護霊にとどまらずに大介の身体に乗り移って登場し、事件の謎を解き明かすというのが、この作品のパターンです。
 鍵のかかった蔵や周囲に雪が積もった茶室という密室状態での殺人事件という舞台設定はこれまでのミステリ作品にも同様なものがありましたが、解決は従来より捻りをきかせています。ただ、「翼の生えた殺意」の雪の上の足跡のケースですが、想像するとあまりにばかばかしすぎて、実際にあんなことができるのかは疑問です。
 3話の中では表題作の「ドッベルゲンガーの銃」の同時刻に同じ拳銃が使用されたという事件の謎解きが一番論理的で、おもしろかったです。 
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月下美人を待つ庭で  東京創元社 
 猫丸先輩シリーズ、15年ぶりの新作です。5編が収録された短編集です。15年も過ぎる中で世の中も変わり、今やスマホやSNSは当たり前の世の中になっていますが、猫丸先輩はこの時代の流れからは置いていかれているようです。そして、ヘビースモーカーの猫丸先輩には辛い、禁煙が当たり前の世の中になってしまいました。今作では煙草は口に咥えるけど火は付けないと言い訳をしています。 
 猫丸を先輩と呼ぶ八木沢が登場するのが冒頭の「ねこちゃんパズル」です。区民ホールの看板の底に貼り付けられたアルファベットの文字列が書かれた紙を持ち去り、交通量調査員や市役所の測量士と気軽に話をする外国人は何者かと疑問に思った八木沢に猫丸先輩が持ち出したのが“猫ちゃんパズル”。目をつむったままで10匹ずついる黒い猫と白い猫を別々のケージに入れるにはどうするかという方法を考えるものですが、この回答が八木沢の疑問に答えるものとはねえ。更には一つの回答を提示しながら、実はそういう考えもあるというだけと相手をからかうようなことを言うのですから八木沢もたまったものではありません。
 表題作の「月下美人を待つ庭で」は、亡くなったばかりの母が丹精込めて手入れをしていた庭に夜になると人が入り込んでくる謎を通りかかった猫丸先輩が解き明かすのですが、他の話と違って猫丸先輩の人をからかう口調がないのがいいです。個人的に一番気に入った作品です。
 そのほか、オカルト雑誌に寄せられたただの男を写しただけの写真が恐ろしい事実を表すことを猫丸が指摘する「恐怖の一枚」、変人の友人が玄関ドアのノブに下げていった袋の中にあったペットボトルの蓋の謎と、買物中に一時姿が消え、その後探している最中に繋いでいた場所に戻っていた愛犬の誘拐事件の意味が同じである「ついているきみへ」、台風が近づく海岸に残された海に向かう足跡の謎を明らかにする「海の勇者」が収録されています。
 表紙カバーに描かれた猫丸先輩は、これまでの講談社ノベルス(あるいは講談社文庫)の表紙カバーに描かれた猫丸先輩のイメージとはあまりにかけ離れています。やっぱりイメージにピッタリなのは講談社ノベルスの方ですねえ。 
 
世界の望む静謐  東京創元社 
 背が高くやせ型の体形、削ぎ取ったように痩せた頬、刃物で切り落としたごときシャープな顎、悪魔を思わせる鉤鼻、尖った大きな耳、虚無の深淵を覗き込むがごとく陰気で表情の感じられない瞳、ダークブラックのスーツに黒っぽいネクタイという見れば見るほど“死神”と形容するのがぴったりでありながら乙姫というアンバランスな名前を持つ警部と二枚目の超イケメンながら鈴木というありふれた名前の刑事のコンビが犯人の犯行を暴いていく4編が収録された倒叙ミステリシリーズ第2弾の短編集です。
 人気漫画の編集者である桑島は、出来上がった原稿を作者の椙田のマンションに取りに行った際、椙田から連載を終了したいと言われ、SNSでそれを発表しようとする椙田を止めようとして我を忘れて手近にあったハサミで刺殺してしまう。物取りの犯行に見せかけようとした桑島だったが・・・(「愚者の選択」)。
 往年の人気歌手・新堂尚也は今一度花を咲かせようとプロモーターの九木田に大金を払いプロモーションを依頼していたが、彼に騙されていたことを知り、逆上して絞殺してしまう。自分との関わりがあることを知られるのを恐れて、事務所のキャビネットにあった自分との契約書だけでなく、他の者とのすべての契約書を持ち出し処分するが・・・(「一等星かく輝けり」)。
 ライフスタイル・アドバイザーとして人気を博している鷹飼史絵は自分の秘書・宮内莉奈が夫と不倫しているのを知り、帰宅途中の公園で彼女を刺殺し、その犯行を夫にかぶせようと、夫のアリバイをなくすために匿名で夫を渋谷のクラブに呼び出し待ちぼうけをくわせていた・・・(「正義のための闘争」)。
 美術系大学の予備校の講師をしている里見冬悟は高校生時代に起こした事件をネタに性的関係を求めてきた予備校の事務員・砂川を殺害し、強盗の仕業に見せかけようとするが・・・(「世界の望む静謐」)。
 形式は倒叙ミステリで犯人は読者には分かっていますので、いかに犯人が見落とした点をついて乙姫が論理的に犯人を追い詰めていくのかに面白さがあります。
 犯人たちは、自分がいつから疑われていたのかを聞きます。最初に会った時からというのは刑事コロンボへのオマージュですね。 
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恋する殺人者  幻冬舎 
 沢木高文のいとこであるヨガインストラクターの志田真帆子が坂道の急階段から落ちて死亡する。事件は事故として解決を見せるかと思われたが、高文は真帆子の転落死の前に彼女から何者かにつけられているという訴えを聞き、ストーカーによる殺人ではないかと調べ始める。相棒は高校時代の同級生である来宮美咲。
 ストーリー展開自体は単純です。犯人の動機は好きな人を他人に奪われたくないために邪魔な人物を排除するというもの。まったく身勝手な考えですが。しかし、読者は犯人の視点が出てきたときには、倉知さんのミスリードに別の方向へと歩かされることになります。種明かしがされてから前に戻って読み直すと、なるほどなあと思うのですが、最初何の疑問もなく読み進んだのは倉知さんのリーダビリティの高さですね。 
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